55.覚悟
何が起きたか分かってから、それを理解するまでタイムラグがあった。
和也さんが狙撃された事実を受け止めるのに時間がかかったのだ。
ここは確かに降下しやすいように開けた場所ではあるが、連邦支部から3kmは離れた場所だ。
レクチャーを受けたけど、スナイパーの射程は基本的に1km前後。2kmレベルもあるらしいけど、風などの条件が難しく狙うような精度は見込めないらしい。
監視衛生には付近に人等の熱源もなかったし、偵察部隊が確認している。
それを元にこの場所を選定したはず…
え、まさか……
私たちが聞いたのは一般的な話だ。もしそれが適合者だった場合は?
軍で訓練していたベテランが、適合者となり感覚が鋭くなって、風等の条件を拾い上げれるようになったら?
一般兵では扱えないレベルの、適合者用に反動などを許容したスナイパーライフルが製作されていたら?
3kmは安全圏ではないのかもしれない。
思考が巡り、緩んでいた空気を引き締める。
肩は…、少しかすって幅1cmくらい肉が持っていかれた形か。大丈夫、そこまで深くない。
包帯で傷口を縛って止血を行う。
動かすとまだ痛むが応急処置で十分だ。適合者の回復力なら問題ない。
まだ、ここは狙われているのだろうか?
確かに立ち止まって長く話していたけど……
「アリス、大丈夫か?」
アレンが心配そうな目を向けてくる。
「ん、大丈夫、それほど深くない」
肩の傷のため、包帯を口と右手で引っ張りキツく縛る。
「アリス、怪我の程度は?」
「肩を撃たれましたが、カスっただけです。少し痛むくらいで戦闘には問題ありません」
「アリス、アレン、どうしたの??」
「リリさん、おそらく狙撃されました。晴也さんが、なくなりました」
「え!?そんな...、2人は大丈夫?」
「はい、私は肩を掠っただけです」
「俺は大丈夫ッス!」
「良かった。そのまま隠れてて。手動で確認する!」
上空のサンダブリッツには、下部にカメラがついている。そのカメラで確認するのだろう。
「アリス、アレン狙撃手は確認出来たか?」
「いいえ、ですが、今サンダブリッツから確認してもらっています」
「なるほど!それは助かる!」
「各員、物陰でそのまま待機!!
グエンさん聞こえますか?」
ローガンさんが全員に指示をだして、東軍側へコンタクトをとっている。
着弾点を確認する限り、連邦支部方向なはず。
しかも、着弾は……4箇所。
確実に私たち【11の頂点】を狙っていたようだ。精度はめちゃくちゃ高い訳ではないのかもしれないが、この距離から撃たれるのは脅威だ。
特に不意打ちの初弾は。
「いた!!連邦支部南棟の最上階!」
「了解!ローガンさん!南棟の最上階です!」
「了解だ!全員!連邦支部南棟との射角に注意しろ」
〖ローガン、そちらの状況は?〗
東軍から連絡のようだ。
「まずいです、狙撃されました。和也が死亡、アリスも肩を、その他無事です」
〖そちらもか、こっちも狙撃された。私が左肩を撃ち抜かれて、左腕が使えん。ライアンは右脚を撃たれた。ローレンスは無事だ。〗
向こうもグエンさんが撃たれたようだ。私よりまともに肩に当たったみたい。
かなり状況は悪いかも...
「これは一旦仕切り直しても……」
「ローガンさん!連邦に動きあり!東軍に攻め込み始めました!レベル7を複数確認!」
っ!?
〖……とのことだ、すまんが至急、援護を頼む〗
「くっ!西軍に継ぐ!連邦は東軍に主力を出撃させた!我々も一刻も早く援護に向かう!狙撃手に注意しろ!」
「「了解」」
これは良くない。狙撃で負傷している所に、万全の連邦がきたら……
「アレン、急ぐよ!」
「おう!俺もオヤジを助けてやる!気合い入れてくぜぇ!!」
隠れていた所から飛び出す。レベル7であれば狙われていることが分かっていれば大丈夫。
だけど、私たちについてくる隊員のためにも、弾丸は全部切り落とす。
走り出して少ししたら、連邦から機関銃?が連射され始めた。
私は能力を行使して前方に銃弾を防ぐの盾として氷壁を展開する。
「みんな、私の後ろに!!」
「「「了解!」」」
氷壁を維持し、動かしながら近付く。銃弾で削られた分は直ぐに再生させながらだ。
近付くに連れて弾幕が集中する。
もう、すぐそこに見える連邦支部からものすごい集中砲火を受けている。
対空砲らしきバカでかい砲撃も飛んできており、爆音が鳴り響いていた。
ドンッ!!
ドドドドドドドド……
ドーンッ!!
この辺りから銃火器の連射に混じって、グレネードだろうか?爆発も混じってきた。
こちらの機銃部隊も打ち返しているが、攻城戦のような状態になっている。あまり効果は見られない。
ここは連邦の土地、こちら側は戦車や装甲車は動員出来ていない。
氷壁でみんなを守りながらここまで来たが、弾幕が強すぎて、これ以上進めば被害が出てしまう。
ぐっ、これは想定以上の弾幕の量だ。こんなに配備されているなんて、余程準備していたのだろうか?
パシュッ
あれはっ!?
「く、栗谷さん!!」
「おう!!」
氷壁の上を超えてとんで砲弾が飛んでくる!これは想定していたやつだ。機銃部隊のベテランから聞いた迫撃砲とか言うやつだったか!?
あれは直線的じゃなく、かなり放物線を描いてくるらしい。だから、氷壁を超えて爆発したらかなり被害が出てしまう。
事前に決めていた通り、栗谷さんが風を操り砲弾を止めて、連邦側へ吹き飛ばす。
砲弾が連邦支部外壁に当たって、一部が吹き飛んだ。うん、あれは注意しないといけない。
っ!
まただ!
「1発も通さねぇよ」
ドゴーン!!
爆発の重低音が響き、また外壁を削る。
今の所、打ち返したものが1番効果が出ている。
ドドドド……
いつまでも続くかのように、絶え間なく撃たれ続けている発砲音。
戦線が膠着していた。
まずいな...
目視出来る限り、レベル7級がいない。
東軍へ集中しているかも。
急いで向かわないといけない...
「アリス!最大出力で氷壁を展開しろ!その後に適合者で突っ込む!!」
この状況を打破するため、ローガンさんから指示がくる。
「ですが!!それをすると!!」
「分かってる!だが、これは指揮官としての判断だ!責任は全て俺がとる!!」
「っ!?」
私が維持しなくなったら、氷壁も直ぐに破壊される。この掃射が全員に向けられる。
適合者でも無事で済まない程の銃撃が機銃部隊に向けられるということ。
...私が見捨てるってこと。
だからローガンさんはあんな言い方をしたんだろう。
「時間がない!!俺達で直ぐに制圧すれば被害が減らせる。奴らの目的は時間稼ぎだ!急がないと東軍が全滅するぞ!!」
ぐっ……
「ミスカ副隊長殿!」
呼ばれて反射的に振り向くとそこには、私達に銃火器について指南してくれた機銃部隊のベテラン隊長の姿があった。
「確かに我々はあなた方のような能力はありません。ですが、足を引っ張るために参加している訳でもありません!この作戦も覚悟の上で参戦しています!我々をただの足でまといにしないでくださいっ!!
君は君のやるべき事をするんだ!!」
ッ!!
私は...バカだ!思い上がっていた。
勝手に守らなきゃいけないと思っていた。既に状況は動いているのに、いつまでも守ろうと、彼等の覚悟を、努力を踏みにじっていた...。
「すみませんっ!ローガンさん、やります!!」
ローガンさんもこちらをしっかり見つめて頷く。
私は大きく息を吸い、集中する。
「すぅぅ〜〜〜...」
いつもより、全ての音がクリアに聞こえる。
「【氷壁】最大展開!!」
「全適合者!突撃して制圧しろ!!」
私の氷壁に合わせて、戦闘が激化していく。
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