炎の大魔導師、馬になる -2-
「あ、そうだ、おまえから借りてた氷を作れる腕輪、返しとくわ。ほい」
「氷を作れる腕輪などど軽々しく呼ばないでくれたまえ!これにはれっきとしたブリザードバングルというすばらしい名称があるのだからね!」
「ほぼ氷の腕輪じゃねえか。ハイボールの氷作るのに便利だったわ。また貸してくれよな」
そういうと、その男はわたしを担当している男に腕輪を渡し去っていきました。
長い首を伸ばして、ちらりと覗き見すると、その腕輪には"フレレリッコ"という名前が掘り込まれていました。
ドゥバイーの王族でありながら、世界きっての大馬主であるカノープス様が、ご子息を呼んでいたときの名前がフレレリッコ。つまり、この金髪の前髪がくるんとした、どこか話し方が大袈裟な厩務員のこの男こそ、あのフレデリックなのです。
「やはり、スズキにブリザードバングルを貸したのはまちがいだったな。どうしてもというから貸したのだが、あんな使われ方をするくらいなら貸さなければよかった」
フレデリックはガッカリしたように頭を振ると、そのブリザードバングルをどういうつもりでしょうか、わたしの前脚にカチッと装着しました。
「レディなんだから、たまにはおしゃれするのも悪くないだろう。よく似合っているじゃない、かーー!?」
そのときです。一陣の冷たい風が、わたしとフレデリックのあいだをヒューと吹き抜けました。まるで氷山をうちわであおいだかのような寒々しさを感じましたが、その風はすぐにやみました。
「今のはなんだったのだ!? 季節は初夏だというのに……!」
フレデリックは驚いて周囲を見回していますが、そこにいつもの見慣れた山の中にあるトレーニングセンターの風景があるばかりです。
「おかしなことがあるものだな」
フレデリックは「さて、ではこれは外しておこう」とつぶやくと、わたしの前脚からブリザードバングルを外し、ズボンの前ポケットに入れました。
「よし、すぐにブラシを再開しよう。 ……うん? ミレニア、おまえ、ふるえているのか。先ほどの風がよほど寒かったのだな。少し待っていてくれたまえ、すぐに馬服を持ってこよう」
フレデリックはブラシを置くと、わたしを洗い場に残したまま駆けていってしまいました。




