第五章 新たな出会い
朝……起きる。目覚まし時計の音は、うるさすぎず静かすぎず、ちょうど良い具合だ。ここまで徹底されてるなんて、驚愕ものだ。部屋を出て、隣の扉の前に立つ。
「おはよう、ミライ・ユくん!」
ミライ・ユくんは僕が起きる予定の時間の一時間前には起きていると言っていた。もう起きているはずだ。彼からの返事を待つが……返事は来なかった。
「あれ?トイレにでも行ってるのかな?」
ミライ・ユくんに挨拶しに行くついでに、ちょっとこの豪邸を探索することにした。自室に戻って、備え付けの洗面所で顔を洗い、歯を磨く。そして、服を着替える。昨日ミライ・ユくんに用意してもらった服。黒いスーツ、白いシャツ、黒いネクタイ。そして、Venom Desireの一員の証のバッジ。黒を基調とていて、金の文字でVDと書かれていて、光にかざすときらきらと反射して、かっこいい!
「よし、行くかな!」
ピシッとスーツを伸ばし、カッコよくキメる。ふふっと笑うと、豪邸を探索しに歩き出した。
◇
本当に広い廊下だな……。先から先まで、何個か数え切れないほどの扉があって、目眩がしそう。ここは昨日、晩ご飯を食べた部屋かな?扉は閉まってるけど、一段階大きな扉をしているから分かりやすい。
食堂を通り過ぎようとしたその時——
パリーンッ!!
「!?」
中からお皿が割れる音が聞こえた。すると、中から怒鳴り声が聞こえる。
「テメエ!!何してくれるんだよ!」
「悪い……綺麗な芸術品を見るとつい壊したくなる癖があってだな……」
「はあああ!?!?」
「キモッ」
「意味がわからん……」
「グリザイユ、言い訳はいいから早く直しなさい」
「はいよー」
「おい!話はまだ終わってねえぞ!!」
なんだかわちゃわちゃしている。そおっと中を覗き込むと……。
「はい、直しましたよーと!もう、そんなに怒るなよなあ……ミライ・ユ?だっけか」
あれは……親衛隊チームの一人、グリザイユだ!不気味なほどのニコニコ顔に、赤い×の飾りがついたスーツ。肩には長すぎるほどの超ロング刀を背負ってる。
「カゲエ様がこの音聞いたらどうするつもりだったんだよ!」
ミライ・ユくんだ!なんかめっちゃ怒ってる……。口調、結構荒いんだな。意外……。
「まあまあ、そう怒鳴るんじゃない、ミライ・ユ。それこそカゲエ様にその姿を見られたらどうする?」
この真面目な感じは……キアロスクーロだ!超高身長に真っ白な天使の羽が生えてる。神々しいなあ……。羽はもっふもふで、仲良くなったら触らせてもらおうかな……あ、でも内側には無数の歯がある口があるんだった。ダメじゃん。
「〜〜♪〜♪」
その少し遠くでノリノリで音楽を聴いているのは……トロンプルイユだ!大好きなジャズ音楽を聴いているんだろう。我関せず、って感じ……少しは心配してあげて!
「はあ……この先、大丈夫か……?」
心配そうに遠くからヤレヤレと眺めてるのは……リーダー、バロックロココ!顔を傾けると、長い前髪がサラリと揺れる。そして……顔を不自然に傾けている。
ん……?ぼ、僕の方を見ている?
手を軽く振ってみる。すると、バロックロココはニコリと微笑んで手を僕に振った。他の皆もそれに気づいてバロックロココの視線の先を向く。
「あ……」
僕が何か言いかけたその時。
ビューンッ!
「!?」
一瞬で机と椅子を綺麗に整とんし、綺麗に僕の目の前に一列に並んだ。そして。
「カゲエ様、おはようございます!昨夜はごゆるりとお休みいただけましたでしょうか。本日も変わらぬご健勝と、輝かしい一日となりますようお祈り申し上げます」
とグリザイユ。
「おはようございます、我が主。朝日もまた、貴方様のお目覚めを祝福しております。今日という日が、更なる栄光に満ちたものとなりますように」
とキアロスクーロ。
「おはようございます、ご令弟。お側に仕えられますこと、至上の喜びにございます。何なりとお申し付けくださいませ」
とトロンプルイユ。
「……!?!?」
僕は、困惑で声が出なかった。さっきまでの様子は一風変わって、めちゃくちゃキッチリとした挨拶だ。奥でミライ・ユくんがポカンと見てる。僕が何も言えないのを察したバロックロココが、
「申し訳ございません、カゲエ様。この貴方様の部下は、貴方に気に入られようと必死で……。改めて、おはようございます。今日もカゲエ様が笑顔で過ごされるよう、私どもがお支えいたします」
と言ってくれた。皆、緊張した眼差しで僕を見つめてる。緊迫した雰囲気だ。
僕は……。
「……そ、そんなに丁寧じゃなくても……大丈夫ですよ。フランクに行きましょう!皆、敬語はやめて!ね?僕とミライ・ユくんみたいな感じで!」
「「「えっ」」」
三人がミライ・ユくんの方を見る。ミライ・ユくんはヤレヤレとした感じで、
「……だからさっき説明しただろ?カゲエ様は……いや、カゲエくんは普通じゃないんだって」
◇
それから、とりあえず三人を席に座らせて、他二人も座ってもらって、皆で朝ごはんを食べることにした。三人は凄く困惑している様だった。バロックロココはなんだかニコニコしていたけど。
朝ごはんを執事たちに運んでもらうことにして、その間にミライ・ユくんに事態の説明を求める。
バロックロココ一同は、深夜にこの豪邸に着いたらしい。もう遅いから明日説明することにして、もう皆寝ることにしたんだって。で、朝になって、いざ説明を始めたミライ・ユくん。今日の予定とか、僕のことを説明した途中に……グリザイユが目の前にあったお皿を割り出して、ミライ・ユくんがブチ切れて、そのまま僕が乱入して……朝から大変だったね、ミライ・ユくん……!
