7
頭痛が酷くて上体を起こすと、時計の短針は2時を指していた。周りには誰もいなくて、机の上にあったはずのビール缶は、いつの間にか頭痛薬に変わっていた。何度か瞬きをすると、目の前で霞がこちらを見ているのが見えた。
「みんなは?」「帰った」「そっか」
立ち上がったが、まだ意識がはっきりとせず、足場を崩して転びそうになる。咄嗟に霞に寄りかかるが、霞ごと床に転び倒れてしまう。
「ごめんっ」
霞を押し倒すような体勢になって、息が詰まった。
刹那の無言の後、霞は言う。
「もうみんな、帰ったよ?」
動悸が始まっているのに、俺は気づかなかった。
「だ、だめだよ。だってまだ霞高校生じゃん」
「?巡くんは違うの?」
「っ」
目眩がして、頭に触れる。やっと、動悸がしていることに気づいた。
「はあ……っ、はあっ」
歪む視界で霞の頬に触れる。と、手が頬をすり抜けて触れられない。
口元を押さえ込んだ。全身を冷や汗が伝って、目は乾いている。
まるで誰かの記憶がフラッシュバックするかのように、頭の中に血の色が流れた。誰かの悲鳴。走って逃げる人物。腹部が刺されて出血している少女の虚ろな表情。
俺は転びながら、洗面台へ向かった。水道で頭を冷やし、吐き気を落ち着かせる。2分くらいそうしていただろうか、動悸は収まり、頭痛も弱まった。洗面台の鏡に写った自分を見て、再度嘔吐感。と同時に、鏡の向こうに熊のぬいぐるみを発見する。はっとなって振り返る。そこには、天使が立っていた。
「霞……」
俺はふらふらと霞の方へ向かい、抱きつく。
ほら、ちゃんといるじゃないか。
体温を感じなくても、ちゃんと、ここにいる。
「久しぶりに、思い出したなあ……」
そう言ってから、俺は気づいた。
思い出す、って何を?




