炎の大魔導師とわきたつ競馬場 -9-
午後昼過ぎ。
さすがG1デーです。競馬場内にあるフードコートは、競馬新聞片手に、モニターの生レース映像を見上げながら応援する馬券師たちで活気づいています。
宙京競馬場があるリンリンシチー近くの森にある、ポツンと一軒家に住み、月一くらいで宙京競馬場に足繁く通っている身としては、お昼の店はいつもここと決めています。
一軒目はもつ煮込み屋【馬と緑】。ここのもつ煮をつまみながら、ハイボールを引っかけて、締めにはきしめん屋【五代目】で濃いつゆのきしめんをすすり、ふたたびスタンドに舞い戻る、というのが基本のマイスタンスです。
ですが、怪我で馬運車に引っ込んだ馬を見たあととなっては、さすがにアルコールを引っかける気にはなれず、立ちっぱなしの席でフレデリックと向かい合わせになりながら、互いに無言でどて丼をかきこんでいます。無論きしめんはなしです。
あの馬の行く末は気になりますが、このような事故はめずらしいことではありません。
馬が薬死させられるほどのひどい状況はそこまで多くなく、特に自分の脚で馬運車に乗り込めているのなら、程度の差はあれど競走馬として復帰できることも少なくありません。
どちらにしろ、この時間帯ではあの馬に関わる情報はまだ入ってきません。
今、わたしにできることは、午後の高市宮記念に向けて腹を満たすことだけです。
「馬主エリアは息がつまるからね、ここに連れてきてもらえてよかったよ」
黙々とどて丼を食すわたしを前にして、なにか話題でも振らなければと思ったのか、フレデリックはうわべだけの談笑をしかけてきました。
一見、馬主エリアは静かで、上品で、ゆったりと過ごすことができますが、そこは選ばれた人のみが入室することを許される特別な場所。ふとした瞬間に馬主同士の視線がバチバチと絡み合い、それとわからない複雑怪奇なマウント合戦が勃発していたりするので、それなりにピリピリとした空気が流れているのは確かです。
フレデリックはそもそも馬主エリアにまったく馴染みがないので、顔見知りの馬主もおらず、ほかの馬主から見ても、フレデリックが(正確にいうとフレデリックの父君ですが)どの馬を所有しているのかまったくわかりようがないため、相手にもされていないようでした。




