表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/48

第二十九話「腕試し」

 シュン=ズースキルトという破天荒な男がギルドを去った後。

 俺とニイコタはしばらくの間、依頼掲示板の前で無言のまま突っ立っていた。


「……どうしますか、やっぱり薬草採取?」


「……うーん」


 掲示板に貼られた数枚の依頼書を何度も読み返す。

 やはり、何度見ても内容は変わらない。


 斬りかかってくる魔物もいない。

 たぎるような火山もなければ、盗賊団のアジトもない。

 どこを見ても平穏そのもの。悪く言えば、退屈だった。


「……なぁ、ニイコタ」


「はい?」


「ちょっとだけ、魔王城の様子を見に行かないか?」


「――はぁっ!?」


 ニイコタの顔がパチン!と音を立てるように跳ね上がった。

 目を丸くして、俺を凝視する。


「……え、ええっ!? い、今のって冗談じゃなくて、マジですか!?」


「ああ、マジ」


「正気ですか!? いや、さっきの人の真似じゃないですか、それ!」


「いやいや、待って。 俺、別に魔王を倒しに行きたいわけじゃないんだって」


 両手を上げてなだめるように言うと、ニイコタは「ふぇえ……」と情けない声を漏らす。


「たださ、ちょっと“様子見”してみたいってだけ」


「様子見……?」


「ああ、ほら。 さっきの話じゃ、一神祭の時は魔王たちが“原初の魔王城”に集まるとはいえ、それまでは全員が一カ所に滞在するわけじゃないって話だったろ?」


「えぇ、まぁ、基本的にはそれぞれの魔王がこの辺りに自分の城を所有しており、それぞれ自分の魔王城を使って滞在するって言われてますけど……」


「だったら、ちょっとくらい近づいてみたって問題ないんじゃないか? 中に入るわけじゃなくて、門番とちょっと戦って、強さ見て退く、みたいな」


「門番と戦う前提!?」


「ほら、門番って立場上、ある程度の強さは保証されてるけど、そこまでバカ強くもないだろ? そういう相手なら、ニイコタの本当の戦い方とか、俺の魔法とどう連携するかとか、いろいろ試せるじゃん」


「……む、むむむ……」


 ニイコタは腕を組んで唸った。

 その表情からは、危険を避けたいという慎重さと、挑戦してみたいという好奇心のせめぎ合いが感じ取れた。


「……まぁ、言ってることは分かります。雑魚相手じゃスキルもろくに試せませんし、私の《超双剣オーバー・ツイン》も、使いこなすには実戦が必要ですし……」


「でしょ?」


「……わかりました。ただし、危険だと感じたら、すぐ引き返しますからね」


「もちろんだよ」


「絶対ですよ!? 私、死にたくないですからね!」


「うんうん、死なせないよ」


 そう言って、俺はニイコタの背中を軽く叩いた。

 彼女はまだ不安げに唇を噛んでいたけど、それでも頷いてくれた。


 目的地は――”オブオ城”。


 このチィア王国にある五つの魔王城のうち、もっともギルドのある街、ザキカメアに近い魔王の居城だ。


 そこに滞在している魔王は”ナリ=アーツ”というらしい。

 伝え聞くところでは、魔王の中ではそれほど高位の存在ではなく、戦闘力も中堅クラス。

 だが、それでも“魔王”の名を冠する以上、決して油断できる相手ではない。

 まぁ、魔王と戦う予定は無いけど。


「ナリ=アーツ……強そうな名前だなぁ」


「油断禁物、ですよ」


「了解了解」



 準備は、思っていたよりスムーズに終わった。


 ニイコタは双剣のメンテナンスを終え、軽装備のベルトを締め直し、俺も簡易魔術の発動を再確認してから荷物を背負う。


 魔王城、オブオ城は、ここザキカメアの街から馬で二時間ほどの距離。

 地図を見る限り、大きな山も河もない平坦な道のりで、昼頃には到着できる見込みだ。


「じゃあ、行くか」


「はいっ!」


 二人で街の正門をくぐる。

 朝の日差しが背中を押し、外の空気が俺たちの肺に満ちていく。


 門番が眠そうに頭を掻きながら「おう、行ってらっしゃい」と声をかけてくる。

 俺たちは手を振って応えた。


ーー俺たちは、魔王城へと立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ニイコタがとても心配です
サンドバッグ代わりにされるナリ=アーツの門番、運が悪いですね
ナリ=アーツ…こいつはボコボコにされそうだな…… アーメンアーメン死んだらアーメン
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