第三十一話「魔王」
「《超双剣》!!」
「おりゃぁ!!」
斬っても斬っても、焼いても焼いても、立ちふさがる影が消えない。
オブオ城に入ってからの時間感覚なんて、とっくに失っていた。
もう何十体目だ。
同じ鬼のような魔物が、執拗に、機械のように、こちらへ襲い掛かってくる。
「はっ、くっ、ぅわあああっ!!」
ニイコタの双剣が次々と閃光を描き、敵の四肢を断つ。
俺はその隙を狙って、簡易魔法を浴びせる。
骨と肉が砕け、壁にこびりつく音。返り血で視界は濁り、息も荒くなっていく。
もう二人とも、全身が血と汗と硝煙の臭いに染まっていた。
「おい、ニイコタ……! シュンって奴、ホントにここ来たんだよな……?」
魔物を吹き飛ばす合間、俺は叫ぶように問う。
「たぶん、来てるはず……でも……!」
その先の言葉はない。
――わからないのだ。
この地獄のような状況を見れば、彼が無事だとはとても思えない。
だが、考えていても埒が明かない。
「……もういい、突っ切るぞ!」
「は、はいっ!!」
俺たちはもはや、慎重さを捨てた。
ただひたすらに――進む。
血まみれの道を。骨を踏み砕きながら、地獄の奥へ。
気がつけば、通路は細く、長く、どこまでも続いていた。
その途中でも魔物は現れる。二体、三体、四体……。
だが、俺たちは止まらない。もはや数える暇もない。
そして――
突然、空気が変わった。
「……え?」
視界の先、通路の終点。
そこに、ひときわ巨大な、黒鉄の扉があった。
その表面には、無数の爪痕のようなものが走り、まるで扉自体が“生きている”かのように重圧を放っていた。
「な、なんだよこれ……」
言葉が震えた。
見るだけで、足が竦み、心臓が締め付けられる。
この先に、いる。
そう確信させる、決定的な気配。
――”魔王”のいる扉だ。
「ニイコタ……どうする?」
「……行くしかないですよ。 もう……引き返す道も、ないですから」
「……そうだな」
俺たちは、無言で頷き合った。
そして。
ギィィ…………
再び重たい扉が開かれる。
黒の深淵から漏れる、光のない空間。
そこは――広い、王室だった。
天井の高い空間には、重厚な柱が林立しており、壁には歴代魔王の名と顔が刻まれている。
その最奥、玉座。
そこに――“それ”はいた。
玉座の上。
そこに座る者は、俺の想像していた“魔王”の姿とはあまりにもかけ離れていた。
背は低い。
体も小さい。
そして、何よりも――顔立ちが、あまりに幼い。
「……子供?」
その姿は、人間の十歳にも満たないような少年のものだった。
髪はくしゃくしゃで、まるで寝癖がそのまま残っているような無造作ぶり。
服装もシンプルなローブ一枚だけ。
――だが、次の瞬間。
全身を襲う、凄まじいまでの圧迫感。
「……う、ぐっ、な、なんだこれ……!!?」
膝が崩れそうになる。
肺が潰れるような圧力。呼吸すらできなくなるほどの――“魔力”。
鼻腔を突くのは、血と鉄と、何か得体の知れない腐臭のようなもの。
これが……これが、《魔王》……?
小さな少年のような姿。
だが、玉座の上から静かにこちらを見下ろしているその目は――世界そのものを見下す神の目だった。
瞳の奥には、怠惰、虚無、そして――絶対的な“支配”が宿っている。
「ひ……」
ニイコタの声が、震えながら漏れた。
「……ふむ。 侵入者か」
魔王ナリ=アーツが、口を開く。
その声は、甲高くもなく、低くもない。
ただ、冷たく乾いた、感情の一切を拒絶したような声。
空間が凍る。
「と……永和さん……」
「……ああ」
その声を聞いただけで、分かった。
こいつ、明らかに……ヤバい。
というか――
「……おい、ニイコタ。 こいつ、“魔王の中では強くない”って言ってなかったか……?」
「そ、そんなこと言いましたっけ…」
「くそ……絶対バケモンじゃねぇか…!」
あの時聞いた、油断したような噂が、今や悪い冗談にしか思えなかった。
目の前の“魔王ナリ=アーツ”は――明らかに、常軌を逸した存在だった。




