第十一章 衝撃の噂
それからお昼ご飯を二人で食べて、午後の授業も受けて、その日の学校は終わった。
「よし、帰るか、カゲエくん」
ミライ・ユくんが、さも当たり前みたいにそう言ってくれる。誰かと学校から帰るなんて、兄さんは一回り上の歳だったし、昔から友達いなかったし……初めてのことだ。
「……うんっ!」
笑顔でミライ・ユくんの隣を歩く。今日の授業退屈だったねーなんて話しながら、駐車場に行ったのだが……。
「えっ!」
「ん?カゲエくん、どうした?」
停まってる車を改めてよく見ると……駐車場の線に、めちゃくちゃ綺麗に沿って駐車されていた!左右前後が線に対してぴったりの感覚で停められている。そういえば、車を停めるのもすごく早かった気がする。一回で綺麗に停めていたような……。
「……ミライ・ユくん、車停めるの上手過ぎない!?」
「……へへ、当たり前だろ?」
ミライ・ユくんは誇らしげに言った。
「なんせ俺は、Venom Desireで一番運転が上手いって噂だからな!多分カゲエくんの護衛チームの一人に俺が選ばれたのも、その理由が大半だと思う」
なんと!そうだったのか!設定段階では、スケジュール管理担当っていうだけだったけど、こんなサプライズもあるなんて!……もっとミライ・ユくんの設定盛れば良かったなあ、なんて考えながら、一緒に車に乗る。
街中を走る。景色を楽しんでいると、ミライ・ユくんが話しかけてきた。
「……そういえば、今夜楽しみだな」
「え……?何が?」
ハア、とミライ・ユくんがため息をつく。
「また話聞いてなかったのか?今晩は皆で、ブラッド・ワークス撃破記念に高級焼き肉店に行くって話だろ?」
「あ……」
そういえばそういえば、そんな話もしてたような……?
「えへへ。カルビ沢山食べたいな~!」
「そうだなあ、冷麺も食いてえな……」
ミライ・ユくんと焼き肉で何が食べたいか話をする。今晩はパーティだ!お菓子は控えないとね……!
◇
「よし、着いたぜ!」
皆を乗せた車を走らせたミライ・ユくんが、これまた上手に駐車する。
「おお~!」
「待ってました~!!」
ぞろぞろと皆が降りる。時刻は十八時。晴れ。絶好の晩御飯日和だ!
「わあ……!凄い豪華!」
その焼き肉店は、もはや焼き肉店ではなかった。金色の豪華な飾り。きらびやかなクリスタル。
「焼き肉店じゃないみたい……!」
思わず呟く。すると、隣にいたバロロさんが、
「はは、カゲエくんは初めてかい?魔法焼き肉店」
「はい!普通のとは何が違うのですか?」
「炎の質が違うのさ。店長は炎使いしか許されてない、厳格なルール……それが魔法焼き肉。魔法の炎でお肉を焼くから、うまみの凝縮度が違うんだよ。これはもうたまらないほど美味しくてね……」
「じゅるり……!」
説明を聞いているだけでよだれが出てくる……!
先に玄関に到着したグリザイユくんが、
「早く入ろうぜい~!」
と手を振っている。僕も走って向かう。
「はは、そんなに急いでもお肉は逃げないよ?」
バロロさんにそう言われながらも、急いで行く。バロロさんが店員さんに予約番号を言って、店員さんに席へと案内させてもらう。席へ行くまでも、楽しそうな声と美味しそうな匂いが充満していて、もう、待ちきれない!
席へ着くなり、タッチパネルで注文を始めた。最初にドリンクを選ぶ。僕はオレンジジュースを選んだ。他の皆は、メロンソーダとかジンジャーエールとか。ドリンクが運ばれてきて、皆で乾杯をする。
「「「かんぱ~い!」」」
「皆、ここ一か月半、本当によく頑張ったね。今日は私のおごりだから、好きなだけ食べなさい!」
バロロさんがそう言う。マジっすか!?本当に良いんですかー?ああ、もちろん良いよ!そんな会話が織りなされる。
……改めて、今ここにある幸せに感謝しよう。そう思った。
そして、お肉が運ばれてくる。
「……火、つけてもよろしいですか?」
噂の店長さんだろうか。魔法の炎を出すところをこんなに近くで見られるなんて、貴重だな~!
「あ、はい!お願いします!」
僕がそういうと……。
ボフッ!!!
