8
あぁ、もう。
「何?あんた巡に振られたの?」
「ええっ!?」
歌っている最中に、朔がつっこんできた。
「だってこんな歌歌うから」
「もーっと強くなりーぃたあーい。……もう、歌ってる時に話しかけないでよー」
「で?どうなの?」
「ええ……」
時刻は午後7時。わたしは朔と二人でカラオケデートをしていた。
「これはただ好きなアーティストさんの曲で、だから歌ってるだけだよ」
「ふーん。『あぁ、もう。』、SaucyDog……てこれ、霞ちゃんが好きだったバンドじゃん」
「え?なんて?」
「……いや、巡も翠も趣味悪いよ」
「べっ別に巡くんの影響でサウシー好きなわけじゃないから!」
「やっぱりね」
間奏が終わってまた歌にもどる。が、気持ちは戻れない。と思っていたら、また朔が声をかけてきた。
「ねえ、翠気づいてる?」
「?」
「さっきからさ、ちょこちょこ部屋覗いてくる人いんの」
「っ!?」
「まあ入ってこなきゃいいんだけど」
朔がそう言うと同時に、わたしはこっそりドアの方を見た。すると、たまたま外を歩いていた男二人組と目が合ってしまった。
「!ごめん、目合っちゃった」
「え!?」
朔は今までで1番目を見開いて言った。
男二人組はすぐに部屋の中に入ってきた。
「君たち何歳?」
キャップを被った方の男が聞いてきた。が、当然わたしたちは無視する。
「出てってください」
わたしは自分より年下の朔を後ろに隠して、そう言った。
「なんで?一緒に歌おうよ」
「だいじょぶです」
「ほらジュース持ってきたから!ね!飲も」
わたしは無理やり近づけてくるグラスを遠ざける。
自分がどんなに出来損ないで取り柄なんかひとつもなくても、この場で後ろの子だけは守らなければと覚悟していた。
「ねえねえ君も遊ぼーよ」
パーカーを着た方の男が朔に話しかける。
「ややめてください」
声が震えて、情けなさが露呈する。
「なにー?怖くないよ」
「店員さん呼びますよ」
「何言ってんの、俺ら遊んでるだけじゃん」
わたしは震える手で遠くのマイクを掴んで、精一杯息を吸い込む。
「たすけてくださああああい!!」
今出せる最大限の声量でそう叫んだ。男二人組も、もちろん朔も、耳を塞いでいる。
しかし、数秒待っても助けは来なかった。
「んだよお前、びびったじゃねーか」
「何いっちょ前に助け呼んでんだよ」
挑発してしまったようで、わたしは下を向いて下がる。
男に詰められ、思わず目を瞑った時、突如として部屋のドアが開けられた。
「ああ!?」
男二人組が振り向くと、そこには長身のわたしのよく見知った人物が立っていた。
間違いなくあなたはわたしの王子様だ。
「誰?」
巡は一言、冷めたようにそう言った。
男たちは反発するが、身長的に負けていて、先程までの威勢は取り戻せていないようだった。
「っ」
巡と目が合う。わたしは思わず逸らした。
すると巡は男二人組の胸ぐらを掴んで、「用ねーならどっか行ってくんね」とだけ言って二人組を部屋の外へ追いやる。
「行こ」
「えっでもまだ時間あるし」
「もう危ないからやめよ、何かあってからじゃ遅いんだから」
巡がわたしの腕を掴んで、外へ連れ出した。
わたしは奥の朔の腕を掴んで、何とか三人無事にカラオケ店を出た。
やっぱりわたしは彼のことが好きだ。
後から、朔がLINEで巡を呼んでくれてたのだと聞いた。
巡が今日この近くにいることを知っていたみたいだった。
「あの時、うちのこと守ってくれてありがと」
そういう朔の顔は、どこか不服そうだった。
わたしたちの少し前を歩く巡も、今日はやけに口数が少ない。
まるで触れてはいけない何かに触れてしまったかのように、静かな帰路だった。




