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巡の背中を叩いて、呼吸を落ち着かせる。
「薬は?」
俺は聞いたが巡は首を小さく振るだけで答えなかった。
「うっ……」
「大丈夫かよ」
「ああ……っ」
巡は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
俺はしばらく巡の背中を叩いていた。
「あの子には?」
「え?」
かすれ声で巡は答える。
「あの子には言ってるの?どこまで?」
「……なーんにも」
か細い声で、でも軽い調子で巡は言った。
「可哀想だろ、言えよ。そうやって期待ばっかさせんのまじでよくない」
「お前が言うな」
巡が咳き込む。俺は言葉の意味がわからなかったが聞き流した。
「本当に何も?」
「言ってないよ。言う必要ある?」
「だってお前、あの子たぶん、お前のこと好きだよ」
「……んなの言われないでもわかってるよ」
「じゃあ期待させんなよ。お前はあの子のことなんて見てないんだろ?」
「そんなことない……。俺はちゃんと翠のことも好きだよ」
「意味わかんね」
「ベクトルが違うだけ。翠を好きなのとお前とか朔を好きなのは同じ。でも霞は違う」
だいぶ巡の呼吸が落ち着いてきた。
「いつまでこんなのやってんの」
俺は小さく言う。巡は答えなかった。
「もうすぐ霞さんが死んで3年経つだろ。ずっとこのままで行くつもり?」
「黙れよ」
巡の突然の低い声に、俺は刹那戦慄した。
「死んだとか言うな。霞はいっつも、夜になると俺のこと慰めに来てくれるんだよ」
唖然として、俺はしばらく沈黙のままだった。気づかぬうちに朔が店から出てきて、心配そうな表情と声で「だいじょぶ?」と聞いてきた。
「あっ、うん、いつもの」
巡の代わりに俺が答えて、俺は巡の腕を掴んで店へ戻った。
席を綺麗にして水を用意している翠がこちらに気づき、心配したような、安心したような表情で見つめてくる。
席につき、「だいじょぶ?」と本気で心配しているような声を翠がかける。と、巡は「ごめんごめん、さすがに飲みすぎたわ」と茶化して返す。
ほっとしたように表情が緩んで、翠の目には薄ら涙が浮かんだ。
純粋で健気な翠が、哀れに思えた。




