炎の大魔導師はゲートの中 -2-
しかしながら、馬に成り代わったことを悔やむ気持ちはありません。
レースを走っている馬はもと人らしい。
そのような残酷なうわさは承知の上で、人であったころ、いうなれば競馬を楽しんでいたのです。
今こうして馬になったとき、馬になるのなんかいやだ、勝てなかったら処分されるのなんかいやだ、などとどの口がいえるでしょうか。
うわさとはいえ、遅かれ早かれ人はいずれ馬になる運命を背負っているのなら、いざ馬になったとき騒がないことです。
騒ぐとは品がなく格好悪いことです。
それ以上に問題なのは、騒ぐ馬とは、つまり気性の荒い馬ということにもなり、気性が荒い馬は、余計な発汗をしてレース前すでに体力を消耗している、ゲート内がいやすぎてスタートを出遅れる、ジョッキーのいうことを聞かず序盤から飛ばして後半にダレる、そもそもイヤイヤが強すぎてジョッキーを振り落とすなどなど、問題点が目白押しです。
どうせ馬になったのなら、距離ロスなく、馬場のいいところを通って、賢くスマートにレースを運びたいものです。
とはいえ、わたしの主戦ジョッキーには問題があるため、馬として気性よくしたところでジョッキーの手腕には一切期待できません。
「今日の昼飯、なんにしようかなあ」
パドック周回中。わたしにまたがっているジョッキーがぼそっとつぶやきました。
「今からレースだというのに、集中してくれたまえ」
わたしの手綱を引いている厩務員のフレデリックに注意され、ジョッキーはふてくされたのか、そのまま黙り込みました。
「まったくっ……」
手綱を通して、フレデリックの苛立ちが伝わります。
どういうわけか、新馬戦から三回目の未勝利戦まで、わたしの主戦ジョッキーは毎回やる気のないこの男です。前回のレースなど、わたしにまたがる前に、ジョッキーがほじっていた鼻くそをわたしの馬体になすりつけようとしたので、フレデリックが瞬時に自身の掌を広げて鼻くそを直接受け止めた、という経緯があります。
やる気がないだけならまだしも、実に失礼千万な言葉通りのくそジョッキーです。
そういうわけで、くそジョッキーの手腕に任せていては、効率のいいレース運びなど到底かなわないため、毎回経済コースを取捨選択してレースを回ってくるのは、馬であるわたしの頭脳によって決まります。
さいわいといえるのか、このクソジョッキーはまったくやる気がないため、レース中にもただまたがっているだけで、邪魔をしてくることはありません。
たとえどのようなジョッキーが乗ったところで、馬とはいえ賢いヒロイン枠であるわたしの進路どりにかなうはずがないので、むしろ好都合といえます。




