第十三章 隠されてきた過去
夜。皆で食堂に集まる。いつもの、皆との楽しい晩御飯タイムだ!だが……。
ミライ・ユくんは、来なかった。しかも、今回のメニューはミライ・ユくんじゃなくて、料理長が考えたやつらしい。もちろん美味しい且つ栄養満点で完璧な料理だ!でも……ミライ・ユくんが考えたメニューが、食べたかったな……。
「……」
「……」
グリザイユくんもキアロくんも、静かにご飯を食べる。トロンプくんとバロロさんは不思議そうにしていた。
「……よし」
僕は決意する。
「ミライ・ユくんにご飯運んでくるね」
「「!」」
グリザイユくんとキアロくんは顔を見合わせたが……、
「ああ、行ってらっしゃい!」
優しくそう言ってくれた。
◇
……ミライ・ユくんの部屋の前で、静かに一呼吸をする。少し、緊張する。でも。
コンコン!
ミライ・ユくんは、僕に沢山勇気をくれてきた。だから、今度は僕が勇気を出さないと!
「……ミライ・ユくーん」
返事はなかった。でも。
「晩御飯持ってきたよ!よかったら、食べない?」
「……」
「今日は、ハンバーグだよ!」
「……」
「もう、フォーク入れた瞬間に肉汁があふれてさあ!」
「……」
返事は、ない。
だんだん——ミライ・ユくんの顔が頭に浮かんできた。
あの、すごく悲しい顔。
何も、してあげられなかった。
『話しかけんじゃねえよ』
その言葉が、僕の心に突き刺さる。
「……一緒に……グスッ……食べ……グスッ……よ……」
気付いたら僕は、泣いていた。
……いや、泣くな。僕。泣きたいのは、ミライ・ユくんの方じゃないか。姉にあんなことをされて言われて、それを僕たちに見られて……。
でも、ミライ・ユくんのことを思うと、悲しくて、不憫で、涙が止まらなかった。
「……グスッ」
手に持ってる料理が、おぼんの上でカタカタと揺れる。その時。
ガチャリ。
ドアが開く。
中には、ミライ・ユくん。
「……何泣いてんの」
「……う」
一瞬の沈黙。そして。
「うわああああああああん」
僕は大号泣した。流石にミライ・ユくんもびっくりしたみたいで、
「え!ちょっ!泣くなよ!!」
「うわあああああああああああああん!」
「ちょ!!い、一旦部屋に入れって!ご飯机に置いて!」
ミライ・ユくんは僕からご飯を奪って机において、僕をソファに座らせた。
◇
数分後。僕はソファでミライ・ユくんの毛布にくるまっていた。もふもふふわふわ。
ミライ・ユくんは、隣に座って、黙ってハンバーグを食べてる。そして、
「……ほらよ」
半分に切ったハンバーグを、僕に差し出した。
「……?」
「一緒に食べよって言ったの、そっちだろ」
プイと横を向くミライ・ユくん。
「……ふふ」
なんだか、笑みがこぼれた。ハンバーグを受け取る。
「……なあ」
ミライ・ユくんが僕に言う。
「……なあに?」
「……インパスト家って知ってるか?」
「インパスト家?なんだろう……?」
初めて聞く名前だ。
「インパスト家は、魔法の名門貴族なんて言われてる、まあエリート貴族って感じかな」
「ふーん。そのインパスト家がどうしたの?あ、まさかあの二人は……」
「……あの二人だけじゃない」
ミライ・ユくんは僕の方を振り返った。
「……俺の本当の名前は、ミライ・ユ・インパスト。俺はインパスト家の長男だ」
「……え!」
それから、ミライ・ユくんは、ぽつりぽつりと自身の過去を話し始めた。
「インパスト家は、男ってだけで俺に家を継がせようとしてな……当然、先に生まれたイマカとカコミは気に食わねえよな。それだけは、同情するぜ。で、その点、俺には重大な問題点があってだな……」
「問題点?」
「ああ。……俺には、魔法特殊能力が、無いんだ」
「えっ!!」
確かに、ミライ・ユくんの魔法特殊能力は考えてなかった。必要ないかと思っていた。だって、まさかそんな過去があるなんて……!
