~最終話~
「よもや……貴方が敗れるとは思いませんでしたよ、ジェムシリカ殿」
そう声をかけたのはクリソコラだった。
「貴方の剣を超える者が存在するとすれば、セラフィナイト殿を措いて他には居ないと思ってはいましたが。まさか、こんなに早く……」
「気づかれたからでしょう。ご自分の本当の想いに」
クリソコラの言葉にジェムシリカは静かにそう答えた。
彼は激しい試合の直後とは思えない、穏やかな瞳をしていた。
「手心を加えられた訳ではないのでしょう?」
「……そう見えましたか?」
「いいえ。ですが貴方が最初から全力で闘っていれば、結果は違っていた筈です。貴方の真意はセラフィナイト殿を鍛える事。そして、四天王最強の戦士はセラフィナイト殿だと周りに印象付ける事……だったのではないのですか? 側近筆頭の座に就いたセラフィナイト殿の風評を和らげる為に」
ジェムシリカは首を横に振った。
「クリソコラ殿、それは買いかぶりですよ。私はそんなに出来た人間ではありません。私は本気でしたよ。本気でセラフィナイト殿に勝って、シェルタイト様の側近筆頭の座……奪い返すつもりでした」
「我らと同じ痛みを、まだ歳若いセラフィナイト殿に味わわせない為にでしょう?」
「……っ!?」
(我、ら? やはり貴方も、ですか? ……クリソコラ殿)
「シェルタイト様は未だ幼い。けれど長ずるにつれて益々強く、そして美しくなられるでしょう。お傍に居るのが苦しくなるほどに……。その上、シェルタイト様の背負われた運命はあまりにも過酷で厳しいものです。しかし、我らにはシェルタイト様の御心を救う事は決して出来ない。側近筆頭の座にあるという事は、そのシェルタイト様の苦しみを一番近くで見ているしかない……という事に他なりません。そして、もう一つ。気づいた者の誰もが、暗黙の了解のように口に出す事さえ憚る。それ故、公には知られていないムーカイト王家の……いえ、ムーカイトの碧い髪が持つ宿命。その超人的な能力と引き換えに併せ持つ儚さを……。我らは間違いなく喪失の痛みを味わう事になります」
「私はセラフィナイト殿に勝って、彼に側近筆頭の座を辞退して頂く……。否、出来得るならば、側近自体を降りてシャモス家にお帰り頂こうと思っていました。その方が彼の為だ……と。しかし多分あの若者は、セラフィナイト殿は……その全てを解っていて、それでも尚シェルタイト様の一番近くに居る事を望んだ。一途に、純粋に……何の見返りも求めずに、ただお傍に居られればいいと。確かに剣の技術はまだ私の方が上かもしれない。でも……」
「私も出来る事なら、もっと遅く産まれてきたかった。……そう思います」
己の望むただ一筋の道。
譬えそれが茨の道であろうとも歩む覚悟は出来ていた。
だが……
彼等が喪失の痛みを味わうまで後、五年。
残酷なまでに正確に刻は流れていく。
それは彼らの想定したその時より、遙かに短い時間だった。
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ジェムシリカとクリソコラは昔からセラフィナイトの気持ちも、ムーカイトの碧い髪を持つ者の寿命の短さも……みんな知ってるんですよね。
でも表には決して出さない。
知ってる事を周りに気づかせない人たちです。
だから「セラフィナイト~巡り来る青陽~」の時にシューレンベルグにクロサイトを行かせたんですよ。
この二人だったら、ああいう会話にはならないだろうなあ~と思ったので。
クロサイトも鋭い子なんですが、こういう感情には疎いんですよね。
ちなみに四天王の中で一番モテるのはクロサイトなんですよ。
庶民的だし人当たりもいいですしね。
後の三人は近寄りがたい雰囲気がありますので。
でもクロサイトは、自分がモテてる事に全く気づいてません。
多分、自分自身のシェルへの感情の正体にも気づいてないんじゃないかと。
【おまけ】
セラフィナイトの嬉しそうな顔を描いてみたかっただけです。
この子ってあまり笑ったりしないですもんね。
「ジェムシリカ編」これにて終了です。
ご覧になって下さった皆様、ありがとうございます。
次回からはクリソコラがメインのエピソード「四天王誕生!」を連載させて頂きます。
そちらも引き続き、お付き合い頂けましたら幸いでございます。




