炎の大魔導師とわきたつ競馬場 -20-
「焼いている? わたしがカノープス様を? まさか、冗談はおやめください」
「そら! そこ、そこだ!そこから火の玉が出てわしの服を焼いておろうが!はよう消さんか!」
にわかにはカノープス様が何を言っているのか理解できませんでしたが、カノープス様のお召し物に視線を落とすと、ダークブルーの高級ジャケットの裾から、わずかにプスプスと黒煙が上がっているのが目に入りました。
「どうされたのですか。衣服が焦げております」
「だから熱いといっておろうが! ぼけっとしたらんで、はよう火の玉をおさめんか!」
ーーすべてを理解しました。
わたしは無意識とはいえ、競馬がスタートしたというのに、カノープス様がいつまでもペラペラとうるさかったので、ついイラ立ちから掌の中にファイアーを発してしまい、その熱が伝わって、となりに座るカノープス様のジャケットの裾を焼いてしまったようです。
何度も「アツい、アツいぞ!」叫ばれていたのは、てっきりカノープス様もレースに夢中になって、声が出ていたものと認識していましたが、ただ物理的に焼かれて熱かっただけ、という事実がここに判明しました。
「申し訳ありません。競馬に熱中したあまり、わたしの"ファイアー"がカノープス様のお召し物に引火してしまいました。まこと申し開きの言葉もありません」
まるで時がとまったかのごとく、張り詰めた空気が立ち込めています。
いまさらファイアーおさめたところで、犯した過ちが消えることはありません。漂う焦げ臭さと、ボロボロの炭になったジャケットの裾が、事の重大さを物語っています。
「貴様……ーー詠唱もなしに炎の魔法を放ったというのか……? 小娘と思って油断しておったが、名をなんという」
「ミリア・ペリファーニアです」
「ミリア、だと--……!?」
「はい」
「ミリアペリファーニア……貴様、まさか、あの……しかしそれでは年齢の説明がつかんーー」
「……」
「ええい! 考えるのも面倒だわ! 小生意気な魔法使いめ!貴様がしでかしたことは断じて許されるものでない! その罪! 馬になってあがなうがよい!」
【第三部 完】
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