「最近、敵はよく俺に向かって襲ってくるよな。それは、俺が魔法特殊能力がない雑魚だからなんだ」
「それは違う!!」
「お……!?」
僕は大声を出した。
「ミライ・ユくんは雑魚なんかじゃない!いつも、僕のことを一番に考えてくれて、守ってくれて……!僕は、ミライ・ユくんにどれだけ救われてるか、分かってるの!?」
思わずキレ気味で言う。そうすると……。
「……ぷふっ」
ミライ・ユくんが吹き出した。そして、大笑いする。
……なんだか僕もおかしくて、大笑いした。二人で、沢山笑った。笑いつかれて、ソファに横になる。
「……でな」
「ん?」
「周りのやつらからは、まだか、いつ目覚めるんだってばっかだし。イマカとカコミのクソ姉からは嫌がらせされるしでさ……家出しちゃったよ。家の全財産盗んで」
「ええ!」
「で……適当に辺りを放浪して、車の免許取りながら生活してきたんだ。俺には魔法特殊能力が無い。だからせめて、車の運転を極めようと思ったんだ。ほら、なんかマフィアって車の運転で移動してるイメージ無い?結構重要視されるかなーってさ。」
うんうんと優しく話を聞く。
「そうしていく内に……いつの間にか俺は最強の車の運転技術を身に着けた。Venom Desireの採用管にも認められてな、そうしてVenom Desireに入って、色んなやつを車に乗せて来たよ……。車にゴミ置いてくヤツ、目的地雑に言うヤツ、普通に暴力ふるってくるヤツ……結構いい思い出ないな(笑)」
でも、次にミライ・ユくんは、笑顔になる。
「……でも、めっちゃ頑張った甲斐あって、ボスにも俺の腕前の話が届いたんだろうな!こうしてカゲエくん親衛隊の一人に任されて、めちゃくちゃドキドキしながら豪邸に行って絵の前で待ってたんだぜ!で、いざボスのご令弟が出て来たと思ったらさ……友達みたいな感じで行きたいだあ!?!?もう、超困惑したぜ!!」
「あはは……!」
出会った当初のことを思い出す。そんな会話もしたっけな。
「正直、これは何か試されてるんだと思ったよ。言葉通り友達みたいな感じで話したら即クビになるんじゃないかって……でも、カゲエくんの、顔がさ……。優しかったんだよ。めっちゃ!」
ミライ・ユくんがニコニコしている。
「だから……友達風に接した。そしたら、カゲエくんは安心したような顔になって……で、その後ゲームもしたよなあ。あれめっちゃ楽しかった!ゲームやったのなんて、ガキ以来だぜ。そのゲームも、クソ姉に水かけられて壊されたし。絶対、またやろうぜ!」
「うん!なんなら、今からやらない!?」
ハンバーグを食べ終えた僕は、ミライ・ユくんに提案する。ミライ・ユくんはちょっと驚いた顔をしたけど、すぐ笑顔になって、
「いいね!やろうやろう!」
そして、僕の部屋にいって、ゲームを起動した。最初はレースゲーム。その次は対戦ゲーム。謎解きストーリーゲームもやった。ワイワイ遊んだ。沢山話した。
僕も、ちょっとだけ過去の話をした。少しだけ、嫌がらせを受けたことがあること。信頼できる人が、兄さん以外居なくて、その兄さんとも離れ離れになってしまったこと。今まで友達なんかできなかったこと。
ミライ・ユくんに比べたら、なんだかどれも軽い過去のように思えてきた。でも、ミライ・ユくんか真剣に聞いてくれた。
「なんだか僕たち、少しだけ、少しだけだけど親友になれた気がして嬉しいな……」
「は?」
「あ、ごめん!今の忘れて!」
焦る僕をよそに、ミライ・ユくんはこう言った。
「……とっくにもう、親友だと思ってたわ」
「!」
顔を見合わせる。そして。
大爆笑する。
二人の笑い声が、家のどこまでの響いていたのだった。




