第九章 最期の討伐
夜……自室で僕は、日記を書いていた。危険な海遊びから二週間。そろそろ大学の夏休みも終わる時期。僕は……。
ブラッド・ワークスの襲撃を、静かに待っていた。
僕が考えたシナリオによると、二回目の討伐から約二週間後、真夜中に一人でいる主人公を襲いにやってくるはずだ。あれから毎日日記を書くことにした。今日は何をしたとか、このご飯がおいしかったとか。でも、
「……昨晩は来なかったし、今夜は来るかなー……」
一番の理由としては、ブラッド・ワークスが来なかった記録を書いていた。一人目と二人目は、仲間と一緒にいるときに襲ってきたけど、今回は一人での遭遇だ。緊張してくる。
物語のプロット上では、主人公にウソの情報を信じ込ませて、混乱を起こさせる敵だ。
「うーん、そろそろ寝る時間だなあ。もう寝るかな……?」
「……その必要はないぞ」
「っ!?」
後ろを振り返ろうとした。が、
「おっと!……振り返ったら殺す」
そう脅されてしまい、思わず体が固まる。敵は、低い声で話し、想像以上に怖くて迫力があった。……僕に、対処できるだろうか。
「ははっ、お利口だな……ご令弟」
怪しい声で続ける敵。
「俺の魔法能力はブラッド・ワークス。……今からお前に、良い情報を教えてやろう」
そう言うと、敵は僕の頭の横に手をかざした。怖い。想像以上に怖い。だが……今まで皆がくれた勇気を、信じることにした。覚悟を決める。
この敵は、世界一の腕前のハッカーで、誰も疑えないような本物としか思えない嘘の情報で僕たちを錯乱させて来る。
「……ミライ・ユ、グリサイユ、キアロスクーロ、トロンプルイユ、バロックロココ……この五人のことを、お前は相当信用しているようだがな……この五人は、実は、お前を俺に攫わせて、ボスを俺に殺させ懸賞金を山分けしようと考えているんだぞ……!!」
「っ!?そんなはずはない!第一、何で僕にその情報を教えるんだ……!」
……演技を頑張る。ここ二週間、毎晩ずっと練習してきたから多少、多少は上手くなってるはず……。
「ははは!お前が可哀そうになってなあ。愛する兄貴を殺されるなんて、そんなの嫌だろう?」
「嫌に決まってるだろ!」
「ははは!そうだよなあ!なあ、良い話がある……」
敵は僕の耳元に近づき、甘い声で囁いてくる。
「……ボスの場所を教えろ。そうしたら、命だけは助けてやる……。仲間の一味も、俺がお前の代わりに始末する」
「……!」
この敵は、主人公に嘘の情報を教え、味方のチームは実は全員敵だったと信じ込ませる。そうして、主人公を混乱させるんだ。
頭の中に、一気にたくさんの情報が流れてくる。暗い部屋で僕を裏切る作戦を立ててるミライ・ユくんたち……怪しい笑みを浮かべている。しかも……これは、僕の影口を言ってるのか?皆で笑ってる。どれも、本当に本物にしか思えない。どれもクリアで、リアルな映像だ。
ここで、混乱してしまった主人公は、前に皆で撮った写真の中に入り込み、皆との絆を再確認してウソの情報だっ!と気づき、撃退する……という筋書きだが……。
スタスタ。
僕は普通にドアに向かって歩き始めた。
「!?ちょ、お前!どこに行く!?」
敵を無視して、大声を出す。
それは、今までの人生のなかで、最も大きな声だった。皆が繋いでくれたリレーの賜物だ。
「皆ーーーーーー!!!!!!敵が!!!!!!襲ってきたんだけどーーーー!!!!!!!!」
「!?」
僕はこの物語の作者なので、当然ウソの情報だと知っている。それに……。
僕の大切な仲間を、ウソの情報であんな悪者に仕立て上げるなんて……。許せなかった。怒りが込み上げてくる。
「!?!?ば、馬鹿な……私の能力は完璧のハズなのに!?」
シュンッ!
瞬間移動でバロロさんがやって来てくれた。隣の部屋からガタガタ音がする。ミライ・ユくんも来てくれるだろう。それに、上の階からもバタバタ足音が聞こえる。皆……!
