友の行方とすれ違った記憶
耳障りな喧騒の中、ようやく空いた席を見つけて腰を下ろす。鞄から財布を取り出して、今日の日替わりメニューを思い出す。
肉がいい、と思いつつも財布の中身を見ると選べるのはカツ丼セット(ただし肉は薄い)くらいで、ついため息が零れた。
(券売機、全部キャッシュレスに入れ替えてくれたらいいのに)
地震が起きれば倒壊しそう、と学生達の間で実しやかに語られる校舎だが、「築45年以上で耐震性能をツギハギで補強しているがそろそろ抜本的な対応が必要。ただしカネがない」などという状況が天秋が高校生時代に参加したオープンキャンパスで語られていた。以来、建替工事の話が出ていないとなれば、学生食堂の券売機をキャッシュレス対応機に入れ替えることも期待薄だ。
長いが進みの早い行列にならび、カツ丼セットの乗った盆を持ち帰ると、キープしていた席の隣に珍しい姿があることに気づいた。
「帆菜実……?」
「久しぶり、天秋。咲紀から学食にいるって聞いたから」
「……久しぶり。体調は、もう良いのか?」
「うん。お医者さんからも、もう大丈夫ってお墨付きもらったよ。今日は復学の手続きしに来たの」
帆菜実とは所属する学部は違うが、陽大を通じて知り合った。
仲睦まじい様子で2人は恋仲にあるのかと思っていたが、それとなく確認してみればどちらからも否定と、だがそうなりたい、という返事が返ってきていた。
2人を知る者の共通見解は「何かの冗談だろう?!」だ。
ただ、帆菜実が体調を崩し始めた前後から2人の様子が悪い方に変わっていったので、心配していた。
最近回復し退院したことは人伝に聞いていたが、いざ会って見れば元気な様子に安堵するとともに、自覚していたよりも心配していたことに気付く。
「えっとね、聞きたい事があるの。私が入院した後、陽大と会ったり連絡取ったりした?」
「連絡は時々ある。けど、会ったのは、帆菜実が入院した直後に1度だけ。……帆菜実にも、連絡してないのか、アイツ」
「そうなの。お母さんには何回か連絡あったみたいで、お見舞いにいけないって謝られてたんだけどね。……でも、誰も会ってないって」
「え、誰も?」
天秋にとっても、陽大と会った者がいないことに驚く。天秋から見た陽大は、友人が多く周囲に人がいない時間の方が少ない青年だ。
帆菜実が休学とともに入院したのは1年半程前。彼女の言葉が正しいなら、天秋が最後に会ったあとは行方が知られていない、ということになる。電話で連絡をとっていると言っても、聞いたのは声だけだ。ならば、声の主が間違いなく陽大であると言えるのか。
「ホントはさ。陽大は女の子大好きだから、他の女の人と仲良くなってたりするのかなって思ってたの」
「そんなことがあったら袋叩きにしてるよ。俺と咲紀が」
「過激だ!」
きゃらきゃらと笑う帆菜実の様子に、内心で胸を撫で下ろした。
確かに陽大は過去に異性に対しても実に気軽に声をかけて仲良くなろうとしていたと聞く。だが、彼が帆菜実への恋心を自覚してからは一途そのものと誰からも聞いていたし、天秋から見てもそうだった。
それなのに、移り気を疑われているとなれば、親友を自負する側としてはいたたまれないというものだ。
「陽大が転がり込む先があるとしたら、サークルの先輩のところだと思う」
「サークル…? 陽大、サークルに入ってた?」
「一昨年の8月末に行った旅行で、同行してた先輩達覚えてないか? 1番背が高かった人とか」
背格好を説明しても、不思議そうに帆菜実は首を傾げている。初耳の情報だと言わんばかりの様子に、天秋は困惑した。
道中にしていた雑談で親が同郷だと盛り上がっていた記憶があるだけに、彼女が全く覚えていないとは想定外だった。だが、その旅行以降に彼らのことが話題になった記憶がない。そのせいで忘れてしまったのだろうか。
「8月末って入院するちょっと前だし、私その旅行に行ってないよ」