皆の頭の上に火が付いた。
「え」
一瞬の間。そして。
「ギャアア!?!?熱ッ!?」
「!?!?なんだコレ!?」
「ちょ、水水!!いや!消火器!!誰かーーッ!?」
「み、皆落ち着け!熱ッ!?」
皆大パニックだ。
「クッ!」
バロロさんが水召喚魔法の魔法陣を頭上に浮かべると、ドバ――ッ!!と滝のような水が流れた。あたり一面水浸しだ。皆びしょびしょ。だが。悪いのはバロロさんじゃない。
「えっ、み、皆大丈夫!?というか……店長さん!?これは一体どういうことですか!?」
店長さんの方を向いて問いただす。すると……。
「ふっ、これは挨拶代わりさ!」
焼き肉店の制服をバッ!と脱ぐと、スーツ姿が現れた。左胸には……VⅮの文字のバッジ。
「ヴェ、Venom Desireの組員……!?」
驚く僕をよそに、
「カゲエ様……初めまして。今から早急にこの弱小な護衛人どもを倒し、私の実力をお見せしましょう!そして新生護衛人の誕生です!!」
「……はあ!?」
思わず驚く。
「いや、あの!話が見えないのですが!?なんで僕の仲間を襲ってんですか!?」
敵は、はて?と首を傾ける。
「……カゲエ様の護衛人を倒すと、実力が見つめられて今度は自分が護衛人になれる、という話のはずですが?」
「は」
一瞬の間。
そして。
「はああああああああああ!?!?!?」
これほどまで大きい声が出るのか、という声量の声が出た。
「いや、そんな話出した覚え無いのですが!?」
「え?でも、今Venom Desire中で噂ですよ?」
「はあああ!?」
いったい誰がそんな身も蓋もない噂出したんだ!?
「いや!新しい護衛人は募集してないので!今謝ったら許してあげます!!なのでもう無駄な攻撃はお辞めくださいっ!」
「「「私(僕)(俺)は許す気ないけど!!怒」」」
敵は、ふむ……と考え込むような動作をする。しかし!
「いや、やはり私こそがカゲエ様の護衛人にふさわしい……!見ましたか!私のこの炎の魔法能力……!まさに完璧だッ!そこのバッテンのついた下品な馬鹿とは大違いだ!」
「……は?」
「気味の悪い天使か悪魔か分からん異形よりもずっと美しい……!」
「……む」
「影が薄い道化師もどきとは格が違う!」
「……んん~???」
「カゲエ様!私こそがあなたにふさわ……し……」
グリザイユくん、キアロくん、トロンプくんが敵にじりじりと近づく。そして。
「「「テメエ(お前)にだけは言われたくねえよッッッ!!!」」」
もう、文字に出来ないほどボッコボコにした。フルボッコだ。グチャグチャだ。敵はぼろぼろの雑巾のかけらみたいなグロテスクな姿になってしまった……。
「クソ!!まだ虫の居所が悪いぜ!!!」
「異形……か。今のお前にそのまま返そう」
「僕影薄くないよね!?!?ねえ!誰か否定して!!」
もう、辺りはパニック状態だ!そんな中……。
「シーーッ……皆、静かにしなさい……」
バロロさんは落ち着いていた。皆すぐさま静かになる。……こういうところが、この人たちのエリートたる所以なんだな、と思った。
「……恐らく、ブラッド・ワークスの仕業だろう。こういう本当としか思えない、ウソの情報をばら撒くのがアイツの最も得意とすることだ……」
冷静に分析するバロロさん。ブラッド・ワークス……!最後の最期に、やってくれたな……!
「これから、コイツみたいなVenom Desireの組員の敵がわんさか出てくるのかなあ……?」
トロンプくんが心配そうに尋ねる。
「……恐らく、そうだろうね」
辺りがシーーンとする。皆唖然としている。……折角平和が訪れたと思ったのに、こんなことになるなんて!?
そして、サイレンの音が聞こえてきた。
「あ……やばい。警察だね。誰かが通報したんだろう。皆、逃げよう」
バロロさんはシュンッ!と帰り始めた。他の皆も、
「え!?」
と困惑はしたもの、急いでバロロさんに続く。僕も続く。
……これから、今度はVenom Desireの組員との壮大な戦いが待っているのだろう。僕は、車の中で静かに震えていた。
……まさか、僕の知らない、こんな展開があるなんて——
「……だね」
バロロさんが呟く。
「え?どうしたの、バロロさん?」
「……焼き肉食べれなくて、残念だね」
いや、それどころじゃないんですけどーーッッ!?!?皆に総ツッコミを入れられるバロロさん。はは、と笑うバロロさん。
「……ぷふっ!」
なんだか、笑えてきてしまった。そうだ。このメンバーなら、何があっても大丈夫。だって、僕たちには、大切な、絆の力があるから……!
こうして、帰った後、また来る戦いに向けて、備えたのだった。




