第四章 新たな生活
それからしばらく、兄さんと話していた。最近あったこととか、大学で学んでいることとか。あまり詳しいことは話さずに、自然になるように。兄さんはうんうんと聞いてくれた。今度は兄さんの話も聞いた。兄さんは借金取りに誘拐された後、自分で抜け出してなんとか教会に逃げ、その教会の孤児院で生活してきたらしい。大人になった後、同じ孤児院で育った人たちと、他のメンバーも合わせて七人でVenom Desireを組んだらしい。目的は、お世話になった教会を守るため。縄張りの犯罪を無くすために、戦ったり、取り締まったりしてきたらしい。そうしていくうちに、同じ志の人が集まって、どんどん増えて、いつの間にか巨大組織になって行ったそうだ。兄さんは淡々と語っていたけど、相当大変な思いをしてきたんだろうな。僕でもそれが分かった。
「……さて、もうこんな時間か。もう外の世界では夕方なんじゃないか?晩御飯を食べないとな!」
「……兄さんたちはしばらく絵の中にいるんだよね?どうやって生活するの?」
「ああ、それはだな。あー、詳しくは言えないんだが、何でも物をポンと生み出せる魔法能力を持った奴がいてな。物資はそいつに任せるかな。連絡手段は魔法電話があるから大丈夫だ」
「そうなんだ」
「それより、カゲエの方がガラッと生活が変わるかもな」
「え?」
「黒い豪邸に来ただろ?あれ、元々荷物置き場とか来客場にしてたんだけど、カゲエにやるよ」
「え!?」
まさか家をもらえるなんて……驚きすぎて声が出ない。
「それにカゲエが俺たちに関わったことは恐らくもう敵にバレてると思う。これから忙しくなるぞ……!」
「うん……!」
そうだ、これから戦うことになるんだ。気を引き締めないと!
「安心してくれ、カゲエのために、Venom Desireの中でも屈指の実力をもつエリート魔法使いたちを集めておいた。その名も……カゲエ親衛隊!」
「……あはは、なんかそのまんまだね」
「はは、まあ名前は後で好きに決めておいてくれ。彼らがカゲエを全力で守ってくれるだろう。何せボスの俺からの直々のお願いだからな……。明日辺りに集まると思う」
恐らくミライ・ユ、グリザイユ、キアロスクーロ、トロンプルイユ、バロックロココのことだろう。見た目も何となくなら決めてたけど、実際に会えるのが楽しみだな!
「今日はすでに一人呼んでおいてる。その名も、ミライ・ユだ」
お、早速名前が上がった。
「ミライ・ユは非戦闘員だが、カゲエが一番お世話になる存在だと思うぞ。そうだな、簡単に言うとカゲエの専属マネージャーってとこかな。一日のやることからご飯のメニューまで、彼が全部決めてくれる。実際にご飯を作ったり洗濯してくれたりするのは執事やメイドたちだがな」
「執事やメイド……!そんな凄い方々まで!」
「はは、世界一大事な弟なんだ、当たり前だろ?」
また兄さんはそう言うことを平気で言う……。
「先程絵の外で待つように伝えておいたから絵から出たらすぐに会えると思う。俺は会ったことないが、部下によると気さくで話し上手な良い奴らしい。きっとすぐ仲良くなれるさ。歳も一緒だったかな」
「ちょっと緊張する……」
思わず口に出てしまう。自分が作ったキャラだとしても、仲良くなるように設定しといたとしても、やっぱり今から知らない人といきなり仲良くなりに行きましょう、なんて言われたら緊張しちゃうなあ……。
兄さんは、ははっと笑った。
「大丈夫だよ。カゲエなら。そして、これだけは忘れるな」
「うん?」
「……俺は、いつもカゲエのそばにいるからな」
「……うん!」
「まあ、この絵画カゲエに持ち運んでもらうし物理的にマジに近くにいるんだけど!笑」
折角感動的な雰囲気になったのに台無しだ。まあ兄さんのそういう冗談めいたとこも大好きなんだけど。
そして、兄さんに別れを告げて絵の外へと出て行った——
◇
「……よっと!」
世界が彩りを取り戻し、視界がはっきりする。椅子に立てかけておいた絵画から出てくると、早速、
「あ、カゲエ様!良かった!出てこないかと思いましたよー!」
「!」
すぐ近くで声がした。声がした方を見ると、同い年くらいの男子が立ってた。黒いサングラスがチャームポイントの……ミライ・ユだ。
「初めまして。ミライ・ユと申します。ボス直々のご指名、誠に恐縮です。これからカゲエ様の身の回りの管理をさせていただきます。よろしくお願いいたします!」
直角九十度と言って良いような礼をぺこりとするミライ・ユ。
「あっ、ああ、そんなにかしこまらないでください!その……と、友達みたいな感じで行きませんか?例えば、お互いをくん付けで呼び合うとか!敬語もやめてさ!」
ミライ・ユはすごく驚いた顔をした。
「……本当によろしいのですか?」
「よろしいも何も!同い年?らしいし!ね、ミライ・ユくん?……」
自分で言いながらも、ちょっと恥ずかしそうに呼んでみる。誰かをくん付けで呼ぶなんて何年ぶりだろう。気づけば僕はいつからか友達がいなかった。だから、こうして友達の様な存在ができるのは本当に久しぶりだ。
「……」
ミライ・ユくんはまだ何か言いたそうな顔をした。けど。
「……分かったよ。なら、敬語はやめようか。友達同士で行こう、カゲエくん!」
ホッとした。引かれないで良かったぁ〜〜!
