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「恋バナしよーよ」
朔がそう言ってわたしたちの夜は幕を開ける。影は今風呂に入っていた。
「じゃあ朔から話してよ。いつ影のこと好きになったの?」
「んもー、そんなんじゃないって」
朔はベッドの上で頭を抱える。そう言いながらも、心做しか嬉しそうだった。
「もうそろそろ無理あるよー。んーじゃあ、二人はいつ出会ったの?」
朔は少し沈黙した後、囁くように「……小学生のときから」と言った。
「えっ!?あそっか、二人幼なじみだもんね?」
わたしは驚きを露わにして答える。
「それで?いつ好きになったの!?」
「んん……だから」
「いーじゃんわたし応援するよ」
朔は不満げな表情だ。
「……あいつね、結構やばい人なの」
朔は小さく話し始める。
「なんか小5のときからあいつ変わったんだよ」
「うん」
わたしは至って真面目な顔で聞いていた、はず。
「親が離婚して、それで影色々大変そうで、段々友だちもいなくなって」
「え、小5のとき?……大変だね」
思いもよらない事実に、わたしは唖然とする。
「それでさ、なんか、不良みたいになって」
「うん」
「でたしか、家出する前だったはず。中一のとき?かな」
「うん」
「影が家出する前、中一のときにね、同じ中学だったんだけど、なんかまあまあ大騒ぎになったのが」
「えー待ってなんか緊張するんだけど」
わたしは身を捩りながら言った。
「え、なんかおもろいよ?ちょっと聞いて」
朔は笑いながら言う。
「あんね、中二になるちょっと前くらいかな?の時にね、なんか遠足っぽいのがあったんだけど、それなんかうち友だちと班決めで揉めて、それでずっと悪口言われてたんよ」
「えーなにそれ」
「そしたらさ、なんかその悪口がちょっと度をすぎてたらしくて、影がそれに気づいてね、女の子だよ?女の子に暴力振ったみたいな、その悪口言ってたうちの友だちにね」
「え?」
わたしはきょとんとするが、朔はあくまで笑いながら話していた。
「暴力って?どういう」
「いやうちもあんまり知らないんだけど、なんか怪我させちゃったみたいな、それで影出停食らってた」
わたしは口をぽかんと開けたままだったが、朔は逆に口を大きく開けて爆笑していた。
「たしかにちょっと危ないところはあるなと思ってたけど……」
以前の猫庇い事件(仮)を思い出してわたしは言った。
「いやーまじうけるよね、だってわたしにも原因あるかもしれなかったのに、ほんと」
朔は笑い終わって、わたしは朔の目尻に涙が浮かんでいるのに気づく。それが笑いによるものなのか、はたまた別の何かなのかはわからない。
「その時から、影のこと好きなの?」
わたしは朔を見つめる。と、朔は目を逸らした。下を見て、顔を赤くする。何も答えなかったが、表情が答えを言っているようだった。
なぜだかわたしは嬉しい気持ちになった。
「はいはい次は翠の番ね!ほら早くしないと上がってきちゃうよ影」
朔は照れ隠しをするかのように、わたしに話題を振る。
「ええ〜聞いちゃう?」
わたしは笑顔を漏らしながら答える。
「こんなに盲目になるくらいなら、ちゃんとそれはすごい出会い方したんでしょーね?」
「うーん、それはね〜」
「早く教えろよー」
朔はわたしに寄りかかって、わたしはその勢いでベッドに倒れる。わたしたちは笑い合った。
「うちは言ったじゃーん」
「えっとね、じゃあ言います」
「お?」
「んとねー、わたしが高三になったばっかの頃ね、当時付き合ってた年上の彼氏がいたんだけどー」
「なにそれ初耳!あんたそれ早く言ってよー」
「なんかそいつにやり逃げされてー、めっちゃショックで」
「え!?がち?」
「うんまーそれはなんとかなったんだけど、めっちゃショックでスタバで一人で大号泣してたのね」
「うん」
「そしたらさ、隣に座った人が、あこれ巡くんね」
「え!?うん」
「なんかめっちゃ親身に相談?ていうか愚痴?聞いてくれて」
「あー巡っぽ、なんかその知らない人にも優しくできちゃうの」
「あははそうー、そんでね、すごい長い時間話聞いてもらっちゃったから、わたしすごい巡くんがかっこよくいい人に見えて、なんとかしてこの縁切りたくないて思って」
「え?うん」
「どこで働いてますかて聞いたんだけど、なんか曖昧にされたから」
「あーたぶんそん時巡まだホストだったわ」
「あー、うん、そだよね。までね、それでまたショック受けたんだけど、そしたら巡くんが連絡先ならいいよって言ってくれたの!」
「うわーやってんなあいつも、自己満だよ自己満」
「うんでもね、わたし学校で元彼とのこと話してもみんな聞いてくれなくてずっとわたしが悪いって言われてたから、だから嬉しかったの」
たとえあの時の彼の優しさが偽善だったとしても、何かの気の迷いだったとしても、わたしにとっては救いでしかなかった。
思い出に浸って黙り込むわたしに、朔は言った。
「でもたしかに、うちも翠の立場だったら嬉しかったかも」
「へへ」
わたしはふにゃっと顔を歪めて笑う。
巡が今、何を思って逃げ出しているのか。わたしには関係のないことだと、そう言われるかもしれない。だとしても、どこまで行っても巡はわたしにとって何の代わりにもなれない王子様。昔受け取った恩を、今度はわたしが返したいと思った。




