↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/45

13

自転車を漕いでいると、海辺に一人で佇む天使をみつけた。急いで自転車から降りて駆け寄る。カゴのさっき買ったアイスの入った袋を持って、彼女まで近寄る。手が届くか届かないかの距離まで近づいた時、天使は振り返った。

その綺麗な横顔を、俺は一生忘れないだろう。


「あっ、あの、えと、4組の藤本さんだよね?」

「そうですけど」

天使はワイヤレスイヤホンを外して言った。

「おっおれ、俺5組の橘です」

焦って狼狽えて、手汗が滲み出てきてるのがわかる。

「あのさ!アイスあるから、一緒に食べん?」


これが、俺と霞の出会いだ。


本当は家で自分で食べるはずだったハーゲンダッツを、俺は袋から取り出す。

それを見て霞は、「わたし抹茶好き」と笑って言った。

「まじ?じゃああげるよ」

「ありがと」

「さっき急にごめんね、何聞いてたの?」

「あっえっとね、サウシードッグって知ってる?」

「あ待ってわかるよ!あのー、あれでしょ、シンデレラガール」

「シンデレラボーイ」

「ああそっちかごめん」

体温が高くて、俺のアイスだけ溶けるのが早かった。

どうやら霞は、放課後一人で海辺で音楽を聴くのが趣味らしい。何か家に帰りたくない理由でもあるのだろうか。たしか、えーっと、

「よいしょ」

おもむろに、霞は立ち上がる。

「どうしたの?」

俺は聞く。

「どうして、巡くんは助けてくれなかったの?」

「え」

突然頭が真っ白になった。霞は無感情な表情で、立ったまま俺を見下ろす。

「わたしがストーカー被害にあってること、どうして気づいてくれなかったの?」

「ごめん、それは」

突然、霞が豹変して俺の背中に冷や汗が伝う。気がする。

「なんで最後の最後まで、気づかなかったの?」

「ごめん、ほんとごめん」

違う、違う違う、こんな記憶はない、これは悪夢だ。

「もうこれいらない」

霞は手に持っていたアイスのカップを地面に置く。

「え?なんで?霞ハーゲンダッツ好きじゃん」

「わたし、行かなきゃ」

「待ってよ!」

霞は海の方へ向かって歩き出した。

「なんで?」

彼女の表情は、今までのどの瞬間よりも冷酷だった。

「待ってって!お願いだから!お願いだからそんな顔しないでよ、笑ってよ」

「でも巡くんはわたしのこと助けてくれなかった」

「待って、それは!」

「ばいばい」

「待って、行かないで!俺、俺さ、まだ」

砂場で足がもつれて思うように進めない。霞は既に海の中へ足を踏み込ませている。

「俺まだ、君に伝えないといけないことが!」

霞は振り返ることなく、海の中へ倒れ込んで行った。


待ってよ!


「――っ!!はぁ、っ、はぁっ」

俺は勢いをつけてベットから上体を起こす。

目眩と耳鳴りが激しく、まだ夢の中にいるようだった。両手でぬいぐるみを探す。右手にぬいぐるみの耳を捉える。少しだけ安心したような気がした。

瞬きをして初めて、自分が泣いていたことに気づく。ぬいぐるみを抱き寄せ蹲るようにして布団に潜った。

悪い夢を見た。霞との出会いの記憶が、間違った悪夢に侵食されたようだった。

スマホのアラームが鳴る。時刻を確認する余裕なんて俺にはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。