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もう人生を生きるのに疲れた。
思えば、今まで心の底から楽しいと思えたことなんて、数えるほどしかなかった。
幼い頃は女手1つで育ててくれる母に気を遣うので精一杯で、学生時代は霞の存在だけが生きる意味だった。
それなのに俺は霞が見知らぬ人に付き纏われていることすら気づけず、霞の死に際に立ち会うだけで、最期まで好きの言葉一つも言えない臆病者だった。
今では、家族同然の友だちに酷い言葉を告げ暴力を振るってしまい、自分のことを好いてくれている子にずっと応えられずにいる。
「……」
右手に握る熊のぬいぐるみは、残酷なほど無機質的だ。
もう霞が来てくれなくなって何日経つだろうか。
影の言う通り、いい加減ケリをつけるべきなのだろうか。
「わかってる、わかってるけど、じゃあ」
霞のことは、綺麗さっぱり忘れろってのかよ。
母は仕事漬けの忙しさで俺には目もくれなかった。学校でも、周りと比べて特段貧乏な俺は友だちができづらかった。周囲との価値観が合わず、俺だけ一人浮いている感覚がしていた。だから外見を磨いて、人付き合いの練習をして、行く宛てのない家出少年をしばらく家に住まわせ、女の子に好かれるような表情を研究し、ちょっとした気遣いのできる優しい人間を演じた。
そんな俺が初めて素の自分を好きになってほしいと思ったのが、霞だった。
まったく話したことはないし、クラスは違う。初めてあの子の笑顔を見た時、俺が守ってやりたいと思った。笑顔が本当に、大好きだった。
まさしく一目惚れだったのだ。
だというのに、俺の前に舞い降りた天使は、突然消えた。
俺はいい人間を演じていてもなお、少女一人救えないのだった。
「……だる」
ため息を零す。机上の薬に触れるのが癖になっていた。
影はもうきっと、会いに来てはくれない。あんなことを言ってしまったのだ、俺の顔なんて二度と見たくないだろう。
結局俺は、誰にも愛されないままだ。外見を取り繕うことでやっと周りに人が来てくれるというのに、今ではもう、孤独そのものだった。
強いていえば、まだあの子だけは。
「はあ、ああ……」
本当にろくでもない人間だな、俺は。自分可愛さに溺れて周りの人間に迷惑をかける。自分を好いてくれる人はどんどん本性がバレて離れていく。自分が好きだった人はもういない。生きている意味なんてないんじゃないか。
唐突に、スマホのアラームが鳴った。
体内時計が乱れていて、今が朝であることに実感が湧かない。アラームのきんきんした音だけが、機械的に世間は今日も通常運転であることを教えてくる。もうここには普通の日常なんて微塵も残っていないが。
俺はよろよろとふらつきながら立ち上がる。トイレへ向かおうと足を運んだ。が、立ち眩みが酷くて途中で倒れてしまった。




