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あぁ、もう。


「何?あんた巡に振られたの?」

「ええっ!?」

歌っている最中に、朔がつっこんできた。

「だってこんな歌歌うから」

「もーっと強くなりーぃたあーい。……もう、歌ってる時に話しかけないでよー」

「で?どうなの?」

「ええ……」

時刻は午後7時。わたしは朔と二人でカラオケデートをしていた。

「これはただ好きなアーティストさんの曲で、だから歌ってるだけだよ」

「ふーん。『あぁ、もう。』、SaucyDog……てこれ、霞ちゃんが好きだったバンドじゃん」

「え?なんて?」

「……いや、巡も翠も趣味悪いよ」

「べっ別に巡くんの影響でサウシー好きなわけじゃないから!」

「やっぱりね」

間奏が終わってまた歌にもどる。が、気持ちは戻れない。と思っていたら、また朔が声をかけてきた。

「ねえ、翠気づいてる?」

「?」

「さっきからさ、ちょこちょこ部屋覗いてくる人いんの」

「っ!?」

「まあ入ってこなきゃいいんだけど」

朔がそう言うと同時に、わたしはこっそりドアの方を見た。すると、たまたま外を歩いていた男二人組と目が合ってしまった。

「!ごめん、目合っちゃった」

「え!?」

朔は今までで1番目を見開いて言った。

男二人組はすぐに部屋の中に入ってきた。


「君たち何歳?」

キャップを被った方の男が聞いてきた。が、当然わたしたちは無視する。

「出てってください」

わたしは自分より年下の朔を後ろに隠して、そう言った。

「なんで?一緒に歌おうよ」

「だいじょぶです」

「ほらジュース持ってきたから!ね!飲も」

わたしは無理やり近づけてくるグラスを遠ざける。

自分がどんなに出来損ないで取り柄なんかひとつもなくても、この場で後ろの子だけは守らなければと覚悟していた。

「ねえねえ君も遊ぼーよ」

パーカーを着た方の男が朔に話しかける。

「ややめてください」

声が震えて、情けなさが露呈する。

「なにー?怖くないよ」

「店員さん呼びますよ」

「何言ってんの、俺ら遊んでるだけじゃん」

わたしは震える手で遠くのマイクを掴んで、精一杯息を吸い込む。

「たすけてくださああああい!!」

今出せる最大限の声量でそう叫んだ。男二人組も、もちろん朔も、耳を塞いでいる。

しかし、数秒待っても助けは来なかった。

「んだよお前、びびったじゃねーか」

「何いっちょ前に助け呼んでんだよ」

挑発してしまったようで、わたしは下を向いて下がる。

男に詰められ、思わず目を瞑った時、突如として部屋のドアが開けられた。

「ああ!?」

男二人組が振り向くと、そこには長身のわたしのよく見知った人物が立っていた。


間違いなくあなたはわたしの王子様だ。


「誰?」

巡は一言、冷めたようにそう言った。

男たちは反発するが、身長的に負けていて、先程までの威勢は取り戻せていないようだった。

「っ」

巡と目が合う。わたしは思わず逸らした。

すると巡は男二人組の胸ぐらを掴んで、「用ねーならどっか行ってくんね」とだけ言って二人組を部屋の外へ追いやる。

「行こ」

「えっでもまだ時間あるし」

「もう危ないからやめよ、何かあってからじゃ遅いんだから」

巡がわたしの腕を掴んで、外へ連れ出した。

わたしは奥の朔の腕を掴んで、何とか三人無事にカラオケ店を出た。

やっぱりわたしは彼のことが好きだ。


後から、朔がLINEで巡を呼んでくれてたのだと聞いた。

巡が今日この近くにいることを知っていたみたいだった。


「あの時、うちのこと守ってくれてありがと」

そういう朔の顔は、どこか不服そうだった。

わたしたちの少し前を歩く巡も、今日はやけに口数が少ない。

まるで触れてはいけない何かに触れてしまったかのように、静かな帰路だった。

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