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「お邪魔します」
「いらっしゃい」
できる限りの優しい笑顔で、わたしは翠を出迎えた。
翠は思い悩んでるような暗い表情だった。きっとわたしが今日伝えようとしていることを察しているのだろう。
「まあまあ、そんな重く考えないで!お菓子食べながら話そ」
わたしは翠の緊張を解くように軽い調子で言う。
ローテーブルの前に座って、わたしは深呼吸した。早速、本題に入ろうと思う。
「あのね、うち、翠の恋を応援したい気持ちがあるのは事実なの。でも、巡の霞ちゃんを好きな気持ちを諦めさせるのはなんか違うなって思ってて」
「霞ちゃん?」
「あっえっと、巡がずっと好きな女の子のことね、言ってなくてごめん」
翠はポテチを1つ口に含んだ。真っ直ぐな瞳で、わたしを見ている。
「だからうち、どうすればいいのか分かんなくて。それで、とりあえず公平に翠に巡の過去にあったことを話すべきかなって。どうせ巡、翠に話す気はないと思うから」
「うん、ありがと」
わたしは再度息を吸って、口に出す。
「たぶんなんだけど、巡は高校生の時から霞ちゃんのことが好きなんだよね」
「うん」
「でもね、霞ちゃん高校生のときかな?に死んじゃって、あ、巡と霞ちゃんは同い年なんだけど」
「うん」
返事の声が小さくなり、翠は目線を下に向ける。焦燥が、わたしの中を駆け巡った。
「ずっと巡は霞ちゃんのことが好きだったんだけど、告白できないまま死んじゃったんだって。しかも、霞ちゃんストーカーに殺されちゃったらしくて」
「え」
「巡はずっと霞ちゃんのことを見てたのにそれに気づけなくて、すごく後悔してる」
翠は絶句したまま
「と、まあ全部影から聞いた話だから、どこまでほんとかわからないけど……ごめんね急にいろいろ混乱するよね」
返事はない。
「まあとりあえず、うちが話せることはこれだけ、かな」
しばらく、沈黙が流れる。お菓子を摘むことすら憚られるほど、静寂は強い存在感を放っている。
おもむろに、翠は立ち上がる。
「どしたの?」
わたしは聞く。
「……わたし、巡くんに言わなきゃ」
「え、なにを?もしかして」
「巡くんのことが好きだから、わたしも見てほしいって、巡くんが好きだった人が死んでしまったのなら、今度はわたしと一緒に現実を生きてほしいって」
「でも」
わたしは止めようとした。それはこの前影がやろうとして失敗したことだし、何よりわたしは、巡にはずっと霞を好きでいてほしい。でも、翠の気持ちを蔑ろにすることもできなかった。
「ごめんね、話してくれてありがとね。わたしも、ちゃんとこの気持ちにケリをつけたいから」
わたしは何も言えなかった。はっきりしない自分の意思がもどかしくて、ただただ黙っていることしかできなかった。




