炎の大魔導師、風邪をひく -3-
朝。目が覚めると、黒い羽毛はまだわたしの肩口にぴたりと張り付いていました。
「あ、おはようございます、ミリアのおかみさん。熱は下がりましたか」
羽毛の正体はペギーです。少しの身じろぎで、起こしてしまったようです。
「問題ありません。この通り熱は下がりました」
固まった体をほぐすべく、腕を真っ直ぐあげた後、肩を回してみると、バキボキと小気味いい音が鳴ります。
体調の整った朝は気持ちいいものです。
「良かったです、ちゃんと下がったみたいですね」
ペギーがわたしの額に、羽毛に覆われた小さな黒い頭をくっつけ、体温を確認しています。これがヒョウザン山でイワトビー一族を恐怖に陥れていたブラックペギーの現在の姿なのですから、世の中捨てたものではありません。
「そういえば、頼んでおいた火の番はどうなりましたか」
「えっ、火の番ですか」
ベッドから降りて台所に向かい、火にくべていた鍋の蓋を開けると、予想だにせぬ光景が目に飛び込んできました。
「中身は、どこに消えましたか?」
鍋の中は空っぽでした。
昨日の正午から夜八時まで鍋を火にくべておけば、それはすでに完成していたはずなのです。
「ご、ごめんなさい、おかみさん。オレサマ、オレサマ、おかみさんとの約束を守れませんでした」
力なく肩をすぼめたペギーの三白眼が左右に泳いでいます。
ペギーの話では、どうやら昨日の夕方には、火は消えてしまったらしいのですが、それでは中身まで喪失してしまった理由にはなりません。
何があったのか問ただそうにも、ペギーは謝るばかりで、肝心なことを話してくれません。
仕方ないので、奥の手を使います。
「えーん、えーん」
「お、おかみさん? どうしたんですか! ま、まさか、泣いて? もしかして、また熱が!」
「熱ではありません、えーん」
「熱じゃないなら、どうしてそんなんに泣いて......ハッ、まさか、鍋の中身がなくなったからですか? そこまで、おかみさんを悲しませる、鍋の中身とはいったい......。あっ、おかみさんのことだから、重大な魔導アイテムを作成していたところだったんですね! それなのに、オレサマときたらなんてことを! トビーをぶん投げて、鍋を火ごと倒してしまうなんて! 嗚呼っ......!」




