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「巡くんてピアス開けてるよね」

唐突に、翠は言った。


俺たちは今静岡のビジネスホテルに泊まっている。静岡に着いたところでまたwhooを見てみると、巡は今度は山梨の手前まで移動していた。ので、仕方なく俺たちは明日山梨へ向かうことを目標に、今夜は一旦静岡で寝泊まりしようということになったのだ。

そうして3人で1つのホテルの部屋。そんな状況で、翠は突然言ったのだ。

自分の耳の感触を確かめるようにふにふにと触りながら、翠はベッドに仰向けになっていた。

今朔は風呂に入っている。

「急にどうしたの」

俺は一言だけそう告げた。

「んー?わたしもね、ピアス開けてみよーかなって思ってたんだけど、ちょっと怖くて開けれなくて」

別に開けないでいいと思う、というのが俺の本音だ。

「でもね、この際開けてみるのもいーかなーって」

「どっちにしろ病院に行かないといけないから無理だな」

「わたしピアッサー持ってるよ」

「まじ」

翠はベッドから飛び起き、キャリーケースの中からピアッサーを出して見せた。俺は椅子の上で腕を組みながらその様子を見ている。

「開けてみていい?」

翠は目を輝かせて言う。俺は「やめな、自分でやると失敗するしすげえ痛いよ」と答えた。

「えっ影経験者なの?」

「経験者っていうか」

「ほんとだ、開いてんじゃん!」

翠は顔を近づけて俺の耳を凝視する。なんとなく暑苦しく思って、俺は手で払い除けた。

「じゃあ影やってよー」

「……痛いけどいいの?」

「うん」

翠は少し強ばった表情をして頷く。俺は刹那の躊躇の後に、椅子から立ち上がってピアッサーを受け取った。

「座って」

ベッドを指さして言う。翠は指示通りベッドに座った。俺はその隣に座る。

「ううー、なんか緊張してきた」

俺はピアッサーを箱から出して翠の耳元に近づける。若干遠い気がして、もっと近い距離まで座り直した。膝が少し触れる。

何でもできてしまいそうな距離まで近づいて、翠の息遣いが直に聞こえる。表情や手は強ばっているが、あくまでも無防備なままだった。

肌が白くて綺麗だな、なんて思いながら、なんとなく言ってみたくなってしまう。

「これ開けたの、俺だからね」

「?うん」

庇護欲と少しの独占欲。どうしてか、彼女が好きなのは俺じゃなくても、自分の痕跡を刻みたいと思ってしまった。

何の躊躇いもなく、針を通す。翠の肩が小さく跳ねた。

針が穴を開けた時間こそ一瞬だったが、開いた穴から血がだらだらと垂れてくる。

「終わった?」

涙声で、翠は聞く。

「うん」

「痛い……」

「だから言ったじゃん」

呼吸が速く、翠は肩を上下させていた。俺は翠の少し赤らんだ耳から流れる血液を、指で拭った。

「あっだめだよ血だよ」

涙目の翠が小さい手で俺の腕を掴む。

「大丈夫だよ」

翠の腕を掴んでどける。細くて、少し力を加えれば折れてしまいそうだった。

「次逆側開けるからね」

「うい」

翠は泣き出しそうな声で答える。

今まで思ったことなんてないのに、どうしてか指に付着した血がすごく綺麗だなんて思ってしまった。

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