19
二人で化粧をしながら、わたしは聞く。
「あんたは今日何すんの?」
隣の翠はカラコンを入れながら答える。
「だから巡くんち行くんだって」
「え!待ってじゃあ今日告白する日!?もしかして」
わたしは下地を塗りながら聞く。
翠はカラコンを入れるのに苦戦しているみたいで、まだ片目しか入っていなかった。
「え告白!?今日した方がいいかなえっどうしよ」
「だってディズニー行けないじゃん。じゃあ今日じゃないの?ていうかカラコン入れるの下手すぎでしょ」
「わたしほんとにコンタクト苦手ー。でももともとディズニーの日にしようと思ってたから、まだ心の準備が……。あ、告白の話ね」
「あーね。……まあ、うちはいつでもいいと思うけど」
「ていうか朔は告白しないの?」
「え?」
「だって影くんのこと好きなんでしょ?」
「ちょっ、前のは忘れてってば!全然そんなんじゃないし!」
「うそー、顔赤いよ。朔こそ今日告っちゃえばいいじゃん」
「もうやめてよー」
「わたしは影くんいいと思うけどなー」
「てゆーか影、くん付けで呼ばれんの好きじゃないと思うよ」
「えっそなの!?呼び捨て?」
「うん」
そう言うと同時に、チャイムが鳴る。
「げ。もう来たの?」
わたしは鏡の前を離れて玄関へ向かう。鍵を開けて扉を開くと、そこには予想通りの人物が立っていた。
「化粧濃。顔赤いぞ」
影の第一声に、わたしは不意をつかれた。
「ま、まだチーク塗ってないし!てか来んの早いよ!」
「わりぃ」
それだけ言って、影は何事もないかのようにわたしの部屋の中に入る。
「え」
影は机上で化粧をしている翠を見てそう発する。
翠は「あ、どうも」とちょっと気まずそうに言った。
「あ、これ?似合ってる?影く……影に見せんの初めてだっけ?」
翠は自分の髪に触れて影に言う。が、影はそれには注目せず、なんでこいつが?という表情でわたしを見つめてくるので、わたしは「今日巡んちいって告るんだって」と言う。
すると、案の定翠は「まだ告るか決めてないってー」と照れたように言った。それを影が冷めた目で見ているのに、わたしは気づいてしまう。
「やめたら?」
彼の割にははっきりと、影は翠に言った。
翠のカラコンを入れる手が止まる。
わたしは影の空気で、影が言わんとしてることにやっと気づいた。
「なんで?だめなの?告っちゃ」
少しの沈黙の後に、影は「似合わないよそれ」と呟いた。
「え?髪?」
「前の方がいい」
「結構巡くん褒めてくれたよ?だめかな?」
影がそう言う理由が、わたしにはわかってしまう。
なんとなく、空気が重い。わたしは予後を察して場を取り繕おうとする。
「似合わなくはないけど、まあ、うーん、そうだな」
失敗。
「え?なんか怒らせちゃった?」
「いや違う、けど巡んち行くのもうやめたら?」
「え?どうして?急に」
影はわたしを見る。が、わたしは翠にどう言えばいいのかわからず、結局なにも言えなかった。
「巡の好みに合わせたんでしょ?」
「!やっぱわかるよねー……」
しばらく沈黙が続く。
「巡くんちに行くのやめたら?って、どうして?」
翠が聞く。わたしたちは顔を見合わせなくとも、同じことを考えているだろうと悟る。
「え?なにそれ、もしかして巡くんに彼女さんができたとか?そゆこと?」
わたしたちは黙った。影がなにも言わなさそうなので、わたしは押し殺したような声で言おうとする。
「翠、巡の――」
「ほんとになにも言ってないんだな」
するとわたしの声を遮って影が言った。
「じゃあ行けば?巡から聞いてくればいいよ」
「な、何を?」
「俺は行くのおすすめしないけど」
「ちょっと待ってよ影」
思わず声を出す。完全に冷たい空気が流れて、わたしは2人の間に誤解が残らないようにすることで必死だった。
なんとなく、いい気分ではなかった。




