炎の大魔導師、馬になる -3-
このとき、わたしは理解しました。フレデリックは最初から自らを、氷の大魔導師と称していました。
ですが、わたしはこれまで、氷の大魔導師フレデリックという名を耳にしたことがありません。
仮に、真に世界にとどろく氷の大魔道師であるなら、せめて同業者ならその名を知る機会があるはずです。
魔導師そのものは世界に多く存在しますが、大魔導師となれば数は限られてきます。扱える魔道は複雑になりますし、学会に発表すれば専門誌に掲載されることも、国や団体から表彰されることもあります。
わたしとて遠い昔、宮廷に仕えながら、魔導師としてそれなりの功績を上げたことにより、炎の大魔導師ミリア・ペリファーニアの名は、世界中に知られることになりました。しかしながら栄光を得ることと、魔導師としての満足感を得ることは同位ではありませんでした。
さらにいうと、賢いヒロイン枠であるわたしとて、最初から賢いヒロイン属性持ちだったわけではありません。
未熟な年代は悩むこともありました。結果、宮廷を出ていく決意をするできごとがあり、森の中にポツンと暮らすただの炎の大魔導師となり、賢いヒロイン枠を自称することにより、わたしの心は落ち着きを取り戻しました。
ぜいたくをしなければ数年は暮らしていけるだけの貯蓄もあり、好きなだけ魔道研究に打ち込みながら、週末の競馬と、最低限の体力確保の目的で始めたはずのドラクエウォークにどハマりしながら、だれに会うこともありませんでしたが、日々がおだやかに過ぎていきました。
宮廷仕えをしていたときのように、世の中の動きを追うことも、魔道の専門誌に触れることも綺麗さっぱりなくなっていたので、そのとき世界でどのような魔導師が名を馳せ、活躍しているかなど、知る由もなければ、まったく興味もありませんでした。
そんなとき、フレデリックが突然わたしの家の玄関をたたき、氷の大魔導師と名乗り魔道勝負を挑んできたときも、わたしは彼の正体について、そもそも関心を抱きませんでした。
彼が真の氷の大魔道師にしろ、ペテン師にしろ、問題に感じていませんでした。しかし、結果的に、彼の氷魔法はブリザードバングルという魔道具によって生み出されたものであろうことが判明し、つまり彼は氷の大魔導師などではありませんでした。
そして、今となっては少々気になることがあります。彼はなぜ、ブリザードバングルを装着してまで、わたしに唐突に魔道勝負を挑んできたのでしょうか。単に、ハイボール用の氷をそのバングルで作って、友人と飲み明かすだけでは事足りなかったのでしょうか。




