~最終話~
「ジェムシリカ、傷は大丈夫か?」
「はい」
シェルの目配せでクロサイトとセラフィナイトはジェムシリカの傷の応急手当を開始した。
(何故、二人が此処に?)
ジェムシリカは一瞬、怪訝に思ったが
「ジェムシリカ、俺は一旦城に戻る。母上が俺をお呼びなのだそうだ」
そのシェルの言葉で、彼はクロサイトとセラフィナイトがシェルの背後に控えていた事に合点がいった。
「陛下が? ……承知、致しました」
出血のわりにジェムシリカの傷は深くはなかった。
僅かの間に既に血は止まりかけていたし、傷も塞がりかけていた。
それがクリソコラの力量なのだと……クロサイトとセラフィナイト、そしてジェムシリカは改めて背筋が凍りつく想いがした。
傷の手当が終わるのを確認して、そのまま踵を返そうとしたシェルだったが
「クリソコラ……」
徐に向き直ってクリソコラに声をかけた。
「はっ!」
「お前に一つだけ言っておきたい事がある」
「私に、ですか?」
「ああ。俺は供も連れずに出歩く事がよくあって、皆に迷惑をかけるが……そんな時はお前の配下が、何時も陰から俺を見守ってくれてた。俺が地上に、ムーカイトへ行く時は必ず、総帥であるお前自身がそうしてくれていた」
「…………」
(シェルタイト様。この私に、そんな御顔を見せて下さるのですね。貴方は臣下と、否! 一族と接する時、必ず王の顔になられる。けれど、時々見え隠れする未だ幼い少年の顔。無防備でしなやかで、そして繊細な……。その危うい均衡を私は……)
「お前には本当に感謝している。これからはお前が俺の側近として働いてくれる事、頼もしく思っている。でも、お前が陰の存在に徹したいと言うのなら俺から母上に……」
「いいえ、そのような事はっ! シェルタイト様、身に余る御言葉でございます」
「そうか。なら、いい。ソディアイトの総帥であるお前と直接話しが出来るのは“王”だけだからな。お前に礼が言えるのは俺が即位してからだと思っていた。こんなに早くお前と話せて嬉しく思っている。これからも宜しく頼む」
「シェルタイト様、この私の身命を賭しましても!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シェルを見送ってから、ジェムシリカはクリソコラにそう声をかけた。
(あの方には、本当に敵わない。私の逡巡をたった一言で拭い去ってしまわれた。過去の自分を捨て去る覚悟。あの方のお苦しみを見続ける覚悟。そして、失っても尚、想い続ける覚悟……。私が王家の方々をお護りするのは当然の職務。それがソディアイトの存在価値。けれど唯一人、あの方だけは私に感謝していると……。これからも頼むと仰って下さった。そんな方だからこそ何時しか、あの方は私の中で特別な存在になられていった。お傍に居たい。あの方をお護りしたいと心の底から願う。それが私の紛れもない真実なのだ!)
「私も貴方のお陰で自分の甘さに気づく事が出来ました。これから私たちがシェルタイト様をお護りする為に必要なもの……」
ノンマルタスとアクアオーラ――
二つの一族の命運をその小さな肩に背負われたシェルタイト様。
ムーカイトの――地上人の動向次第では、再び過去の悲劇を繰り返す事になるかもしれない。
我々は一族の掟を破る覚悟が必要なのだ。
運命の刻まで後、六年……
それはシェルを護る最強の戦士“四天王”が真の意味で誕生した瞬間だった。
「クリソコラ編」これにて終了です。
ご覧になって下さった皆様、ありがとうございます。
次回からはクロサイトがメインのエピソード「クロサイト&レイテ編」を連載させて頂きます。
……と言っても、二話しかございませんけれども。
そちらも引き続き、お付き合い頂けましたら幸いでございます。




