炎の大魔導師はゲートの中 -1-
いよいよ3回目未勝利戦出走の日がやってきました。
この日まで、何度か調教に駆り出されましたが、ヒョロヒョロなためほとんどまともに走ることができず、モサモサの飼い葉に食欲も湧かないためあまり食べることもできず、ますます馬体を小さく細くしてしまいました。
新馬戦、未勝利戦を合わせ三回連続大敗すると、ペナルティとしてその翌日から2か月間レースに出走できなくなり、事実上の引退を余儀なくされます。
多少なりとも走りに見込みがあれば、地方競馬へ移籍など、新たな進路も用意されますが、まったく走らないとなれば救いようがありません。
最弱未勝利馬の登録抹消は、非情ですが、無念の結末をたどることが少なくありません。
とある世界線の牝馬なら、血統を認められて繁殖に上がる道も用意されますが、わたしの生きる世界線においては、馬は人の生まれ変わり、と噂されています。つまりは馬の親、そのまた親などの情報については、完全にシャットアウトされています。とある世界線の競馬はブラッドスポーツ、かたやこちら側ではダークな心意気すら感じる、もと人族たちの罰ゲームスポーツ、とでもいったところです。
ただし一点、気になっていることがあります。わたしには子馬だったときの記憶がありません。かのカノープスから「馬になってしまえ!」と叫ばれ、うるさいチビデブハゲだなとあきれているうち、気づいたらわたしは、栗西トレーニングセンターにある馬房の中に馬として四つ足で立っていました。
このことから、人は生まれ変わったら馬になるという説より、人生の途中にある日突然馬に変身する、という見方の方が正しいのかもしれませんが、馬であるがゆえこの真実をだれかに伝えることはできませんし、馬同士が会話し確認し合うこともないので、わたしだけが例外であることを否定することもできません。
——話を戻します。
どちらにしろ、今日の未勝利戦で勝てなければ、わたしの競走馬としての未来は絶たれます。そして最弱なわたしにかけられたオッズは856倍です。これほどの高いオッズは馬券を買っていたころから見たことがありません。
デッド オア アライブ。
まさに命懸けの未勝利戦ですが、賢いヒロイン枠でなかったとしても、片足どころか胸までデッドに突っ込んでいることは、だれの目から見ても明らかです。




