第十二章 姉
あの魔法焼き肉店での騒動から、一週間。毎日のように敵は襲ってきた。誰も彼も、僕の護衛人になりたがっている。……そんなに「ボスの弟の護衛人」には価値があるのか……。改めて兄さんの凄さ、偉大さ、謎さ……を認識しつつ、ある疑問が生まれる。
……みんな、ミライ・ユくんばかり狙ってきている気がする。どの敵も、最初に攻撃を仕掛ける方向がミライ・ユくんに向けてばかりだ。ミライ・ユくんは、確かに戦闘要員ではないけど、魔法は使える。防御魔法だってお手の物だ。それなのに……どうしてだろう?
——ミライ・ユくんの車内。でも、今回は僕とミライ・ユくんだけじゃなかった。
「ふう~。今日は敵いなくてよかったな!」
「だな」
戦闘要員の、グリザイユくんとキアロくんも一緒だ。一週間前から、二人も一緒に大学に行くことになった。と、いっても普段は二人はめっちゃ目立つので、バロロさんがくれた身に着けると透明になれる魔法のバッジをつけて、隠れて護衛してくれてる。あれから、敵は授業中にも関わらず、こっそりと魔法で攻撃してくる……。そこを、グリザイユくんとキアロくんが撃退してくれている。
「二人には本当に助かってるよ!いつもありがとう!」
「いやいや~それほどの者です」
「……ふっ、別に大したことじゃない」
二人を褒める。すると……ミライ・ユくんが少しだけ悲しい顔をした。
「……ごめんな、俺だけじゃ戦闘力がないから」
「え!」
思わず驚く。
「何言ってるのミライ・ユくん!優劣つけるつもりはないんだけど、普段僕が一番助けられてるのは、ミライ・ユくんなんだよ……?」
ミライ・ユくんは一瞬固まる。そして。
「……そうかよ」
そっぽ向いた。でも、耳は少し赤い。照れてる~!そうからかうと、照れてねえよッ!とキレ気味に返された。ヤレヤレ……とグリザイユくんとキアロくんは僕たちを優しく眺める。
森に入る。もうすぐ僕ん家につくだろう。だが……異変が起きた。
玄関の門の前で、誰かが待ち伏せしてる。……知らない人だ。
「ッ!」
ミライ・ユくんが急ブレーキを踏む。
「お、敵登場~……ありゃ?女の子?」
グリザイユくんに言われてよーく見てみると……確かに、そこには女の子二人がいた。
「む、来客の予定はなかったよな?ミライ・ユ殿」
「……」
ミライ・ユくんは黙ったままだ。
「……ま、性別は関係無いよね~。敵なら、全て切り伏せるのみ」
グリザイユくんがそういった時。
「……お前ら、先行っててくれ」
ミライ・ユくんがそう言った。
「え?どういうこと?」
僕は質問する。
「……知り合い?」
「……アイツらはな」
ミライ・ユくんがため息交じりに話す。
「イマカとカコミ……俺の姉貴だ」
「え!お姉さん居たんだ!」
驚く。グリザイユくんも続く。
「マジか!なら、大丈夫そうかー?」
「来るなら連絡を入れてほしいものだな。なら、我々は先に行ってるぞ、ミライ・ユ殿」
ああ。と言うミライ・ユくん。そして、僕たちは先に降りた。
イマカさんとカコミさんにすれ違う時、かるく会釈する。二人も軽く会釈する。
「(……?)」
違和感。
「さて、玄関行くかー、ってカゲエちゃん、何してんの?」
僕は噴水の傍に隠れていた。
「いや……ちょっと、ミライ・ユくんの様子見たくて」
「何かあったか?」
「……心配だな」
ミライ・ユくんの姉を紹介する時の声のトーン……僕が兄さんと話しているときとは、大違いだ。少し、悲しそうだった。それに……イマカさんとカコミさんの表情。僕たちを見るちょっと前まで。……誰かをいじめるような表情をしていた。
そのことを話すと、
「……?よくわかんねーけど、まあカゲエちゃんが心配ってなら、ちょっと様子見るか」
「うむ……隠し見はあまり気分が乗らないが、仕方なし」
三人で様子を見る。
すると、ミライ・ユくんがゆっくり車から降りてきた。
「お、やっと降りてきたー!」
お姉さんがそう言う。ミライ・ユくんが彼女たちの目の前まで来る。お姉さん方は、ニコニコと笑ってた。
「……別に心配すること無かったかな?」
その時。
バチンッ!!
