第十章 新たな目覚めパート2
——。誰かが、僕を呼んでいる。それに、何かを叩く音が聞こえる。
ここは、どこだろう……?僕は確か、天国か地獄に……。
——い
——ろ
——きろ
「おい!!!ささっと起きろ!!!!!」
「!?」
ベッドから飛び起きる。
「もう七時十五分だぞ!!今日から学校だろ!?あと十五分で朝ごはん食べて支度して行くぞ!!」
「へ……?」
部屋の扉が少し開いて、その向こうからミライ・ユくんの怒声が聞こえてくる。
「ったく、入るからな!起きないカゲエくんが悪い!!」
ミライ・ユくんがドカドカと入ってくる。僕は……困惑していた。
「ミライ・ユくん……??あれ、僕たち、お別れじゃ……」
「はああああ?何言ってんだよ?……てか、何だこの空っぽのリュックは!?大学の準備してないのかよ!?!?」
ミライ・ユくんがブチギレながら筆箱とかの大学の道具をリュックに突っ込む。僕は、その様子をぼーっと見ていた。すると、
「おい!何ぼーっとしてんの!さっさと朝ごはん食べてこい!」
ポイっと部屋の外に投げ捨てられる。
……これは……夢、かな?そうだ、夢に違いない!だって、ゲームが終わった後の続きなんて、僕は考えてなかった!
まさか……僕の知らないシナリオがある……?いや、そんなわけは無いよな……。
と、とりあえず朝ごはんを食べに行くか……ミライ・ユくんなんかブチギレてるし。
食堂へ向かう。すると、他の皆もいたが、なんだか慌ただしかった。
「あ!カゲエちゃんやっときた!!」
「カゲエ殿が寝坊とは、珍しいな。よりによって夏休み明け初日に寝坊とは……」
「カゲエくん、もう朝ごはんとっくに出来てるよ!はやくはやく!」
皆が急いで僕を席に引っ張る。
「急ぎなさい、カゲエくん」
バロロさんが僕を叱る。と、取り合えず急いで食べよう……?
それから僕は、急いで朝ごはんをお腹に詰め込んで、急いで服を着替えて、急いで髪を整えて、いつもの帽子をかぶった。
鏡の前で自分の姿を見る。いつもはスーツだけど、今着てるのは普段着って感じ。久しぶりにこの姿の自分を見て、なんだか新鮮だ……。
ガチャリ。扉が開く。
「お、やっと準備できたな!ほら、行くぞー」
ミライ・ユくんが立ってた。でも、いつものミライ・ユくんじゃない。ミライ・ユくんも、ラフな服装をしていた。
「え……?ミライ・ユくんもお出かけ?」
「はあ!?昨日説明しただろ!聞いてなかったのか?まあいい!早く車に来い!」
ミライ・ユくんが僕の手を引っ張って車へと乗りこませる。
そして、困惑する僕をよそに車は発進してしまったのだった——。
◇
車は、森の中を抜け、次第に街中を走っていく。僕は、恐る恐るミライ・ユくんに尋ねた。
「あのう……ミライ・ユくん、どういうこと……?」
ミライ・ユくんはハア……とため息をこぼして、説明してくれた。
「今日から俺も同じ大学に通うって昨日話しただろ?誰か一人でも護衛人がついてなきゃいけないからな。歳が同じの俺が抜擢されたってわけ。車運転できるしな。ったく、昨日話しただろ?緊張しすぎて聞いてなかったのか?」
「あ……確かに、そうだったような……」
なんとなく、本当になんとなくだが確かに昨日そんなことを言われたような気がする。僕は皆と別れる気持ちだったから全然聞き流してた……。
「たく……俺が用意したから忘れ物とかなないと思うけど、ちゃんと気合い入れて行けよ?」
「……うん」
まだ気分は上の空だ。まさか、本当に物語の続きが……。でも、僕はこの先の展開を知らない。一体何が起きるのか、どんな戦いになるのか、見当もつかない。少なくとも、Venom Desireには平和が戻ってきたはずだが……?
そんな困惑してる僕をよそに、車は大学の駐車場についた。車を降りるミライ・ユくんと僕。
「さ……行くか!学校なんてマジに久しぶりだなー」
ミライ・ユくんはてくてくと大学の玄関へ向かっていく。僕も少し後ろからついて行く。そうすると、
「……何距離開けてんだよ?緊張しすぎだって!」
と、ミライ・ユくんに肩を組まれた。
「……ほら、緊張がほぐれるおまじないしようぜ」
ミライ・ユくんは僕にグーを差し出した。僕も真似する。そうしたら、グー同士でタッチした。
「……どうだ?ちょっとはほぐれたか……?」
ミライ・ユくんが僕をのぞき込む。僕は……
「……あはは!なんだかミライ・ユくんらしいや!ありがとう、元気出たよ」
思わず笑顔になる。そうだ、ミライ・ユくんはいつも僕のことを考えてくれる。何も緊張したり困惑することなんてない。僕は僕らしく、過ごしていけばいいんだ!
