第四十話「ニイコタ&ガルザンVSミーナ 後編」
黒い球が唸りを上げ、空気を裂くようにしてニイコタの頬を掠めた。
たったそれだけで、頬が裂け、血が流れ、視界が滲んだ。
「うっ……!」
脚の麻痺はまだ完全には癒えていない。
かばうように動けば、肩の傷が開く。
腕の痛みが鋭く神経を焼くようだった。
隣のガルザンも、顔をしかめながら血に濡れた拳を握っていた。
左肩は既に脱臼しているようにも見え、利き腕一本で応戦している状況。
「うふふ、お二人とも、よく耐えておりんすねぇ。 でも、ここまででありんしょう」
黒い球を片手で弄びながら、ミーナ=ウティスタは優雅に宙を舞う。
まるで踊るようなその動きから放たれるのは、殺意と魔力に満ちた破壊の球。
「この球が、最後の一撃でありんす……その命、終わらせて頂きんすよ」
真上から振り下ろされる黒球。
今度ばかりは、回避も受け流しも難し状況だった。
速度、軌道、重力、そして毒。それら全てを備えた、まさに”死”の具現。
「ニイコタ!!」
「っ、はい!」
ガルザンの叫びに応じて、ニイコタは最後の力を振り絞り、横に跳ぶ。
だが、避けた先にもミナのもう一つの球が落ちてきた。
「そん……な……!」
だがその瞬間、ガルザンが拳で地面を砕き、起こした瓦礫の破片でニイコタをかばった。
キィィィン!!
黒球と石の破片が空中で激突し、派手な爆発と共に煙が舞った。
その煙の中、二人は無言で立ち上がる。もう、言葉は要らなかった。
ボロボロの体で、ニイコタとガルザンは目を合わせた。
そして――小さく、同時に頷く。
互いに、理解していた。
(このままじゃ負ける)
(だが……まだ、やれる!)
ガルザンの《砕拳》と、ニイコタの《超双剣》。
それぞれが持つスキルの最大出力を、同時に、交差するように敵へ叩き込む。そうすれば――。
「行くぞ、ニイコタ!!」
「はい!!」
二人は真横から同時に跳び出した。
ミーナが一瞬、目を見開く。
「えっ……何でありんす!?」
逃げ場を潰すように左右から迫る。
ガルザンの拳が、地を砕きながらミナの左から迫る。
ニイコタの双剣が、緑の残光を残して右から跳ね上がる。
「うふっ……なかなか、やるでありんすね……!!」
黒球を二つ、両手で同時に作り出し、迎撃体勢をとるミナ。
だが――遅い!
「今だッ!!」
轟く咆哮と共に、二人の技が交差した。
「《砕拳》!!」
「《超双剣》!!
その瞬間、光と衝撃が重なり、空気が裂けるような爆音が轟いた。
そして――
《合成奥義・超連撃殺》!!
双方向からの連撃が、一点に集中し、ミナの身体を中心に爆裂する。
「が……あ……ぁぁあああああッ!!」
絶叫と共に、ミーナの身体が宙に浮き、そのまま後方へと吹き飛ばされた。
地面に何度も叩きつけられながら転がるミーナ。
止まった先で、必死に腕を持ち上げ、黒球を再び形成しようとする――が、
「っ……!? で、できない……」
魔力が泡のように滲み出すだけで、球にはならなかった。
力が、尽きていた。
ミーナは唇を震わせながら、小さく呟いた。
「……くっ、悔しい……でも、久しぶりに、楽しかったでありんす……」
その言葉と共に、彼女の身体は黒い泡となって弾け、消えた。
ただ、風だけがその場に吹き抜ける。
まるで何事もなかったかのように、静けさが訪れる。
「……終わった……?」
ニイコタが、ゆっくりと膝をついた。
肩は上下に激しく揺れ、呼吸は乱れ、脚はまだ麻痺が残って震えている。
「勝った……な……」
ガルザンも、腰から崩れ落ちた。
どちらの顔にも、傷と血がこびりついている。
だが――その目は、確かな勝利の光に輝いていた。
「や、やりました……!」
「……ああ、やったな……!」
地を転がりながら、互いに手を取り合う。
傷だらけでも、ボロボロでも、それでも。
二人は、強敵ミーナ=ウティスタを倒したのだ。
誇っていい。これは紛れもない、勝利だ。
そして、仲間のもとへ向けて、再び立ち上がるのだった。




