炎の大魔導師と酒場 -1-
おなじみのリンリンシチー。
はじまりの街にふさわしく、平和なだけでなんの面白みもない街、リンリンシチー。
旅の冒険者でもなんでもないわたしは、ここにしょっちゅう訪れます。
買い物をするのもここ。リフレッシュにお茶しに来るのもここ。たまに郵便物を出しに来るのもここ。病院の世話になるときもここ。
大都会というわけではありませんが、ここにくればひと通りなんでもそろっています。
森の中にあるポツンと一軒家に住む炎の大魔導師にとっては、非常に便利であり、なくてはならない街、リンリンシチーです。
ええ、くどいのは百も承知です。
ただ、この一見なんの変哲もない、おだやかなふつうの街にも、それを一変するようなことがふいに垣間見えることもあるため、世の中、ふつうに平和な毎日などどこにもないということを、いつか思い知ることになるのです。
通りの隅とか、建物の影とか、行き止まりの先とか、そのような辺鄙な場所に違和感が潜んでいるのではありません。
違和感とはときに、堂々と目の前に現れることがあるのです。
"歴史的決着のついたあやとり選手権に不正疑惑あり! 優勝した彼が操っていた一本の紐こそ、実は彼の指そのものだったのだ!!"
街の掲示板に貼り出された一枚目の張り紙。
あやとり選手権で優勝するということは、将来、その優勝者は宰相への道を築いたも同然の功績です。そのような重要な大会に、そもそも異様に指がやわらかい人物が参加し、あまつさえ優勝しているというのですから、これは非常に由々しき事態です。
しかしながら、この貼り紙はずいぶん以前に貼られたもののようであり、日付は古く、砂煙を被って、黒く汚れています。つまりは誰も、将来この国が、指がやわらかく自在に曲がるだけという特技を持っている人物に、ゆだねられるかもしれないという可能性に、国民は無関心でいます。これもふつうの中に潜む違和感のひとつです。




