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第四十一話「ムラセルVSメンジ」

 戦場の片隅。

 長い剣を背中に背負った、ダイヤモンドランク冒険者・ムラセル=ソー=ラジェルドが、冷静と熱気を混ぜた視線で一体の魔物を見据えていた。


 その魔物――水と炎が混ざり合ったような強烈な気配を纏う魚人族の魔人、メンジ=ユータウス。

 高さは人の倍ほどもあり、ヒレ状の大きな両腕と、全身を覆う鱗が光の角度で揺らめいている。

 口からは泡の痰のような唾液が垂れ浮かび、狂気に満ちた瞳をぎらつかせていた。


 ムラセルは剣を構え、呼吸を整える。

 彼の表情は、戦いへの覚悟が帯びている。


 相手は漆黒に光る剣を背中に二本背負い、まるで戦車の如き構えだ。


 そして――

 魔王の命令のもと、メンジは咆哮と共に走り出した。


「ギョォォォオオオ!!!!」


 その叫びは凶暴で野生的。

 だがムラセルはひるまず、後ろに構えた大剣を静かに抜いた。


「ははは! これは気持ち悪いな!!」


 声は冷静。しかしその眼光には鋭い殺意が揺れていた。



 メンジはヒレを復数形に揺らめかせ、突進してきた。

 速度は人間の限界を優に超える。


 ムラセルは一歩後ずさり、二本の背負い剣を捻った。

 そのまま一本を水平に展開し、もう一本を構え直す。


 次の瞬間。

 グイン!! と鎧鳴りの音が鳴り響いた。


 メンジのヒレが斬られ、鱗が飛び散る。

 しかし――相手は止まらない。


「ギョォォォオオオ!!」


 再び跳ね上がるように加速。

 今度は速度を活かして、ムラセルの腹部へ突進。


 ムラセルは即座に後方へ踏み下がり、二本目の剣を水平にスイングして左脇を深々と割った。

 豪快なスライスにも似た音と共に、鮮血があふれた。


 が――メンジに止まる気配はない。

 血しぶきを纏いながら、さらに二歩、三歩と距離を詰めてくる。


「ふん、魚風情が…度胸だけは認めてやる…!」

 ムラセルは短く息を吐いた。


 一方、倒れるどころか、逆に相手は再生を始めていた。

 切断された鱗は瞬く間に復活し、切り刻まれた肉体からは泡のように魔力の霧が湧き上がる。

 その光景は、まるで湧き水のようだった。


 ヒレの痕にジクジクと血がにじむ。

 だが、まったくダメージとして作用しない異様さ。


 ーー永和のために、早く倒さなければいけないのに。


 その生命力にムラセルの眉も険しくなる。



 再生したヒレで次の連続攻撃を仕掛けてくるメンジ。

 刹那の動きで大剣を交差させ、巨体に振り下ろす。


 ガキィン!!

 ドゴッ!!

 ギャッ!?


 音が連続し、土煙が上がる。

 ムラセルの体は転倒寸前まで吹き飛ばされ、鎧の重みで膝がガクンと揺れる。


 そこへ――

 矢鱗の飛び散る音を纏いながら、さらに2連撃、3連撃とヒレで殴撃され、鎧板にひび割れが走る。


 体中から飛び散る火花。

 息は止まりそうだ。

 傷は完全に防げず、擦り傷の雨が全身を叩きつける。


「く……このままじゃ……いつまで経っても終わらねぇ……!」


 疲労と焦りが混ぜられた声が、徐々に感情を失っていく。


 しかし――

 次の瞬間、ムラセルは激しく腰を沈め、背負い剣を両手で引き寄せる。


「……くそ……ここで終わるわけには……」


 ヒリヒリと浮き出る傷跡を堪え、息を吸い、剣を肩に構える。


 その眼光は、闇の中でも鮮やかに刃のように光っていた。



 時間は秒にも満たない静寂に支配された。


 大地に響くのは、僅かな虫の声と、鎧の軋む音だけ。


 メンジは胸を抑え、荒い呼吸をしている。


「ギョギョ?」


 水音のような咆哮と共に、メンジが首を傾げた。


 その時、ムラセルが動いた。


 ――走る。


 ワン、ツー、スリー。


 剣先を地面で滑らせながら、剛速で襲いかかるムラセル。


 メンジは反応しようとするも、わずかな遅れ。


「はぁぁぁぁぁああ!!!!」


 ムラセルの声が轟いた。


 振りかざされる両剣の刃が、光と熱をまとい――

 そのまま一気に叩き下ろされた。


「《皇双剣ロード・ツイン・ブレイド》!!」


 発動音と閃光が混ざり、大地が輝くような閃光が走る。


 メンジの巨大な体が、ミクロ単位で裂かれていく。


 背筋、内臓、骨、皮膚。

 すべてが斬り刻まれ、爆音と共に断末魔が破裂したように空に響く。


「ギョ、ギョォォォオオオ!!!!!」


 メンジの咆哮は最後まで狂気に満ちていた。


 そして――

 その体は、真っ二つに引き裂かれ、爆ぜるように消えた。



 四方の血煙と共に響くのは――不気味な静寂。


 大量の雨音かと思うほどの水音が、残りの血と魔力を絡めながら地に降り注いでいた。


 ムラセルは、ゆっくりと剣を収め、膝を付いた。


 周囲には、まだ魔族たちが息絶える音がこだましている。


 剣身には赤い液体が滴り、砂と混ざって濃く黒くなっていた。


「……終わったか……」


 胸を押さえ、呼吸を整える。

 なかなかの疲労。

 だが、その瞳はまだまだ輝いている。


 しかし、時間は残酷だった。


 再生能力に長けたメンジとのこの勝負。

 すでにかなりの時間が経過していたのだ。


 ムラセルは重い体を何とか起き上がらせる。


 視線は戦場のほうへ、永和がいる方向へと向かっていった。


「永和……今行くからな……!」


 剣を背負い、再び歩き出す。


 静かな世界の中で、血の匂いと重圧だけが残されていた。

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― 新着の感想 ―
さかなクン連れてきたの誰や
さすがだムラセル。ここで終わるにはもったいない。祈ってるぞ、永和たち全員がどうか生きて帰ってくることを。
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