「「「!?」」」
お姉さんが、ミライ・ユくんに思いっきりビンタした。
「え」
「来るの遅い!!さっさと降りて来いよミライ!ほんと昔からトロいよねー!」
キャハハ!!と笑う女性たち。
これは……一体どういうことだ!?
「っ……!」
僕が急いでそっちまで行こうとしたのを、キアロくんが止める。
「まて!カゲエ殿……まだ情報が少なすぎる。もうちょっと様子を見よう」
「でも……!」
ミライ・ユくんを見る。……あんなに、悲しそうな顔を——
……ミライ・ユくんにあんな顔をさせるなんて、許せなかった。でも。
「……カゲエちゃん、気持ちは分かる。でも、怒りで行動しちゃダメだぞ」
「……」
僕は黙った。……ミライ・ユくんが、大事な人があんな顔をしているのに、傍にいられないなんて……!なんて自分は無力なんだ!!
「てか、マジでVenom Desireにいたんだー」
「ね、ウケるー!てか、ボスの弟?の護衛人やってんでしょ?なんでウチらに言わないわけ?てか、いくら貰ってんの?給料いいはずだよねえ??」
にやにや笑いながらミライ・ユくんに近づく女性たち。——やめろ。それ以上ミライ・ユくんに近づくな。
今にも飛び出しそうになった。その時、ミライ・ユくんにが言葉を発した。
「……イマカ姉とカコミ姉も、俺に挑戦しに来たってわけか?」
「「はあ?」」
「……いいぜ、受けてやるよ」
ミライ・ユくんは殴り合いのポーズをとる。
「……かかってこい」
「はあ?マジ何言ってんの?キモッ」
「あ、なんか、護衛人を倒すと、次自分が護衛人になれるらしいよ!笑」
「えー!まじか!じゃあ、私たちがその枠貰っちゃおうかな~!」
女は、またミライ・ユくんに手を出そうとした。流石に僕は隠れていられなくなった。
「——やめろ!!」
そう言おうとしたその時。
パシッ!
キアロくんが、ビンタしようとした腕を掴む。
「は?」
女は困惑している様だった。
「……お前らも、我々に戦いを申し込みに来た不届きものか。なら、私が相手をしてやろう」
ギュウウ……腕を握る手に力を籠める。
「ちょ!?!?痛い痛い!!離せよ!!」
「そういうわけにもいかないねえ……敵ってんなら、容赦はしないよ?お姉さん方」
グリザイユくんが、刀を抜いて女性たちに向ける。刃は、目玉にささるあと数cmのところでピタリと止まった。
「は、い、いや、ちょっと弟に挨拶してただけだし……!ほら、帰るよ!カコミ!!」
女性は帰っていった。妹と思われる女性も、
「ちょ!?姉さん、待って!」
と言って、去っていった。
「……大丈夫か、ミライ・ユ殿」
「ごめんね……すぐに来るべきだった」
キアロくんとグリザイユくんがミライ・ユくんに声をかける。ミライ・ユくんは……涙を流していた。
「!」
僕が何か声をかける前に、ミライ・ユくんはスタスタと玄関に向かって歩く。
「あ、ミラ……」
「……話しかけんじゃねえよ」
静かに、そう言って、家の中へと姿を消してしまった。僕は……。
何も、出来なかった。
大切な人が、目の前であんな顔をしていたのに、声をかけることすらもできなかった。ただ、黙って見てた。何もしなかった。
僕は……。
「……ちょ!カゲエちゃん!手!血出てるよ!」
「……?」
自分の手を見てみる。ギリギリと握りしめた手には、血が滲んでいた。
「あ……」
「……急いで手当てしよう、カゲエ殿」
そう言って、二人は僕を部屋まで連れて行って、手の手当てをしてくれた。僕は……。
ミライ・ユくんの顔が、忘れられなかった。




