炎の大魔導師とわきたつ競馬場 -18-
「そうと分かれば一刻も早く観戦席へ」
「う、うむ」
やはり既に馬主用の観戦席は高市宮記念に出走する馬主たちで賑わっています。さきほどのフレデリックとカノープス様の会話にもあった通り、今回カノープス様の馬は高市宮記念には出走しませんが、カノープス様はその太めながら小柄の体をどっしり椅子に腰掛けて、悠々とレースを観戦されるようです。
馬主席は細かく割り当てられているので、いくらドゥバイーの大馬主カノープス様といえども、当日のG1に出走させる馬がいないのに最良席というわけにはいきませんが、ゴール板はきっちり捉えられる、前方三列目の席です。準良席であることにはちがいありません。
さきほどから、「あの……」やら「その……」など、何度かとなりに座るカノープス様から話しかけていますが、対応するほどではありません。
すべての返し馬が終わるまで、一頭ごとの物語に全集中あるのみです。
全馬が返し馬を終え輪乗りを開始すると、ようやくホッと一息つけ、双眼鏡も下ろせるというものです。
レース開始までそれこそあと五分足らずです。いよいよシャパン一、いえ世界一を決める快速自慢たちの狂乱の火蓋が切って落とされます。
ふと、静かになったとなりを見下ろすと、カノープス様がもじもじしています。その姿、まるでフレデリックが児童化したときのかわいらしさに似ていないこともありません。だれしもに若かりしときがあり、ちんちくりんおやじにも子供時代があったはずです。
「どうされましたか。トイレにでも行きたいのですか」
「ト、トイレだと? そんなわけあるか、わしを子供扱いするな」
「では、どうしてさきほどから、そのように落ち着きがないのですか」
「む、落ち着きがないなど。わしはそなたが倅とともにいたから、馬主席に通してやったのだぞ。それなのにそなたときたら、倅のことを聞こうとしたら、返し馬ばかりに気を取られ、やれ、あの馬はつるっ首で気合いが乗ってるだの、トモの連動がいまひとつだがあの馬はあれでいいだの、馬体重増加のわりには素軽いだの、ブツブツブツブツと、わしのことなど振り向きもせんと馬の話しかしよら……フガッ!」
「お静かに願います。ファンファーレが聞こえません」




