20XX年 9月某日 看護師の見た夢
身体が動かない。
指一本、動かせない。
目が覚めた時から、こうなっていた。
ナース服は、着ていないようだ。だが、内衣は着用している。
首も、動かない。瞬きだけは、できる。
目に映るのは、無機質なコンクリートの天井、だけ。
なにか、薬物を飲まされたのだと思う。
意識ははっきりしているから、オピオイド系の抑制剤かもしれない。
あるいは血糖値を下げるインスリンの大量投与とか?
いや、こうはならない、はず。
じゃあ、鎮痛剤のフェンタニルなら、もしかしてあり得るかもしれない。
ああ、医局のあの先生、そういう薬剤の調合が得意だったわよね。
そうか、なんだ、悪い冗談か。
そんなはずはない。いくらなんでも、あり得ない。
こんな、人を騙して、意識を、自由を無理やり奪う薬を飲ませるだなんて。
あり得ない。あり得ない、はず。
でも、私は、命令とはいえ、あの子に、薬を飲ませた。
騙して、誘導して、逆らえないようにして。
意識を、自由を、信頼を、無理やり奪って、薬を飲ませた。
でも、それは仕事。そうでもしないと、あの子の拘束具は外せなかった。
それは、当たり前の話。
じゃあ、私が今、こうして天井を眺めたまま、指一本動かせないでいることも。
当たり前の、話なの?




