012 レイの決意
俺のカミングアウトにレイが固まる。部屋は静けさに包まれ重い雰囲気で満たされた。そして、永いと感じた沈黙を彼女が破る。
「魔素が無いと言う事はスキルを獲る事は叶わないと言う事です。出来るだけ魔導具を集めましょう。其の為には潤沢な資金が必要です。危険を伴いますが、早目のギルドランクを上げ、ヨリ高額な依頼を受けれるようにしましょう」
イキナリ何を言い出すんだと思った。
「私がもっと努力すれば、得られるスキルもまだまだ在ると思います。あぁ~其れより奴隷の数を増やす手も在りますね。高額商品ならば、私より優秀な奴隷も得られるでしょう」
俺は驚いた。一瞬レイの気がフレたのかと心配した。だけど、彼女の目に光が宿っている事に気が付くとレイを落ち着かせる事に努力する。
「レイ。レイ!落ち着け。君は無いを言って居る?」
「ご主人様こそ何を言ってるんですか?準備を一日も早く整えなくてはいけません。そうだ!町を出る事も視野に居ればければ」
ヒートアップするレイを落ち着かせる為、強く抱きしめ俺は彼女の耳元に囁く
「落ち着けレイ。落ち着くんだ」
俺の言葉にやっと肩の力を抜く彼女
「レイ。君の考えが判らない。君の不安が想像もつかない。俺にも判る様に話してくれ。君は俺が怖くは無いのか?俺から離れようとは思わないのか?」
俺の言葉でハッとした顔をする彼女は涙を流しながら訴えて来る。
「何を言われるんですか?貴方様は私の主で、失った希望を与えて、安らぎを与えてる方です。私の最初を奪ったのもアナタなんです。どうして離れると思うんですか?それとも私を棄てる御積りなんですか?嫌です!嫌です!私は絶対ご主人様の傍を離れたりはしません!ですから。ですから……私を捨てよう等とは考えないで下さい」
何を彼女は言ってる?俺が彼女を棄てるだって!?棄てられるならまだしも俺からレイを棄てるなんて考える訳も無い。
互いの気持ちが昂り、背中から抱きしめていた筈だのに、今は向かい合って抱きしめ合っている。涙が溢れる彼女は感極まって俺の唇を求め激しく重なり合う。
沈黙の重い空気はいつの間にか熱気を帯びたモノへと変わる。激しい鼻息が互いを求める息遣いへと変わる。不安を取り這う為、傍に居る事を確かめる為、互いに必要としている事を確認するが如く求め合う。
世間はまだ、夕方前だ。情事の音は外に漏れるだろう。だからレイは声を押し殺す様に耐えた。其れが俺の心に火を灯す。貪る様にレイを求め続けた。
夕日が沈み辺りはめっきり夜の帳に包まれている。部屋には灯りが無く星の光だけが、ベランダから差し込んでいた。いつの間にか下の階で常連客達の騒ぐ声が微かに聞こえている。
乱れたシーツの上で俺達は二人並んで寝て居た。今は互いに落ち着きを取り戻し、止まっていた会話が始まり出した。
「さっきは何を考えてたのか聞かせてくれないか?」
「その前に旦那様に一つ質問です。教会へは訪れましたか?」
俺の名称がご主人様から旦那様に代わっている。コレは一つレベルアップと言う事だろうか?ご主人様も萌えで良かったんだけど、旦那様って響きも捨てがたいな。
「教会?すまん。俺には信仰心は低くてね。不道徳かもしれないが、近寄っても居ないな」
「それは、確かに不道徳ですね。ですが今回は救われました」
「どう言う意味だ?」
「旦那様の『加護漏れ』の件です。教会は既に旦那様を探してるかもしません。加護漏れとは逆を言えば加護の対象だったと言える筈です。理由は私如きでは判りませんが、何か訳が在るのでしょう。と成れば、女神様のお告げが降り教会は旦那様を探している可能性が高いです」
突拍子も無い話にしか思えないが、全くないとも言えない。何せなにも俺には判ら無いからだ。レイが可能性があると言うのなら、そうかもしれない。
「じゃ~レイが努力してスキルを取るって考えは何だ?」
「人が強く成る絶対条件はスキルの数なんです。数の優劣が力を表します。魔素が無い旦那様に代わって私がスキルの数を増やせば、お守りする事が叶うと思って……です」
「レイが無理をするのはダメだ。其れに守るって決めたのは俺の方が先だし」
「私は奴隷です。主を守るのが役目です」
「俺の世界に奴隷制度は禁止なんだよ。それにレイを奴隷とは思った事が無い」
「無理やり私の初めてを奪っておいてですか!?」
「そ、それはレイが湯浴みで俺を誘惑したのが最初だろ」
クスッと笑い合う俺達。奴隷云々の関係は俺達には存在しない。互いに必要とする間柄なんだと実感できていた。
「ですが、旦那様をお守りするには私一人の力では足りません。奴隷の数を増やす事を進言します。それと出来れば、この町を去る事を視野に入れるべきかと」
町を出て行く事に俺も考え無い訳では無かった。この世界に迷い込んだ訳・帰る方法を知る上で、世界を放浪する事は必修だと思って居たからだ。だが、直ぐには無理だ。何せ俺はこの世界を知らな過ぎる。其れに返さないといけない恩も幾多も受けているからだ。
「時期尚早だな。俺の武具は親方から借り受けたモノだ。レイの装備も格安で譲り受けた。親方には恩を返し切って居ない。女将もそうだ。だから、この町を去るのは少し後にズラそう」
納得する様にレイを諭す。彼女も考える所が在ったのだろう。コクンと首を縦に振った。
「ですが、受付のシャルルさんは危険です」
「何で?彼女にも幾つも恩を感じてるんだけど」
「ギルドは教会との繋がりが深いのです。旦那様の変人プリは彼女の知るトコロ大です。最も旦那様を知る第三者と言えます」
確かに俺の知識の無さを知ってるのはダントツにシャルルさんだと思う。
「となれば、彼女を懐柔するか奴隷を増やすしか在りませんね」
「その奴隷を増やすって件だけど、資金面も問題だが、レイの傍に男を近づける気は無いんだけど」
「奴隷の間で何を心配してるんですか?其れに、其れだったら女性の奴隷を集めれば良いだけの事です。シャルルさんを懐柔するのは手古摺ると思いますから奴隷集めから進めましょう」
えっと……その発言少し困ってしまうんですケド。レイは構わないって事?
「正直、先程もそうですが……私一人では体が持ちません。激しすぎて壊れてしまいます」
顔を真っ赤に染め上げシーツで顔を隠すレイ。思わずムムッって善からぬ血が騒ぎます。
「ぜ、ゼッタイ……数を増やしましょう。後生です旦那様」
結局夕食も取らないまま部屋に籠った。夜中に階段を歩く音で目が覚めた俺はレイを起こす事無くドアへと向かう。小さな足元が階段を下って行く音を聞いた後、そっとドアを開ければ、昼間の弁当よりボリュームなサンドイッチとスープがトレイに乗せて置いて在ったのを見つけた。
この宿を借りてよかったと感じたと同時に筒抜けかよ!と中年オヤジも頬を染める。