「……」
「……」
バロロさんと敵が見つめ合う。一秒、二秒……。そして。
「クッ!」
敵は苦し紛れに銃を取り出したが……!それをすかさずバロロさんが魔法の触手を生み出し、取り押さえる!シュルル……敵は、触手が作った折に閉じ込められたしまった!
「おおお……!これがバロロさんの魔法能力?」
そういえば、バロロさんの魔法能力は思いつかなくて考えてなかったな……。
「あ、いやこれは応用魔法だよ。……私の魔法能力は今度見せてあげようね。それよりも……」
ドタドタ!
ミライ・ユくんが駆けつける。
「な、何が起きてるんだ!敵ってなんだよ!?大丈夫か!?」
ドタドタン!
ほかの皆も一斉に駆けつけてくれた。
「おい!カゲエちゃん大丈夫か!?」
「敵はどこだ!」
「って、バロロさん!?あれ、何あの気色悪い折!」
「……状況を説明してくれるかい?カゲエくん」
困惑する皆と、比較的落ち着いたバロロさん。僕は、説明することにした。
◇
敵が襲ってきたこと、ブラッド・ワークスだということ、洗脳されかけたこと(ウソ)、皆にすぐさま助けを呼んだこと……。
皆、ほっと溜息を洩らした。
「テメエら……私にこんな仕打ちをしといて、ただで済むと思うなよ!!」
折の中から敵のか細い声が聞こえる。
「いやあ、コイツ馬鹿だねえ~!我らがリーダー、カゲエちゃんがこんな情報に騙されるわけないっしょ!私らの絆なめんな!」
「……みんなのお陰だよ!いつも、皆が僕のことを守ってくれるから……そのおかげで、ウソの情報だって分かることができたんだ!皆……ありがとう!大好きだよ!」
満面の笑みでほほ笑む。すると……、
「えへへ!僕も大好き!」
とトロンプくん。
「……ふっ」
とミライ・ユくん。
「ええ~!私もラブちゃん♡」
ハートポーズを作るグリザイユくん。
「わ、私も……その……だいすき、だ……」
照れるキアロスクーロくん。
「ははは、平和だね」
ほほ笑むバロロさん。
敵が、折の中で魔法のパソコンで何かをカチャカチャ打っているのに、僕たちは気づかなかった。
「はは……!私に対するこの仕打ち、今に罰を下してやるぞ……!!」
こうして、僕たちは三人の刺客たちを倒した。
最後の敵、ブラッド・ワークスがどうやら兄の情報を全世界にばらまいた真犯人だとわかり、彼は本部へ郵送されることになった。……もう会うことはないだろう。永遠に。
世界一の腕前のハッカーを倒したという情報はすぐに出回った。そのかいあってか、しばらく敵は来なくなった。
Venom Desireの大幹部たちも普段の活動を続けられるようになったみたいで、兄さんはまだしばらく絵の中にいる必要があるみたいだけど、大幹部たちは外へ出て来た。大幹部たちが僕にお礼を言ってくれたが、本当に頑張ったのはミライ・ユくんたち皆の方だ。そのことを伝えると、大幹部たちはミライ・ユくんたちにもお礼を言って回る。皆すごく緊張していて、ガチガチだった。そのギャップが、普段見てきた姿とは違って、なんだか面白かった。逆になんでカゲエ殿は普通に接せるんだ!?とキアロくんにもツッコミを入れられてしまった。
こうして、僕が作ったゲームは幕を下ろす。
本当に楽しい夏休みだった。大切な、かけがえのない仲間との出会いが、僕の人生に一気に深みを増してくれた気がする。
明日から学校が再開する。僕はベッドの上で、静かに天井を見ていた。
……僕は明日になったら、恐らく消えるだろう。
多少違った展開や設定はあったものの、僕が作った内容はここまでだ。
今度こそ、本当に天国か地獄に行くんだろうな……そう思うと、少し涙が出てくる。今になって、仲間たちのことが惜しくなったようだ。でも、さよならは言わない。
僕は、静かに目を閉じた。
——さよなら、みんな。




