炎の大魔導師、馬になる -4-
「待たせたね。ブラシはこれくらいにして、今は暖かくしていよう。なぜだかきみはいつも寒がりだからね」
小走りで戻ってきたフレデリックは、わたしの背中に馬服をかけて、胸前、お腹、お尻のあたりをベルトで留めてくれました。
あれから、フレデリックはいつもソワソワしています。
厩務員として、各馬の世話をしているときも、ついその辺に座り込んでしまっているときも、つねに周囲をキョロキョロしています。
そのため、
「おい、新人! よそ見するな!」
と先輩方からよく叱られています。
「おかしいな、どこにも見当たらないではないか」
また、フレデリックはどこか思い詰めたような表情を見せることが多くなりました。
その原因は、もと炎の大魔導師ミリアであり、現競走馬名ミレニア号であるわたしが、こっそりフレデリックのブリザードバングルを失敬したことにあります。
バングルの隠し場所は状況に応じて移動させていますし、まさか馬がバングルを隠し持っているとはだれも想像しないでしょうから、そう簡単には見つからないでしょう。
「弱ったな、あれがないと大変なことになる」
フレデリックは青ざめていますが、問題ではありません。
ブリザードバングルは氷魔法の魔力が宿った魔道具。
もと炎の大魔導師として、そこに魔道具があるなら手にしないわけにはいきません。
今のわたしは魔法をいっさい使えませんが、魔道具があれば話は別です。
氷魔法は専門性とは真逆の性質であり、本来は苦手要素です。あのとき(フレデリックに軽い気持ちで前脚にバングルを装着されたとき)のように、 “プチブリザード” を放てば、多少寒さは感じてしまうものの、馬として我慢できないほどはありません。元来、馬とは寒さが得意な動物です。
幸い、詠唱なくして魔法を放てる能力は、馬である今も備えています。
ヒヒーン、ブルブルと鳴こうが鳴くまいが、魔道具さえあれば魔法を放つことは可能です。
これでも、伊達に賢いヒロイン枠を自称しているわけではありません。




