第四十六話「第二ラウンド」
彼女は以前とは比べ物にならないほどに、異質だった。
体は異質の筋肉に包まれ、腕や足には機械的な補強装置。
全身から、魔力と科学の混合物のような不可解な圧力が溢れている。
「お前……死んだはずだろ……!」
「確かにね。 だけど、我が主――“博士”の手によって蘇ったの。 あの時は無かった感情も、その時の副作用で芽生えて、今の人生は本当に色鮮やかなの」
「っ……!」
「そこの耳無しエルフ、彼女には感謝しているわ。 博士の命令でやった事ではあるけれど、彼女は私に復讐の素晴らしさを教えてくれた」
「てめぇ……ッ!!!」
永和が立ち上がり、拳を震わせる。
その殺意に、カムイは楽しそうに笑った。
「ちょっと何? さっきまでイチャついてたくせに、急に怒らないで。 大丈夫、すぐにあんたも送ってやるから」
「ふざけるなあああああああッ!!!」
その絶叫が響いたときだった。
「永和ァ!! 今の声、まさか!!」
「急げ!!」
遅れて駆けつけてきたのは、ムラセル、ニイコタ、そしてガルザンだった。
駆けつけた彼らは地面に倒れるユーニスを見て、すぐに全てを察した。
「……こいつがやったのか」
ガルザンの声が低く唸る。
「そっ…そんな、酷い……!」
ニイコタが拳を強く握る。
「……あぁ、やっと勢揃いね。 だけどね、今の私には貴方達じゃ勝てないわ」
カムイは淡々と宣言した。
そして次の瞬間、姿が掻き消える。
「速いッ!!」
ムラセルの反応も一歩遅れた。
「ぐっ……がッ……!」
彼の身体が吹き飛ばされる。
腹部を鋭く抉られ、数メートル先まで転がった。
「ムラセルさんッ!!」
ニイコタとガルザンが駆け寄ろうとするが、カムイはその前に立ちはだかる。
「はい、ストップ。 一歩でも近づいたら、次はその首を飛ばす」
その眼光には、確かに“殺意”が宿っていた。
「こいつ……動きも力も、魔王以上か……!?」
「博士に改造されたって……どういうレベルの話なんだ、これ……!!」
「私は博士の改造によって”自由”になったの。 だから、殺すのも、壊すのも、何の感情もなくできる。 今の私なら、一神祭だって破壊できる」
カムイがにやりと笑った。
「さて……今度は、誰から殺してやろうか?」
最悪の再戦。
そして、圧倒的な力を持った“死神”との戦いが、今始まった――。
◇
攻撃しても、攻撃しても──届かない。
四人がかりで挑んでも、まるで通じない。
「くそっ……再生が速すぎる……!」
「削った肉が……瞬時に戻ってやがる……!」
「チッ、どこを斬っても無駄なのかよ!」
全身に、機械のような強化装置を組み込まれた“自由”のカムイ=ラッカーレンは、まさに不死の怪物だった。
ムラセルの《皇双剣》、ニイコタの《超双剣》、ガルザンの《砕拳》、そして永和の簡易魔法……
全てが“効いている”はずなのに、全く通じない。
「……やべぇな。俺でも……ここまでとは思わなかったぜ……」
ムラセルが、血を流しながら笑う。
「みんな……もう限界か……?」
永和が叫ぼうとした瞬間だった。
ズドォッ!!
カムイの足が、永和の心臓を的確に蹴り飛ばした。
「ぐっ……ぁああッ……!」
「所詮はこれが、お前らの限界だ」
高圧な魔力が押し寄せ、息が詰まる。
痛みと疲労で視界が霞んでいく。
「さぁ、大好きな耳無しエルフのとこに送ってあげる」
「やめろぉおおおお!!!」
ニイコタの叫び。
ガルザンの拳。
ムラセルの剣撃。
それでも届かない。全てを防がれ、押し返される。
永和は、叫んだ。
「みんなの魔力を……!」
その声は、絞り出した最後の希望だった。
「魔力を……俺に分けてくれ!!」
その瞬間だった。
ニイコタが背中に手を添えた。
ガルザンが拳を地面に突き立て、魔力を流し込んだ。
ムラセルが、無言で背後に立ち、刀を掲げて全魔力を永和に渡した。
──そして、
「……っ……!?」
確かに、感じた。
誰もいないはずの、誰のものでもない、でもたしかに“懐かしい”魔力が永和の背に触れた。
白銀の髪。
切り裂かれた耳。
――ユーニス……?
「いくぞ……ッ!!!」
全身に集まった魔力が、身体を焼き尽くすほどに溢れる。
「《簡易魔法・絆》――ッ!!!!」
それは、世界の法則をも捻じ曲げるほどの魔力。
カムイが警戒する間もなかった。
「なっ……!? この力は……!?!」
光が炸裂した。
全てを覆い尽くすような、蒼く輝く閃光。
その中心にいたカムイは、抵抗する間もなく──
「ぐぁぁああああぁぁぁぁぁああああ!!!」
断末魔を上げながら、チリとなって消滅した。
世界が、再び静寂に包まれる。
だが──
あまりに膨大な魔力が、空間そのものにまで影響を及ぼしていた。
あたりの草は逆さに揺れ、空には無数の魔力の糸が広がっていた。
「……?」
永和がふらつきながら立ち上がる。
何かが“違う”。
時間の歪み。空間のひずみ。
それらが、たったひとつの奇跡を生んだ。
「……永和……?」
背後から、震える声が聞こえた。
「……う、そ……」
振り返る。
そこには、ユーニスがいた。
先ほど、命を落としたはずの彼女が。
もう一度、こちらに手を伸ばし──
「……ユーニス……!?」
「ただいま……」
次の瞬間、永和は彼女を抱きしめていた。
「……よかった……! 本当によかった……!!」
ユーニスも、黙って、ただ強く、強く、永和の背に手を回した。
戦いは終わった。
すべてが終わった。
でもそれは、もう一度、始まりを手にしたということでもある。
永和は、静かに目を閉じた。
そして、また、笑った。
「おかえりなさい」




