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第二十五話「成長、消失」

 ズンッ、と重い地響きとともに、黒い毛並みの巨体が倒れ込んだ。


「やった、仕留めた!」


 俺――村上永和むらかみ とおわは、荒く息を吐きながら倒れた獣を見下ろす。

 大きな熊型の魔物。木々をなぎ倒すように暴れまわるこの森の主だ。

 その巨体を前にして、俺たちは堂々と立っている。


「さすがに強かったわね……」


 隣に立つのは、もう一人の戦士。

 白銀の髪に、耳のないエルフ――ユーニスだ。

 少し乱れた髪をかき上げながら、汗を拭っている。


「でも、本当に永和は強くなったわね。 このレベルの魔物になると、きっと私一人では倒せない」


「それはこっちのセリフ。 結局最後は、ユーニスの一撃でトドメだったじゃん」


「ふふっ、共同作業ってことで」


 二人で顔を見合わせて笑った。

 あの黒騎士たちとの死闘を乗り越えた後、二人は確実に強くなっている。


 特に永和はイワン戦から急速に成長していた。

 以前まで使いこなせていなかった魔力を、完全に使いこなせるようになったのだ。

 今の永和はユーニスにも引けを取らない力を持っているだろう。


 それを証明するには、十分すぎる討伐だった。



 町に戻ると、いつものようにギルドへ直行する。

 受付には、いつもの顔――受付嬢がいた。


「あっ、お二人とも! おかえりなさい! 熊型の魔物、討伐成功ですね! 証拠の牙も確認しました」


「これでまた少しは報酬も入るかな」


「それだけじゃないですよ!」


 受付嬢は、なぜか少し嬉しそうな顔で、俺たちに向き直る。


「ついに、あなたたちのランクが【ゴールド】に昇格しました!」


「えっ」


「えぇっ!」


 思わず、俺とユーニスの声が揃った。

 受付嬢は小さく頷き、証明書を差し出す。

 俺の冒険者カードには、しっかりと金色のラインが入っていた。


「ゴールドランク……本当に?」


「はい、本当です。ラーヴァとの戦いに加え、複数の魔物討伐実績が評価された結果ですね」


 目頭が熱くなる。

 やっと、ここまで来たんだ。



「おいおい、ついに追いつかれちまったなぁ」


 その声に振り向くと、ゴツい体躯のスキンヘッド――ゴールド冒険者のガルザンがいた。


「ガルザンさん!」


「まさか、お前らがここまで早く上がるとはな。 正直、驚いたぜ。 ……でも、嬉しい驚きだ」


「ありがとうございます!」


「これで、正式にゴールド仲間だな!」


 ガルザンは照れくさそうに笑って、大きな手で俺の肩を叩いた。

 その衝撃に思わず前のめりになるが、それすら嬉しかった。



 宿に戻ったのは、日も沈みかけた頃だった。


「……今日はいろいろあったな」


「うん、すごく嬉しかった。 まさかゴールドランクに……」


 ベッドの上に腰掛けて、俺は余韻に浸る。

 横では、ユーニスも軽く笑みを浮かべていた。


 ……でも、どこか違和感があった。


「ユーニス。 何か元気ない、っていうか……どうかした?」


 少し沈んだような瞳を見て、俺は問いかける。


「え? ううん、そんなことないよ。 今日は……本当に、嬉しかった」


 その返事は、確かにいつもと変わらない声だった。

 でも、何かが、どこかが、引っかかっていた。


(……気のせい、かな)


 何かを言おうとして、やめた。


 夜は更けていき、明日も任務があるだろうと、俺たちはベッドに潜り込んだ。



 翌朝。


 朝日が差し込む静かな部屋。


 俺は伸びをしながら、隣のベッドに声をかけた。


「ユーニス、おーい、そろそろ起き――」


 ……誰も、いなかった。


 枕元に置いてあった彼女の短剣もない。

 昨日脱ぎかけていた服も、消えていた。


 まるで、最初から存在しなかったかのように。


 俺は、胸を掴まれるような感覚に襲われた。


「ユーニス……?」


 名を呼んでも、返事はない。


 静かな、あまりにも静かな朝。


 その静寂が、やけに重かった。

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― 新着の感想 ―
静寂は何gくらいなんでしょうかねぇ
え……ユーニスどうしてだよぉ 僕のユーニスを返せ!!!
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