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どうしてこうなった?  作者: 英心
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016 それぞれの悩み


 侯爵令嬢が町を去った頃、遠く離れた王都の教会総本山の一角では今だ見つからない揺らぎについて月詠みと教皇が秘かに悩んでいた。


「各教会からは今だ何のご連絡も在りませんか?」

「全くです。もしや既にその者は、存在しないのでは?」

「昨夜もお告げが在りました。揺らぎが消えた気配は無いとの事です」

「となると、考えられるのは二つでしょうか」


 世間では、女神の声が聴けると崇められる月詠みだが、永く総本山の一室に籠って居る為に市井の行動が見えない。此処で年の功である教皇が思いを語った。


「一つは教会と言うより、人里に近付いて居ないと言う事です」

「それは山中に籠っていると言う事ですか」

「はい。理由は判りかねますが……」

「もう一つは?」

「アレから数か月。もし人里に混じっているならば、この地の者と何らかの関係を築いている筈です。己の立場を理解し、理由は不明ですが教会を遠ざけて居るかも、コチラだと見つけるのは難しいと思います」


 年の功だけあって、人への疑心暗鬼は月詠みより経験豊富と言う事だろうか、人の行動を読むのが旨い教皇である。その思料深さが彼を教皇の地位へと押し上げた要因とも言えた。


「では、各ギルドへ通達するのは如何でしょう?」

「我が国だけで在れば、問題ありませんが他国までと成ると要らぬ騒ぎを引き起こしかねませぬぞ」

「唯、女神様は会話を求めてるだけなのにですか?」

「人身とはそう言うモノです。万一にも女神様と会話をする前に利用され兼ねません」

「其れは困りましたね」

「ですが、二、三、心許すギルド長にそれとなく御触れを出す他在りますまい。選定は私にお任せ下され」

「お忙しいとは思いますが、コレも女神様の為。宜しくお願い致します」



 ヤキモキとする教会最高幹部を他所に工藤とレイは仕事に追われていた。


「最近、羽振りが良いらしいな。どうした?」

「親方~聞いて貰える。領主夫人から細々とした依頼を指名でしてくるんだよ。お蔭で割の良い収入じゃ有るけど、めっきり訓練どころじゃ無くてね、正直困ってるんだ」

「それって、お前さんが考えた『ソロバン』って奴の所為か?」


 工藤はこの世界に迷い込んだ際に記憶を当然持って居る。彼の知識はこの世界で大変有用なモノだ。だからこそ彼も大ぴらに公開していないんだが、偶々宿で計算に困って居たラナを助けると思って作って遣ったのが『ソロバン』だ。


「親方も何度も飲んでる酒瓶。アレの仕入れ元の商人が『ソロバン』を見てね感銘したんだ。女将さんが仕入れ先は言えないって突っ張ったんだけど、そしたら酒を仕入れてる恩を傘にして来たらしくさ。結局広まったって訳」

「其れが、何で領主様のトコに?」

「だよね」

「旦那様。其れは違います。旦那様は意外と抜けていますね」


 此処でレイからダメ出しが出た。アレって感じで自分の行いを振り返るが一向に気づかない。


「女将さんの宿で、幾つも料理を披露成され事をお忘れですか?」

「えっ!そこ!?」

「其処です。旦那様の御造りに成った料理とお菓子の数々は見た事も食べた事も無い品々ですよ。オマケに美味しいと成れば……」

「確かに!この前の酒のツマミは美味かった。今度また持って来てくれ」


 ベラの宿屋『ルスト』は、今や宿屋と言うより料理屋で賑わっている。それも工藤が教えた料理の数々の所為だ。この世界は魔法が発達したお蔭で科学の発展が日本とは違う。彼等は考えると言う工夫を余りしないのだ。お蔭で材料は揃っているのに組み合わせを試さない。だから、料理にしても魔導具にしても商売に至るまで工藤から見れば、中途半端だったのだ。


「アレって材料は揃ってるし、『焼く』を『揚げる』に換えただけだよ」

「その発想が今迄湧かなかったんですよ」

「まぁ~ナンにしても、仕事が増え金が貯まるのは良い事だぞ」


 親方の言葉で締めくくられたが、今回の訪問は別にあったのだ。


「其れより、親方に依頼をしなくて宜しいのですか?」

「そうだ。親方!作って欲しい魔導槍が在ったんだ」

「大事な事忘れるって、お前本当に冒険者か?」

「てへへ。でね作って欲しいのは……」

「……相変わらず面白い発想だな。材料は揃ってるな」

「お代は如何程に?」

「酒のツマミ込みで、金貨三枚ってトコだ」

「判りました。お時間は十日でお願いします」

「ん。どうした?五日も在れば作れるぞ」

「明日から、ご領主夫人の御実家に向かいますので、十日後にしか帰って来れないと思います」


 代金と材料を渡し、工房を後にする。その足で大門へと向かい幌馬車の予約を入れる二人であった。

今回はシャレーヌ嬢との約束を行うと言うより領主夫人の依頼で、侯爵家当主に贈り物を届ける為だ。レイとしても約束を果たすのは仕事では無くプライベートとして伺いたい思いが強く。今回は仕事モードでの訪問と成るだろう。


「旦那様。資金も増え仕事にも慣れました。旦那様の槍の腕も安心の域です。親方に頼んだ槍が完成すれば、更に安心ですが奴隷の補充をソロソロ本腰を入れて探して頂きたいのですが……」


 強引なレイの誘いで一度は奴隷商を覗いた事が有る。金額の高さに彼女は驚き一時は自分の価値について落ち込み悩んでいた事も有った。

レイとの関係が深く確かなモノと成った工藤にしてみれば、無理して増やすモノでも無いと考えて居たし、女性を増やす事に後ろめたさを思ってたのも事実である。最近は若返りに歯止めが付いたらしいが、それでも二十代の漲る思いが備わった彼は、その手の乏しい世界に生まれ育ったレイから見れば、雅に神話級の竜の如く巨大で難攻不落の恐山なのだ。


「そんなに毎晩が大変?結構喜んでくれてると思ってたんだけど演技だった?」

「無い言ってるんですか!そんな余裕は在りません。女将さんからの揶揄いもこれ以上躱せない事態なんです。それに喜んでるって……女性に話す台詞じゃ在りませんよ!」


 レイ曰く、決壊間近らしい。救援要請だと言う事だ。だけどコレばっかりは、出会いが大事だからなと思う工藤であった。

明日は早出ですからご容赦くださいネと釘を刺され大人しく朝を迎える。宿には十日程留守をする事は事前に伝えていた。料理の評判の所為で泊り客も増え繁盛した宿屋『ルスト』の女将『ベラ』は、工藤から宿代を貰う事を辞めている。其れ位儲けが出る様になったのだ。


「片道四日の距離だけど気を付けるんだよ。部屋は問題なく抑えておくからね」

「レイ様お気を付けて。エイジ様もお怪我の無い様に」


 ラナちゃん俺は序でなのか……寂しいよ。


こうして、工藤とレイは初めて違う町へと旅をする事に成る。たった四日の距離数字にして八十ケレ(キロと同距離)の地では在るが、工藤には初めて見る景色が広がる旅であった。




「村々に立ち寄りながらの道程です。粗、同じ気候ですから変わり映えはしませんが、三日目に迎える峠がこの馬車の難所と言えます。大した事は在りませんが、ソレを超えれば、景色がガラッと変わりますよ。侯爵領はこの東の地域で一番の綺麗な景色が広がる落ち着いた領内です」


 工藤が初めて訪れると知って御者が語り掛けて来た。この道程では滅多に事故も無いので、護衛の冒険者も二人だけだ。今回は工藤とレイが乗車している事で御者もいつも以上に大船に成った気持ちなんだろう。滑りの良い口が色々と工藤に道案内と名所の解説を聞かせていた。

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