ミライ・ユくんも笑顔になり、二人で教室に進んでいった。
後ろで、女の子たちが噂していた。
「……今の虹色の髪の人、めっちゃかっこよくなかった!?」
◇
一時間目と二時間目を終えた。相変わらず知らない先生が入ってきて、「今日から新学期ですねー。皆さんきちんとしていきましょうー」なんて挨拶してた。
……いつもは、一人で授業を受けていた。端っこの方で、一人ぼっちで。でも、今日は違った。隣に、ミライ・ユくんがいる。隣を見ると、ミライ・ユくんが綺麗な文字でノートに板書していた。僕がじいっと見てると、
「……おい、見すぎ」
ぼそっと叱られたりもした。
……そして、今度はお昼ご飯の時間だ!一気に教室がガヤガヤとする。
「ミライ・ユくん、お昼ご飯だね!どこでご飯食べるー?」
「お、そうだね。うーん……カゲエくんは、いつもどこで食べてるの?」
「え゛」
僕は、いつもは普段誰もいない空き教室を探して一人で寂しく食べていた。そんなこと言えるはずもなく。
「あーーー、いつもは食堂とかかなあ……」
「なら、いくか」
荷物をまとめるミライ・ユくん。僕も準備する。すると……。
「あのお!」
女の子の声が聞こえた。顔を揚げると、
「初めまして……だよね?君、編入性?」
一人の女の子がミライ・ユくんに話しかけていた。
「あー……そうだよ、俺は編入性」
「へえー!この時期に編入するなんて珍しいね!」
……ぼ、僕ここにいていいのかな……?
「ねえ、名前なんて言うの?」
「俺?俺の名前はミライ・ユだけど」
「ミライ・ユくんだってさーー!!!」
女の子が後ろの集団に声をかける。すると、きゃはは!という笑い声が聞こえてきた。その集団から女の子たちが集まってくる。
「ねえ、ルンスタやってる?良かったら交換しない?」
「あー!ミナずるっ!私も私も~!」
この賑わいを察知した男子学生も数人集まってきた。
「あ!俺とも交換しない?」
「てか、部屋でもサングラスかけてんのウケるー」
「そう?似合うっしょ」
「え(笑)自分で言うのかよ!」
「でもでも、本当に似合ってるよー!」
……キラキラしてるなあ。なんだか、一気に遠い世界みたいだ……。
僕はリュックを持っていつもみたいに空き教室に行こうとした。
その時。
ガシッ!
誰かが僕の手を掴んだ。
「え」
その腕の先を見てみると……ミライ・ユくんだった。
「あー悪い。俺これからカゲエくんと昼飯なんだよねー。また今度ね」
ミライ・ユくんがそのまま僕の手を掴んだまま歩き出す。
後ろで何か「え?待ってよー!」という声が聞こえたが、ミライ・ユくんは構わず歩いた。
廊下。
「……良かったの?」
聞いてみる。
「ん?何が?」
「……あの人たちとお喋りしなくて」
「別に」
ミライ・ユくんは淡々と答える。
「……僕なんかといるより、あの人たちと一緒にいた方が良いよ」
僕はポツリポツリと話し始めた。
「僕よりもずっとキラキラしてて、頭が良くて、友達がいっぱいいて……。あっちにいた方が、楽しいと思う。僕は根暗で、どんよりしてるし、友達も一人もいないし……」
なんだか自分で言ってて悲しくなってくる。
「……車の中で、歳が同じだから抜擢されたって言ったな」
「え?」
ミライ・ユくんは続ける。
「あれ……半分ウソ。ほんとは俺が自分から一緒に行きたいって言ったんだ」
「え……!」
「まあ、心配だったってのもあるけど……」
ミライ・ユくんは僕を見る。
「カゲエくんの傍に、いたかったからさ」
少し照れてそうに目を背けるミライ・ユくん。
「ミライ・ユくん……!」
なんて優しいんだろう。僕は、ミライ・ユくんという存在そのものに抱き着きたくなった。
「あと……食堂で食べてるってのウソだろ?ほんとは空き教室とかで食べてんじゃねーのお?」
ギクリ。思わず固まる。
「はは!ビンゴ~!じゃ、空き教室探すか」
「え、いや良いよ!ミライ・ユくんが好きなとこで食べよ!」
「んー?俺も静かなとこ好きだし。空き教室でいいよ」
「そう……?なら、探すかあ」
二人で空き教室を探し始める。
「それに……カゲエくんが好きな場所なら、俺も好きだし」
ミライ・ユくんがそう言ったのを、僕は聞こえなかったのだった。




