第十九話「チーム」
膝が震えていた。
視線がブレる。呼吸が浅くなる。
俺は、恐怖していた。
ムトゥの未来視。ラーヴァの反射。
このままでは勝てない。
どれだけ魔力を込めても、どれだけ必死に叫んでも、力だけでは通じない。
俺たちの攻撃はすべて跳ね返され、俺たちの作戦はすべて読まれる。
(ダメだ……これじゃ……)
だが、その時だった。
頭に浮かんだ。
あの“森”での戦い。
初めて、ラーヴァと対峙したあの時。
あの時、俺とユーニスは息を合わせていた。
ユーニスが決死の覚悟で攻撃を入れる。
ユーニスが削った隙に、俺が全力の魔法を放つ。
(そうだ……あの時は、俺たちは二人で戦ってたんだ)
今は、違う。
俺はムトゥを、ユーニスはラーヴァを。
バラバラに戦っていた。
単体で見れば、俺もユーニスも、この町の冒険者の中ではきっと強い。
けれど、黒騎士は強力なスキルを保有し、戦闘を得意とする団体である。
こっちは違う。
俺はただの元高校生で、ユーニスは長らく一人で戦ってきた異形の少女だ。
(俺たちは、“強い個人”ではあっても、“強いチーム”じゃなかったんだ)
だから――だから、負けてたんだ。
「ユーニス!!」
俺は叫ぶ。
反射の衝撃で吹き飛ばされたユーニスが、壁にもたれて立ち上がろうとしていた。
彼女の元へ駆け寄る。
傷ついてはいるが、戦える。目の奥はまだ燃えている。
「……何か思いついた?」
「ああ。 ……バラバラに戦ってちゃ勝てない。 あの時みたいに、二人で戦わなきゃ!」
俺の言葉に、ユーニスは一瞬だけ目を見開いた。
そして、笑った。
「なるほど、確かにそうだ。 やってみようか」
「はいっ!」
◇
「……そろそろ終わりにしましょうか」
再び、ラーヴァ=ミストリアが構える。
巨体がのそのそと動き出す。その動きには、一分の隙もない。
ユーニスが前に出る。
まるで炎のように軽やかに、鋭く、舞うように前へ。
足音ひとつ立てず、鋭い蹴りがラーヴァの脇腹へ――
「《反射》」
重低音。
ユーニスの蹴りが返される。だが、想定内。
ユーニスはその衝撃すら後方への回避運動に変えて、その場を離脱する。
そしてそのタイミングで――
「そこだっ!!!」
俺が放ったのは、即座に出せる範囲での最大火力簡易魔法。
放たれたそれは、光の塊となってラーヴァの肩を焼き、鎧ごと吹き飛ばした。
「っしゃあああああ!!!」
手応えあり!
肩の装甲が砕け飛び、焼け焦げた金属が転がる。
「やった、ついにダメージが――」
「…………」
……何かがおかしい。
ラーヴァの肩の鎧が砕けた。そこまではいい。
だが、その下が――おかしい。
「……肉体が……見えない?」
鎧の下にあるべき“肌”や“筋肉”が――なかった。
黒い霧のようなものが、そこに渦巻いている。
「な、なんだこれ……」
(そういえばあの森でも、ラーヴァは兜を破壊された時、すぐに撤退していたな。 何かあるとは思っていたが…)
その時。
「…………なに、するんですかぁ……」
ラーヴァが、初めて“感情”を乗せた声を発した。
頭をゆっくりとこちらへ向ける。
兜の奥――その闇の中から、怒りの気配が溢れ出す。
あまりにも異様。
まるで、人間ではない。
叫び声でもなく、悲鳴でもない。
“怒り”という概念が、ただ音になったような震え。
彼女の両手が、大剣の柄を強く握り直す。
その柄が、音もなく、わずかに軋んだ。
金属が、怒りに耐えきれず、悲鳴をあげている。
ラーヴァの全身から吹き出す黒煙。
それが、鎧の隙間からまるで蒸気のように噴き出す。
そして、再び。
「……殺してあげる」
その声とともに、ラーヴァが地を蹴った。
先程までとは桁違いの速度で――“何かが変わった”。
「第二ステージ……ってやつかよ……」
ゾクリ、と背筋が冷たくなる。
「ユーニス、気をつけて……!」
「わかってる!! ……こいつ、本気出してきた……!」
だが、もう退けない。
この戦いは、今ここで――
終わらせるしかない。




