第三十九話「ニイコタ&ガルザンVSミーナ 前編」
「ニイコタとガルザンはミーナを! 俺はメンジを! ナリ=アーツは永和、任せたぞ!! 安心しろ、すぐに倒してそっちに加勢する!」
ムラセルの怒号のような号令に、空気が一気に張り詰めた。
「「「了解!!!」」」
即答し、迷いなく俺たちは三方向に分かれて走り出す。
それはもう、まるで訓練された軍人のような連携だった。
◇
「皇和三大魔人…まさか生きているうちに出会うことになるとはな……!」
ガルザンが眉間に皺を寄せながら吐き捨てた。無理もない。
目の前に立つ魔人――ミーナ=ウティスタは、全身を黒と赤のドレスで包み、仮面の下に真紅の瞳を艶やかに光らせていた。
その手に握るは、黒光りする球体。
まるで闇を濃縮して結晶化したかのような、恐ろしい魔力を秘めた球だった。
「うふふ、お二人とも、なかなかの目つきをしておりんすね。 少しは楽しませてくれそうでありんす」
「っ……なんだこの圧迫感……」
ニイコタが自然と一歩後ずさる。
無理もない。言葉の端々に、確信に満ちた”強者”の空気が漂っている。
「気を抜くな、ニイコタ!」
「はいっ!」
ニイコタが《超双剣》の柄に手をかける。
すっと抜き放たれた二本の刃が、陽光を受けて一瞬だけ煌いた。
「うふ、ではまずは……これでどうありんすか?」
ミーナがふわりと舞い上がったかと思うと、その手の球をまるでバスケットボールをバウンドさせるように地に打ち付けた。
「!!」
その一撃だけで、大地が爆ぜる。
鋭く、深く、広がる魔力の波動が周囲を薙ぎ払った。
「くっそ、やべぇなこいつ……!」
ガルザンが叫びながら横に跳ぶ。
その瞬間、球が跳ね返って再び空へと舞い上がり――そして、信じられないことに、ミーナはそれを空中でトリッキーに受け止め、今度はニイコタに向けてシュートのように放った。
「ニイコタ、避けろッ!!」
「……うっ…無理っ!」
刹那、ニイコタは横に跳ねるように避けたが、球の軌道が変化した。
まるで意志を持つかのように、ニイコタの脚をかすめる。
「ぐっ……!」
その一撃で、ニイコタの右脚がぱっくりと裂けた。
皮膚の下から赤い血が飛び出し、服を濡らす。
「痛っ……!? な、なにこれ、脚が……動かない……!」
「うふふ、その球には麻痺の毒を仕込んでおりんす。 ほんの少しでもかすれば、痺れと痛みに悶え苦しむこと請け合いでありんすえ」
「くっ……えげつねぇことしやがる……!」
ガルザンがニイコタの前に出て、拳を構える。
「仕返しだ…《砕拳》!! ……喰らいやがれッ!!!」
次の瞬間、ガルザンの拳が地面を叩き割るほどの勢いでミーナに迫った。
空気が裂ける音と共に、拳が一直線に飛ぶ。
が――
「遅いでありんす」
ミーナはふわりと宙に舞い、ガルザンの拳を回避。
そのまま回転し、球を右手でキャッチ。
そして逆手に取り、空中から真下に向かって放つ。
「うぐっ!」
ガルザンの肩を直撃。
皮膚が裂け、骨の奥にまで届く衝撃。
「ちっ、骨まで……!」
「ありゃありゃ、もう片方は?」
ニイコタは脚の痺れが残る中、気合いで走り出していた。
その両手の双剣が、X字を描いてミーナに斬りかかる。
「せやあああああ!!」
「うふふ、それもまた美しい動きでありんすね」
キンッ!!!!
刀身と球がぶつかり合う。
金属音が火花のように空中を裂き、瞬間、ニイコタの右腕に亀裂が入った。
「いっ……!」
「うふふ、おいたわしや……でも、お二人とも、まだまだ動けるでありんすね?」
「くそっ……!」
ニイコタとガルザンが肩を並べ、再び構える。
ミーナは踊るようにバックステップしながら笑った。
「遊びで終わらせるつもりはないでありんすよ? これは本気の舞台。 命を懸けて、お相手して頂きたいでありんす」
ニイコタが息を切らしながら、かすれた声で呟く。
「……強すぎる……でも、やるしかない……!」
ガルザンも、肩を押さえながら頷く。
「俺たちが倒さなきゃ、ムラセルは大丈夫だろうが、永和はナリ=アーツと一対一だ。 絶対に守らなきゃならねぇ!!」
緊張感が、戦場に満ちた。
空気が重く、時間が引き延ばされるかのような感覚。
そして再び、ミーナの黒球がバウンドし、地を鳴らす。
「さぁ、第二幕の始まりでありんす!」
その声が、血戦の火蓋となった。