「まあ、お皿をわざと割ったのは良くなかったね、グリザイユさん」
「カゲエ様……この私が至らぬばかりに、ご迷惑をおかけしてしまいました。言い訳をするつもりはございません。必ずやこの失態を取り戻し、再び信用していただけるよう努めてまいります」
「あ、いやその、誰にも間違うことはありますし……そんなに重く受け止めないでください!確かに人に迷惑をかけるのはダメなことですが、これから直していきましょう。ね?」
「カゲエ様……!その様なお言葉をいただけるとは、思っておりませんでした。このご恩、決して忘れることはありません。この身が尽きるまで、貴方様のお側に仕えさせていただきます」
深々と礼をするグリザイユ。
「あっ、ああ……」
それを見て安心する皆。困惑する僕。
「……あの、皆、敬語はやめましょう!僕はただの一般人ですから!仲良く、優しく、フランクに行きませんか……?」
皆目を合わせる。ミライ・ユくんは後方彼氏ヅラをしている。
「あ……そうだ!自己紹介をしましょう!」
ポン、と手を合わせて思いついた動作をする。皆が僕を注目しているので、めっちゃ緊張したけど、頑張って喋った。
「名前と、年齢と、趣味と自由な一言とか……。まずは僕から。名前はカゲエ。年齢は十八で、趣味はイラストを描くことです。……兄は凄い人ですが、僕は全くで……僕なんかにそんなに気を遣わないでくださいね!これからよろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げる。顔を上げると、皆驚愕したような顔でこっちを見てる。焦りながらミライ・ユくんを見ると、意図を受け取ったのか、自己紹介リレーを繋げてくれた。
「……俺の名前はミライ・ユ。年齢は十八で、趣味は車の運転かな。これから皆の日程とかは俺が組んでいくから。よろしくー」
「車の運転得意なんだね!今度乗せて欲しいな!よろしくー!」
相槌を入れながらパチパチと拍手する。ミライ・ユくんは少し恥ずかしそうに笑った。
まだ他のメンバーはシーンとしていたが……プフッと吹き出す声が聞こえた。
「えっ……マジか。こんなにアットホーム感あるとか聞いてないし!あ、私はグリザイユでーす!年齢は十九で、趣味は刀の稽古!できるだけ物壊さないように気をつけまーす!」
「刀使いカッコいい!物は壊さないでね!」
パチパチパチ……。すると、他の皆も口を開け始めた。
「……私の名前はキアロスクーロ。人間の年齢で言うと、十九くらいだ。趣味は紅茶を飲むこと。……見てわかると思うけど、私は人間じゃなくて、天使と悪魔のハーフだ。羽に見えるこれは中に口があるから、不必要に近づかないでくれ。……以上」
「紅茶飲むことなんて、すっごくオシャレだね!羽も神々しくてカッコいい!キアロくんって呼んでいいかな?」
「あ、ああ……構わない」
少し照れるキアロくん。
「えっと……僕の番かな?僕の名前はトロンプルイユ。年齢は十七。趣味はジャズ!聞くのも好きだし、弾くのも大好き!実家がサーカスやってるんで、良かったら見に来てくださーい」
「ジャズ弾けるなんてめっちゃ凄いね!サーカスも今度見に行きたいな!トロンプくんって呼んでもいい?」
「えーいいよ!僕もカゲエくんって呼んでいい……?」
恐る恐る確認するトロンプくん。僕が笑顔でうなづくと、笑顔になってくれた。
最後はバロックロココ。
「私の番かな?私の名前はバロックロココ。年齢は二十八で、趣味は映画鑑賞。カゲエ親衛隊の副リーダーをさせてもらうよ。よろしく」
「えっ?リーダーは……」
「リーダーは君だよ?……カゲエくん」
「あ……そ、そっか」
思わずたじろぐ。その様子を見ていた皆が笑った。僕も釣られて笑う。
「えっと、バロックロココさんでは長いから……」
「あ、私提案ありまーす!」
グリザイユくんが手を挙げる。
「バロロさんはどうすか?」
「お、いいね」
「バロロ……」
バロックロココさんは一瞬苦笑いしたけど、諦めたようで、
「……まあ、良いよ」
「「やったー!」」
グリザイユくんと手を合わせて喜ぶ。なんだか、一気に仲間が増えた。そして、
「皆、来てくれてありがとう。兄のためにも、改めてこれからよろしくお願いします!」
深々と礼をする。そうすると……。
「いや、礼したいのこっちだから!こんなに良い人だとは思ってなかった!」
「……こんなに良い雰囲気な職場だとはな。安心した」
「ミライ・ユの話マジだったんだねえ、ま、カゲエくんこそそんなにかしこまらないでよ」
「……はは、これから楽しくなりそうだね」
皆、温かい眼差しをくれた。……こんなに心が温かくなったのはいつぶりだろう。僕には、仲間がいる。その事実が僕の目頭を熱くさせる。でも、泣かない。涙は、抗争に勝つまで取っておかなくちゃ!
こうして僕は、カゲエ親衛隊のリーダーとなったのだった。
今回のキャラ紹介イラストは、私の親愛なる隣人が描いてくれました!やった~!




