013 心機一転
本日二話目です
女将の好意に二人揃って頭を下げた。フッって鼻で笑って片手で返す女将。気配り上手な女将にそれ以上の言葉を掛けず俺達は、昨日と同じ場所へと朝から向かった。
「スキルを習得できないと判った以上後は体に刻んで頂きます。スキルは無くても体が覚えれば、ソレなりに戦えると思います」
昨夜の仕返しとばかりにレイが鬼と化す。今の彼女には、べッドの上で俺にし返す事は不可能だ。その仕返しが倍返しとは殺生であるが、その倍々返しを考えると俺のやる気も増すってモンだね。
「了解。其れと一度は『轟炎』の力を試したい」
「そうですね。親方が仕込んだ魔法を私も見てみたいです」
午前中いっぱいを其々で狩りをし、昼食のお弁当を食べた後連携へと移った。
昨日より確実に成果が上がっている。レベルも一つ育ったし。何よりレイとの繋がりが深まった事が大きいと思えた。
「良い調子です旦那様」
「次、俺が先手を打つ」
「判りました。右前方から来ます!」
こうして一月程の時間が経過した。俺はスキルを得ないままだが、普通に槍を振り回すまで成長し、基礎レベルもレイと並ぶ23まで成長する。ギルドランクも二人揃ってDランクへと昇格し今では安心して仕事を任されるまで落ち着く事に成る。
「今日は灰色狼の群れですか。お二人は相変わらず豪胆ですね。任務完了の手続きも問題ないです。コレが報奨金の銀貨五十枚です」
狩りの後レイから教わった世界の理への理解度が深まった俺も今では変人扱いされる事無く人並みの知識で振る舞っている。お蔭でシャルルさんから呆れる視線を受ける事無く平穏に時を過ごせていた。
「今回のドロップ品はどうされます?今ですと灰色狼の毛皮や牙は品薄と聞きますから良い値で売れると思いますよ」
シャルルさんは、相変わらずソツノ無い働きぶりで、俺達が有利に運ぶよう勧めて来た。が、今回は彼女の誘いには乗れそうも無い。
「有難い話ですが、今回は売らずに装備の強化を図ろうと思います」
「成程、今迄の装備も良い品ですけど、確かにDランクに昇格したから強化も良い事だと思います。相変わらず堅実的で私も見てて安心ですよ」
社交辞令を交わしギルド会館を出て行くと入れ替わる様にギルド長が受付嬢シャルルの下に近寄って来る。
「その後は如何だ?」
「特に変化は。最近では可笑しな言動も見られませんし、気にしなければ普通の冒険者にしか見えません。否、訂正します。二人は確実に優秀な部類ですね」
工藤へのシャルルの評価は、鰻登りだ。相棒のレイと言う奴隷も優秀で評価が高い。加えてアノ美貌で他の冒険者から熱い眼差しを受けているが二人の絆が強く、この町の冒険者達はちょっかいを出すスキが無かった。
「ほぉ~君が認めるなら、相当なモノだな。逆に其れが妖しいとも言えるが」
「ギルド長。疑い出せばキリが在りませんよ」
「確かにそうだ。教会から何の沙汰も無いし今回は鳥越苦労だったと言う事か」
「はい。大体ギルド長が気を使い過ぎたんですよ。私もコレで肩の荷が下ろせた。と思って良いんですよね!?」
工藤に対してシャルルは変人と思っては居たが、人として疑っては居なかった。上司の命で観察していたが正直心苦しい気持ちも在った。何より彼は他の冒険者より紳士的だし、奴隷のレイに対しても人道的と言うか男性として好まれる対応をしていた。それは他の女性職員からも高い支持を受けている。そんな彼を調べる形で観察して居た事に嫌気が差していたのだ。
「今迄無理をさせていたな。もう良いぞ」
こうして工藤達が知らない間にギルドからの調べは中止を迎える事に成る。
そして、ドラン工房では熱の籠った装備品の打ち合わせが繰り広げられていた。
「それでは、レイの防具一式とエイジの槍の制作と言う事か」
「そうですね。まだまだ、親方の魔導槍を使い切っては居ませんが、もう少し身の丈に合った武器の方が俺の生長には良い気がして……」
「相変わらず面白い事を言う。優れた武器を求める輩が多いと言うのに、お前達は、中々見所が在るわい」