「早速だけど、今日の晩御飯のメニューを決めてもらって良いかな?」
「晩御飯?」
「うん。AメニューとBメニューを決めておいたから、そこから選んでくれる?」
「ありがとう!分かったよ」
「Aメニューは、前菜にサーモンのカルパッチョ・スープにコーンクリームスープ・メインの肉料理は牛フィレ肉のロースト・デザートにベリーのタルト、だよ。Bメニューは前菜に小エビのサラダ・スープにかぼちゃのスープ・メインの肉料理に鶏肉のロースト・デザートにチョコレートムース、だよ!どっちにする?」
「???」
き、貴族の料理かな??豪華すぎて途中でキャパオーバーした……。
「……カゲエくん?」
「あ、ああ!えっと、Aメニューでお願いしてもいい?あと、これからはもう少し庶民的な感じだと嬉しいというか、僕にはちょっと豪華すぎるというか……!」
ミライ・ユくんは驚いた顔をした。
「そう?ボスのご令弟なんだからこのくらい普通だよ」
兄さんたちは普段こんな豪華な食事をしているのか!?この豪邸をポンとくれるくらいだし、そりゃ大金持ちだとは思うけど……。
「あ、あはは。でも、僕にはもう少し庶民的なのがいいな。それに僕は何にも凄くないから。凄いのは兄さんで、僕はそのおこぼれを貰ってるだけというか……」
「……」
ミライ・ユくんは考え込んだ。そして。
「……まあ、そうしたいなら、そうするね!なんか、カゲエくんって優しい人なんだね」
「え?」
「普通、自分が何もしてなくても、家族に組織のボスがいたら威張ったりするものだよ。それでも、カゲエくんは逆に自分を卑下してる……正直、凄く驚いたよ」
ミライ・ユくんは笑う。
「カゲエくんが優しい人で、本当に良かった!」
濃いめのサングラスが少し透けて、笑顔が見える。その笑顔に、思わずドキリとした。
「僕こそ、ミライ・ユくんが優しい人で良かったな!」
ミライ・ユくんは一瞬困惑した表情を見せて、また笑顔に戻った。
「そうかな?まあ、ともかく。料理班にメニューを伝えてくるよ。一時間くらいでできると思うよ」
一時間……!魔法があるからか、凄く早いんだな。魔法ってやっぱり凄いや……。
「それまで、カゲエくんの部屋にいろんな娯楽セットを用意しておいたから、待っててもらえるかな?」
「え!そんな!どんなものがあるの?」
「今流行ってるゲーム全般に人気の漫画とか、あとテレビには映画やアニメが入ってるよ」
凄すぎる!!
「それは良いね!ミライ・ユくんは何するの?」
「ん?俺は明日の予定を確認するけど……」
「その……もしそれが終わって、時間できたらで良いんだけど、一緒にゲームしない?」
「はは、もちろん!一緒にやろう!」
約束をして、部屋へと案内してもらった。部屋にはふっかふかのデカいベットやら、デカい壁掛けテレビやら、ピカピカの広い机にソファまで……ここは夢の楽園ですか???ミライ・ユくんの部屋は隣で、困ったことがあったらいつでも呼んで良い、とのこと。しばらくアニメを見て暇つぶししてたらミライ・ユくんが部屋に来て、一緒に遊んだのだった。誰かと一緒に遊ぶのは兄さんと遊んだ以来で、本当に楽しい時を過ごしたのだった!
◇
ゲームで遊んでいると、ミライ・ユくんのポケットから着信音が聞こえた。電話によると、どうやら晩御飯ができたそうだ。
「ここのシェフもボス直々に選ばれたそうだから、めっちゃ美味しいはずだよ!」
ご飯を食べる部屋に向かいながら、ミライ・ユくんはそう言った。
「それは楽しみだね!」
部屋に近づくたびに良い匂いがしてきて、思わず涎が出てきそう……部屋に着くと、これまただだっ広い机の上にテーブルクロスがかけられていた。
「カゲエ様、どうぞ」
僕の席へと案内される。一番端の、いわゆるお誕生日席といった場所だ。ミライ・ユくんはその遠くの向かいに座ろうとしたが、
「良かったら、近くで一緒に食べない?」
と言う僕の言葉に賛同してくれて、隣で食べることになった。僕たちが砕けた言葉で話しているのを見て、執事たちは相当驚いているようだった。
夕暮れの光が大きな窓から差し込み、磨き上げられ銀の食器を淡く照らしていた。最初に運ばれてきたのは、サーモンのカルパッチョ。レモンの爽やかな香りとハーブの風味が広がり、これから始まる晩餐への期待を静かに高めていく!
「(前菜って、ただ空腹を満たすためのものじゃないんだな……)」
思わずそう感じさせられる。それほど一皿目から、料理人の細やかな心遣いが伝わってきた。
続いて現れたのは、湯気を立てるコーンスープ。スプーンですくうと、なめらかな舌触りと共に、コーンの深い香りが広がった。濃厚でありながら重すぎず、温かさが体の奥へゆっくり染み込んでいく。
そして、晩餐の主役が運ばれる。牛フィレ肉のロースト。お皿の上に置かれたその姿は、まるで絵画の一部のようだった。美しく焼き上げられた表面、切り分けた瞬間にあふれる肉汁。赤ワインソースが静かに絡み、香りだけで食欲を刺激する。ナイフを入れると、驚くほど柔らかく刃が進んだ。口に運んだ瞬間、肉本来の豊かな旨味が広がり、そこへソースの奥深い甘みと酸味が重なる。力強い味わいなのに決して主張しすぎず、まるで長年仕えてきた執事のような、落ち着いた品格があった。添えられた温野菜は素材の甘さを残したまま仕上げられている。豪華でありながら、どこか家庭的な温かさがある。
「(贅沢とは、珍しいものを並べることではないのかもしれない……)」
そう思わせる一皿だった。
最後に運ばれてきたのは、ベリーのタルト。鮮やかな赤や紫の果実が飾られたその姿は、まるで小さな庭園のようだった。甘酸っぱいベリーと、香り豊かな生地、そして添えられた冷たいバニラアイス。肉料理までの重厚な余韻を、優しくほどいてくれるような味だった。晩餐が終わる頃には、皿の上には何も残っていなかった。しかし満たされたのは、ただ腹だけではない。料理人が一皿一皿に込めた時間、技術、そしてもてなしの心。それらすべてを味わったような、静かな幸福感が残っていた。蝋燭の火が揺れる晩餐室で、最後のお茶の香りを楽しみながら思う。
今夜の食事は、単なる夕食ではない。
それは、特別な夜という記憶そのものだった。
◇
ご飯を食べ終わった後はお風呂に入ったのだが、これまた広くてめちゃくちゃビビった。こんなに広いお風呂、一人でつかって良いんですかって感じ……。シャワーもゴツくて、高級感ある感じ。シャンプーからは当たり前にいい匂いがして、大人の人って雰囲気だ。歯磨き粉まで美味しい。良い味わいだった。
貴族風な生活を堪能した後は、いよいよ就寝の時間だ。今日はなんだか本当に夢みたいな時間を過ごしたな。あのふかふかの大きなベットを一人で堪能できるなんて……まさに夢心地!
「おやすみ、ミライ・ユくん!」
「ああ、カゲエくん、おやすみなさい!」
そうしてベットについて、寝ることに。当たり前に寝着もシルクの素材のめっちゃ肌触りが良いやつ。これから毎晩こうやって寝れるのかな?それとも……起きたら全部夢でしたーってことになるのかも。そうならないことを願いながら、僕はベットに入る。ふかふかが僕を包み込み、数分もせずにすぐにうとうとし始め、眠りに落ちたのだった——。




