33
「巡くんてピアス開けてるよね」
唐突に、翠は言った。
俺たちは今静岡のビジネスホテルに泊まっている。静岡に着いたところでまたwhooを見てみると、巡は今度は山梨の手前まで移動していた。ので、仕方なく俺たちは明日山梨へ向かうことを目標に、今夜は一旦静岡で寝泊まりしようということになったのだ。
そうして3人で1つのホテルの部屋。そんな状況で、翠は突然言ったのだ。
自分の耳の感触を確かめるようにふにふにと触りながら、翠はベッドに仰向けになっていた。
今朔は風呂に入っている。
「急にどうしたの」
俺は一言だけそう告げた。
「んー?わたしもね、ピアス開けてみよーかなって思ってたんだけど、ちょっと怖くて開けれなくて」
別に開けないでいいと思う、というのが俺の本音だ。
「でもね、この際開けてみるのもいーかなーって」
「どっちにしろ病院に行かないといけないから無理だな」
「わたしピアッサー持ってるよ」
「まじ」
翠はベッドから飛び起き、キャリーケースの中からピアッサーを出して見せた。俺は椅子の上で腕を組みながらその様子を見ている。
「開けてみていい?」
翠は目を輝かせて言う。俺は「やめな、自分でやると失敗するしすげえ痛いよ」と答えた。
「えっ影経験者なの?」
「経験者っていうか」
「ほんとだ、開いてんじゃん!」
翠は顔を近づけて俺の耳を凝視する。なんとなく暑苦しく思って、俺は手で払い除けた。
「じゃあ影やってよー」
「……痛いけどいいの?」
「うん」
翠は少し強ばった表情をして頷く。俺は刹那の躊躇の後に、椅子から立ち上がってピアッサーを受け取った。
「座って」
ベッドを指さして言う。翠は指示通りベッドに座った。俺はその隣に座る。
「ううー、なんか緊張してきた」
俺はピアッサーを箱から出して翠の耳元に近づける。若干遠い気がして、もっと近い距離まで座り直した。膝が少し触れる。
何でもできてしまいそうな距離まで近づいて、翠の息遣いが直に聞こえる。表情や手は強ばっているが、あくまでも無防備なままだった。
肌が白くて綺麗だな、なんて思いながら、なんとなく言ってみたくなってしまう。
「これ開けたの、俺だからね」
「?うん」
庇護欲と少しの独占欲。どうしてか、彼女が好きなのは俺じゃなくても、自分の痕跡を刻みたいと思ってしまった。
何の躊躇いもなく、針を通す。翠の肩が小さく跳ねた。
針が穴を開けた時間こそ一瞬だったが、開いた穴から血がだらだらと垂れてくる。
「終わった?」
涙声で、翠は聞く。
「うん」
「痛い……」
「だから言ったじゃん」
呼吸が速く、翠は肩を上下させていた。俺は翠の少し赤らんだ耳から流れる血液を、指で拭った。
「あっだめだよ血だよ」
涙目の翠が小さい手で俺の腕を掴む。
「大丈夫だよ」
翠の腕を掴んでどける。細くて、少し力を加えれば折れてしまいそうだった。
「次逆側開けるからね」
「うい」
翠は泣き出しそうな声で答える。
今まで思ったことなんてないのに、どうしてか指に付着した血がすごく綺麗だなんて思ってしまった。




