第二十六話「手紙」
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、じんわりと床を照らしていた。
冷たい空気が、肩に触れる。
誰もいない、隣のベッド。
呼んでも返事はなかった。
俺は、しばらく呆然としていた。
目の前の現実を理解するのに、時間がかかった。
(ユーニスが……いない)
その事実がゆっくりと、しかし確実に胸へと沁みていく。
そんな俺の視線の先。
小さな封筒が、ベッドの枕元に残されていた。
俺の名前が、丁寧な筆跡で書かれている。
そっと封を開ける。
一枚の手紙が、ふわりと膝の上に舞い降りた。
⸻
永和へ
永和、私と初めて会った日のことを覚えてる?
あの森の中で、私があなたを見つけたときのこと。
転生者であるあなたが、この世界で何も分からずに死んでしまわないようにって、
私がサポートするって決めた、あの日。
あれから色々なことがあったわね。
魔物と戦って、黒騎士と戦って、あなたはたくさん傷ついて、それでも前に進んで。
そして、ついにゴールドランクになった。
それはつまり、もうあなたは一人でこの世界を生きていけるってこと。
永和、あなたにはもう、私なんて必要ないのよ。
だから私は、旅を続けることにしました。
きっと、どこかにまた、あなたみたいな転生者がいるはずだから。
その人を助けてあげたい。そう思ったの。
一緒にいた時間、本当に楽しかった。
あなたと出会えてよかった。
どうか、元気でいてください。
〜ユーニス=アーベントより〜
⸻
手紙を読み終えた瞬間、胸の奥から熱いものが込み上げてきた。
「……っ」
気づけば、目の端に溜まった涙が、一粒、二粒と静かに頬を伝っていく。
ユーニスらしい、簡潔で、優しくて、そして少しだけ突き放すような文章だった。
けれど、そこに込められた想いは、痛いほど伝わってくる。
(そっか……もう、行っちゃったんだな)
俺たちは出会ったときから、どこかでわかっていたのかもしれない。
彼女は、ずっと俺を導く役目を担っていた。
その「役目」が終わった今、彼女は、また次の誰かの導き手になるために歩き出したのだ。
「でもやっぱ……寂しいなぁ」
声に出すと、言葉が涙に変わった。
誰もいない部屋。
でも、確かにユーニスの気配はそこに残っている気がした。
ベッドのシーツに残る温もりも、彼女が忘れていった手紙の香りも。
……今日は、ギルドに行く気になれなかった。
それでも、誰かに会いたかったわけでもなく。
ただ、あの頃の思い出に少しだけ浸りたかった。
ユーニスと共に戦った日々。
笑って、怒って、助け合って、傷ついて。
それでも、二人で前を向いていた。
それが今、ひとつの区切りを迎えた。
そしてきっと、彼女はまた誰かの光になっている。
ならば俺も、前を向かなきゃいけない。
ユーニスが信じてくれた俺自身を、裏切らないためにも。
「……明日から、また頑張るか」
空を見上げると、曇りひとつない青だった。
その澄んだ空のどこかに、ユーニスがいる気がして。
俺は、ふっと微笑んだ。