ドランはエイジとレイの考え方が好きだった。武器に溺れず、道具に頼らない。己の力を鍛える事を常に考える姿勢こそが、『窮地を脱する事が出来る』と信じる男の一人だったからだ。
「それで、予算の方ですが」
「分かって居る。今回も儲け無しで請け負ってやるわい」
「ありがとう親方~助かるよ~」
「フンッ。男のお前に喜ばれても嬉しくも無いわい」
「じゃ~代わりにコレを置いて行きますから」
そう言ったのはレイだった。彼女は親方に一瓶の酒をカウンターに置いたのだ。宿屋の女将に頼んで、隣町から泊まりに来る商人の一人に強い酒を仕入れて貰って居たのだ。当然代金は掛かるが鍛冶の依頼に比べれば遥かに安い。親方も値段は知っている。三人の間に金銭の遣り取りが甘い分シッカリと甘える処と恩を返す処を選んで居た。酒好きの親方にしてもワザワザ酒を注文するのも面倒だし、何より心尽くしが嬉しいのだ。だから彼女の酒を快く受け取るのだった。
「それでは、出来上がりは十日後を見込んで居ろ」
「判りました。其れじゃコレで帰りますね」
工房を出て二人並んで歩く。工藤のカミングアウト以降、二人の絆は深まった。主従関係と言うより恋人同士か夫婦の様だ。工藤の容姿も見るからに若返りが目立つ。今では二人並んでも歳の差カップルには見えない。不思議な事は周囲は、其れに気づいて居ないと言う事だ。
「どうします?このまま帰りますか?」
「何処か寄りたい所が在るのか?」
「確か資金は金貨十枚以上に成ってますよね」
「うん。先日の『手負いの赤熊』の討伐が大きかったからね。十枚処か十五枚は在るよ」
「では、次の計画に進みましょう」
「えっ!次?」
「そうです。人員の補充です」
「それって……」
「はい。正直今朝もそうでしたけど、いよいよ私一人では……身が持ちません」
雅かのイエローカード発令です。最近レイも楽しむ事を覚えて遂ハッスルしてシマッタらしい。反省する間もなく補充を言い付けられるとは思いもしなかった
「それで、レイは平気なのか?」
「平気では無いです。旦那様を持成すのも役目ですが、守る事が最優先です」
「必要な事かな?」
「強化は必要です。でも、我儘も言わせて頂きます。私も付いて行きますから」
レイの言う奴隷購入は人員強化。パーティーの攻防を上げるのが目的だが、見方を変えれば、俺の世話掛かりを増やす事でも在る。女性が男性の為に女性を増やす。まるで、離宮や大奥的な考えに近い。それってどうよ?って思いだけど、最近収まる事の無い俺の行動にレイがヘトヘトなのも事実なのだ。
取敢えず、下調べとしてレイが居た館へ行ってみる事にした。
「これはこれはクドウ様。久方ぶりのご来店有り難う御座います」
早速、館の主ライオットさんのご登場です。目聡い彼は、チラッとレイの方を確認すると目的が買取りでは無く販売だと気づき万遍の笑みを浮かべて来た。
「レイの購入はとても良かったです。正直此処まで私に尽くしてくれるとは思いもしませんでした。今回も冒険の強化と思いましてお伺いしました」
俺の横に居るのがレイだと気付くとライオット氏が驚いた表情を見せた。
「いや~驚きました。長年この商いをしていますが、私とした事が原石を見落としたナンて……否、クドウ様の磨き方が素晴らしいのでしょう。言葉も御座いません。そうですか、あの時の兎族の娘でしたか勉強に成りました。決めました!今日はどんな無理も聞き入れましょう。是非ご購入下さいませ。そして一月後、一月後に、ご足労ですが足を誇んで下さいませ。クドウ様の磨き方が本物か私の目を確認させて頂きます」
レイの成長振りに甚く感銘を受けたと言うか自尊心を擽られたと言うか、変なスイッチがライオット氏に入ったらしい。
下見の予定だったんだが、まぁ~無理をする必要も無いし義理も無い。
出会いは水物だとも言う機会は多い方が良いだろう。
こうしてレイと俺は館の奥へと向かう事に成った。




