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「……何その頭」

早朝、インターネットコミックカフェの個室で、わたしは影に向かってそう言い放った。

いつもはわたしが一番早く起きるのに、今日は珍しく影が一番乗りだった。そんな影は、いつものノーセットストレート前髪を、今日はセンター分けにセットしていた。

普段は見えなかった長い前髪の内側に、自分の好きな顔が隠れていたことを改めて思い知らされる。

元の眉毛の形が綺麗だなとか、一重なんだなとか、そんな感想をぼんやりと持った。もちろん、目が赤く腫れているのにも気づかないわけはない。

「早ければ今日、横浜に帰れる」

唐突に影は言った。

「そーゆーのいいから、うちの質問に答えてよ」

影はきょとんとした表情をしてみせた。

「だからっ、髪どうしたのって」

そんなの答えは昨日のあの瞬間からわかりきっている。わたしが個室に入ろうとした時、影が顔を隠して出ていったあの時から。

影はやはり無言を貫いたままだ。わたしは重い口を開けて息を吸った。

「翠に、振られたんでしょ」

影の顔に、動揺の色が見える。わたしは続けて聞いた。

「うちずっと気づいてたよ、影が翠のこと好きなの。昨日の部屋で2人が話してたことも、ちょっとだけど聞こえてたよ」

影は一拍おいて、「気づいてたの?」と問う。もちろん気づくに決まっている。何年もずっと一緒にいたのだから、ずっと見てきたのだから。否定しようのないくらい、君を好きな気持ちが大きくなってしまったのだから。その思いをすべて一つの言葉に集約する。

「そりゃ、気づくよ」

息を吐くように拙い声音で、わたしは言った。一瞬の沈黙の後に、影は天を仰いで少しの笑みを浮かべた。

「なんだ、バレてたのか」

あまり笑うことのない彼の笑顔が、わたしにはとてつもなく嬉しく感じられた。その笑みがわたしの想いを断る意味を持っていたとしても。

「翠は巡のことが好きだって、俺のことなんて見てないってそんなのずっと前から分かってたのに、なんで言ったんだろうな。ほんと、意味わかんね、だっさ」

影は言いながら、手で目元を覆い隠すようにする。

「ごめんな、朔の前で」

彼のわたしの名前を呼ぶ声が、いつもに増して低く感じられて、心臓がぞわっとするような感覚を覚える。影がこんなに感情を露わにすることなんてほとんどなかった。

なんとなく居た堪れない気持ちになって、わたしは影の手を取った。

「う、うちはそんなこと思わない……っ!」

影が動きを止めて、わたしを見つめてくる。わたしは全身が熱くなるのを感じた。

「うちは、影のことダサいとか思わないから」

段々萎むように声が小さくなる。けれど、本当に言いたいことはそれじゃない。言うなら今だ、今言わなければ。早く、早く。後に後悔なんてしたくないから。

「うちは、うちは影のこと好きだよ」

好きな人の手に触れる自分の手が汗ばんでいないか、不安になる。けれど、どうしてかその手を離そうとは思わなかった。

影のわたしを見つめる目が微笑んで、わたしは頬が赤らむのを自覚した。

「あ、はは」

影は再度目元を覆ったまま笑う。影が声を出して笑うことなんて珍しいので、わたしは目を見開いて影を見つめた。

「ははっ、ごめんな朔、慰めてくれて。ありがとうな」

目元を覆っていた手を退けて、影は目を細めてわたしを見た。その視線だけでどうにかなってしまいそうなほど、わたしはそれが嬉しかった。心臓がどきどきと鼓動しておさまらない。眼球が震えるように熱くてわたしは影から目を離さずにはいられなかった。

まさしく、今恋に落ちた音が聞こえた。

決して成功したとは言えない告白。きっと影はただの慰めだと受け取ったのだろう。それでも、今はいい。なぜだかそう思える。

今度はわたしのターン。自覚してしまえばもう遅い、あとは行動すればいいだけ。

うちのことも、ちゃんと見ててね。

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