親友からの情報提供
都市伝説とは「都市部において語られる『本当にありそうな』事件や物語」と言われている。
創作であることが前提で、「知り合いの知り合い」と間接的な間柄のものから伝聞の形で語られる。ニュース性、重要性を持たせ「興味を惹き、語られるため」の条件を持ったそれらは人の口から人の口へと渡っていく。
不審者情報から端を発したとされる「口裂け女」や「人面犬」は、有名な都市伝説と言える。
特にインターネット上で語られる都市伝説は「ネットロア」と呼ばれ、「くねくね」や「コトリバコ」といった怪談が代表的だ。怪談に偏りがちなのは「興味を惹き、語られる」という特性上、恐怖を煽るようなものが語られやすいため、とされている。
『じゃあ、今年の高見先生の講義は都市伝説が主題なんだ。ネットロアも対象にいれてるなら、フィールドワークはそんなに行かないかもな』
「そうかも。でもさ、レポートは手書きって言われてゾッとした。都市伝説じゃなかったよ」
『……マジか。いや、でもあの先生、講義持つの面倒だからってワザとやってそう』
「あぁー……ありそう」
『でも天秋は、字がきれいだからいいじゃん。読めないからってレポートに不可だされる心配ないし? オレみたいに救済措置で先生の研究室で音読させられることもないだろ』
「読めないレベルの文字でレポート書いた陽大の自業自得じゃない?」
電話越しで久方ぶりに話す年上の友人の言葉に、笑いながら返す。
濃密な講義が終わり、一緒に受講していた咲紀を彼女の自宅近くまで送った頃、狙い澄ましたように陽大から電話がかかってきた。
明るく朗らかで非常にポジティブな彼とは、オープンキャンパスで知り合った。
1年半ほど会えていないが時間を見つけては電話をしてくる彼は、天秋に色々なものを与えてくれる、大事な友人、否、親友だ。
『ひっでぇ! ちょっと話題になってきてる新作都市伝説、教えようかと思ったけどやめる!!』
「子供か」
『子供じゃないですぅ。ま、冗談は置いといてさ。「閉架記録庫」って聞いたことある?』
「へいかきろくこ?」
『そう。図書館で表に出してない本のこと閉架っていうじゃん、あれの記録版。扉をくぐるといきなり閉架記録庫にいて、何が起きたのかって近くにいた司書さんに声かけたら、申請書と鉛筆を渡されるんだって。申請書には名前しか書くとこないんだってさ』
それまでの朗らかで賑やかな口調とはうってかわって、落ち着いた声で陽大は説明を続ける。
申請書に名前を書くまで、司書は頑なに反応をしない。
根負けして、申請書に名前を書くと1冊の本を渡される。その本は人によって違うらしいが、共通しているのは読み終わるまでは外に出られない、ということ。
読み終わると、手元から本は消え、いつの間にか自室にいる。
『怪談ってほどじゃないけど、不思議な話ではあるよな。ただ明確なオチがないから、語りにくいのかあんまり広がってなさそうだった』
「それって、都市伝説って言えるのか? 生まれたてなのか、それとも消えそうなのか……」
『どうだろうな? ちょっと話題になってる、ってのはどっかの配信者が取り上げようとしてるからみたいだ』
「なんか、ひとりかくれんぼみたいな気配する……」
『伝うようなもんじゃないよ』
「聞けば縁ができ、それを辿る」ようなものではない、と陽大は苦笑しながら断言する。
感染系と分類される怪談を天秋が好まないことを知っている陽大は、仮に初めて触れる都市伝説に飢えていたとしても話のタネにすることはない。概略を知っていたことも含め、事前に調べていたのだろう。
「電話も情報もちょこちょこくれるけどさ、久しぶりに会いたいよ。奢るから、飲みに行こう」
『学生に奢ってもらうほど金欠じゃねって。けど、ちょっと時間作るのは難しいかな。誘ってくれてありがとな』
「……俺が会いに行くから」
『あ、やべ。呼ばれてるから、もう切るな。また面白そうなネタ見つけたら連絡する! 帰り道、気をつけろよ』
ぶつ、と通話が切れる音がした。待ち受けに戻ってしまったスマホの画面を見て、深く重いため息を吐く。
会おう、と伝えると「都合が悪い」とばかりに陽大は通話を切ってしまう。昨年までは、何かしてしまったのかと悩んでいた。だが、その後も「周囲に誰もいない時」だけ、天秋が知っているままの彼から連絡がくる。まるで人目に触れないように。
「会うつもりないくせに……」
親友と思っているのは、自分独りなのかもしれない。
そんな疑念を乗せながら呟いた声は、天秋が想像していたよりも寂しさが滲んでいた。




