炎の大魔導師と酒場 -4-
「おばさんではなく?」
「あんたがおばさんだとしたら、おれはおじいさんになってしまうじゃねえか。冗談はやめてくれ。ガッハッハッ!」
眼帯の男はおかしそうに笑い飛ばしましたが、こちらとしては深く困惑を極めています。
お姉さんと呼ばれても、まるで自分のことな気がしません。
「そうか、そうか、炎の大魔道師ってのはホットワインがお好みなんだな」
眼帯の男はイカつい見た目とは反して、人のいい性格をしているのかもしれません。堅苦しいわたしと、ささやかな会話を楽しんでくれています。ええ、自覚はあります。
この男に、フレデリック君のことを聞いてみるのも良いかもしれません。
「ところで、町内会の掲示板についてお尋ねしたいことがあります」
「ああ! 明日のレースはどの馬が来るかって話だな! おれは2番が来ると読む! なんといったってあの人気馬は調教もメイチだからな! 今回が本番だぞ!」
二枚目に張り出されていた競馬について、眼帯の男は浮き足だった様子で話し始めましたが、わたしが今話したいのは競馬の話ではありません。しかしながら、
「馬の話はいったん置いておきたいところですが、わたしは7番の馬が来ると予想しています」
そこは競馬。レースが明日に迫っているというのに、このウズウズを止めることは困難です。
「むっ、7番か。おまえは穴党なんだな」
「ちがいます。わたしは理由なき穴狙いはしません。7番を推すには膨大なデータから導き出された、れっきとした根拠があります」
「れっきとした、根拠、だ、と? くっ、さすが炎の大魔導師であるわけだ。その、根拠とやらを、おれにもすこーしご教授願えないか?」
「問題ありません。それでは特別に教えてあげます。明日のG1、高市宮記念に勝つ馬の条件とは、前走出走情報、このレースにおける成績の良い馬体重、血統、洋芝適正、重馬場適正、調教傾向、コース適正、前走における4角の通過順位、上がり3ハロンのスピード、はたまた隣の枠に入る牝馬が苦手ではないか、もしくは必要以上に牝馬にうまっけを出して実力が出せないタイプか、このコースが得意なジョッキー、はたまたジョッキーの調子が上がるご当地食べ物があるか、ジョッキーの自宅に泥棒が入られて高級腕時計を多数盗まれていないか、etc.etc.etc.……」
「くっ、くそっ! ま、まだあるのか!? いったいぜんたいデータが膨大すぎてまったく頭が追いつかねえ! あとどんくらいあるんだよ、この女、いっさい言葉を区切らずに永遠にデータについて話し続けてるぞ!」
7番のオッズは3桁です。このレースに勝てば、将来は安泰といえます。7番を買うためには、1000はくだらないデータから導き出された必勝法があります。当然のことながら、すべてを話し終えるには5時間は見込まれます。




