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目が覚めて、わたしは飛び降りるようにしてベッドを離れた。
「巡くん?」
部屋のどこを見回しても彼の姿は見当たらない。
わたしは焦ってスマホを開く。LINEの通知は朔からのもので埋まっていて、目当ての人物からのメッセージは何もなかった。
急いで玄関へ向かう。外に出ようとした時、初めて鍵がかかってるのに気がついた。
巡はいつも家の鍵をかけていなかった。にもかかわらず、わたしを一人取り残す時は律儀に鍵をかけていったのか。
歯を食いしばって部屋の外に出る。階段を下りながら朔に電話をかけた。
「――!ったあ」
スマホに目線を集中したせいか、階段を転げ落ちてしまう。思いっきり転んでしまって、足を怪我する。けれど膝の擦り傷など、今は気にしていられなかった。
マンションを出る。朔が繋がらなかったので今度は影に電話をかけた。が、またしても繋がらない。マンションの敷地を出て住宅街を抜ける。ここで初めて、まだ早朝で世間が起床しているには早すぎる時間なのだと気づいた。
「……嘘つき」
誰にも聞こえない声で、わたしは呟く。ソファで寝ると言っていたのに。
車も人も通らない信号を待って、わたしは全身を抱くようにしてうずくまった。昨夜の彼の体温が惜しく思えた。
朔の家に近くなってきた頃、影から折り返し電話がかかってきた。
「影く……影?」
『どうしたの』
「巡くんがどこに行ったか知ってる?」
『知るわけないだろ』
「巡くんが、家にいないの」
影は黙る。きっと忠告を守らずに巡の家にまた行ったわたしに対して思うところがあるのだろう。けれど、今それについて謝罪する余裕なんて、わたしにはなかった。
「わたしを泊めて、どっかに行っちゃったの」
自分の涙声が気持ち悪い。
「影くん知らない……?」
呼び捨てにすることを忘れて、わたしは喉の奥から声を搾り取って言った。涙声なのがバレないように必死に声を押し殺した。
数秒の沈黙の後に、影は言った。
『心当たりがあるとこ、探ってみるよ。翠は今どこ?』
影がまだわたしに協力してくれることに、わたしは安堵を覚える。
「わ、わたし、今朔んち向かってて」
『じゃあ朔に伝えといて。終わったら、すぐ行くから』
そう伝えられ、電話は切れた。スマホの充電は10%を切っていた。膝の擦り傷が痛むことを忘れて、わたしは朔の家へと向かっていった。
わたしの王子様は、早朝どこかへいなくなってしまった。




