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Venom Desire  作者: 永井健作
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第三章 絵の中の世界へ

 黒いスーツの人たちに案内される。左胸にはバッジをつけていて、バッジにはVDと金の文字で書かれている。これはチームの一員の証だ。僕がデザインしたが、実際に見ると中々いい感じ……。

 そして、しばらく歩いたところである部屋に案内される。

「……この部屋です。この先にボスが待っています。ここからは一人でお行きください」

 どうやら案内はここまでのようだ。

「……ありがとうございました」

 黒いスーツの人たちに向かって深々と頭を下げる。

「……ご健闘を」


 扉を開け、部屋を見る。中には、大きな机があり、いくつもの高級そうな椅子が囲んでいる。窓からは健やかな陽が入ってきている。そして……。

「……誰もいない?」

 すっからかんだ。誰もいやしない。とりあえず、座って待てばいいのかな……?

 一番近くの椅子に座る。ふかふかで、座るとぎゅむっとした感触が伝わってくる。

「おお……!さすが巨大組織が用意した椅子だなあ。高級感段違い!」

「はは、そうだろう?」

「え」

 声がした方を見に顔を上げると……さっきまでいたはずの部屋とは全く違う光景が広がっていた。そこは、真っ暗な裁判所と言うのが近い部屋で、中央に僕が椅子に座っていて、それを取り囲むように、一段高い位置に黒い死神のようなマントを羽織った人々が座っていた。顔は見えない。何を言っているのか分からないかもしれないが、僕にも分からない。

「えっ、え、ここは……!?」

 椅子から立ちあがろうとしたが、なぜか立ち上がれない。見えない何かに動きを封じられているようだ。

「ごめんな、カゲエ。ちょっとだけ動きを封じさせてもらうよ」

「こ、この声は……!」

 兄さん!そう言うと、僕から見て真っ直ぐ真正面に座っている人物が笑みを浮かべた。

「本当に久しぶりだね……カゲエ。元気だったか?」

「……!!」

 顔は見えないが、兄さんだ。言葉の言い方も、全部、昔の兄さんだった。

「最近どうしてた?」

「……」

「ちゃんと飯食ってるか?」

「……」

「また無理してないか?」

 僕は黙った。兄さんは、不思議そうな顔をする。

「おい?」

「……なんでもない」

 これはプログラム。作られた反応。分かっている。分かっているのに。

「兄さん」

「何だ?」

「僕のこと……覚えてる?」

 兄さんは当然のように答えた。

「当たり前だろ」

 迷いがなかった。

「カゲエ、小さい頃から俺の後ろばっかりついてきたじゃん」

「……」

「俺が勉強してたらずっと横で見てたし」

「……」

「かまってやらなかったらすぐ拗ねるし」

 僕の目が熱くなる。

「それ……」

 声が震える。

「本当に覚えてるみたいに言わないでよ……」

「?」

 兄さんは困惑した。

「何言ってんだ?」

 その声すら。兄さんそのものだった。僕は俯いた。泣きそうだった。思わず涙が出そうだ。会いたかった。ずっと。話し方も。仕草も。全部。

「……」

「なあ」

 兄さんが声をかける。

「大丈夫か?」

 僕は慌てて顔を上げた。

「だ、大丈夫」

「嘘」

「……」

「昔から分かりやすいんだよ」

 その瞬間。胸の奥が崩れそうになった。そんなこと言わないでくれ。それは兄さんの言葉だ。でも。同時に。嬉しかった。

「……兄さん」

「ん?」

「僕さ」

「うん」

「また会えてよかった」

「ははは」

 兄さんは、微笑んだ。

「俺もずっと会いたかったよ」

「……!」

「でもな」

「?」

「心はずっとそばに居たよ」

「……!!」

 その言葉で、少し涙が溢れた。でも僕は笑った。

「そうだね」

 そう返した。この世界の兄さんは知らない。自分が作られた存在だということを。自分が本当の兄ではないことを。ただ普通に、弟と話している。昔と同じように。僕は涙を拭った。泣いちゃいけないな。そう思った。この兄さんは知らない。自分が死んだことも。ここが現実じゃないことも。だから。せめて。この世界にいる間だけは。兄さんには普通に笑っていてほしかった。

「兄さん」

「ん?」

「ありがとう」

「急にどうした」

「なんとなく」

「はは。変なやつ」

 兄さんは笑った。その笑顔を見て、僕は思った。偽物でもいい。作られた存在でもいい。自分が作った仮の姿でも。もう一度会えたことが、本当に嬉しかった。

「兄さん」

「なんだ?」

「今度は……置いていかないでよ」

「当たり前だろ」

「……」

「置いていくわけないじゃん」

 その言葉を聞いて、僕は小さく笑った。涙を隠しながら。

「……うん」

 これは本物じゃない。分かってる。でも。この瞬間だけは。確かに。兄さんと歩いてる気がした。


「……感動の再会はそろそろにしといて、本題に入ったら?」

 女性の声がそう言う。というか、この兄さん以外の周りの人物は誰なんだろう?コンビニ行った時のことを思い出す。そういえば、何となくだけど、大幹部の設定を考えていたような……。能力は全員チート級にしたいな。七人くらいにしようかな。一人はカクシエ兄さんで、もう二人はキアロスクーロのお父さんとお母さんがいて、あとはどうしようかな〜、とは考えていたけど、細かい設定はまだ考えていなかった。いつかわかる日が来るのかな?そう思うと、ワクワクした。

 ……というか、ゲームでは大抗争に勝って落ち着きを取り戻したら終わり、って予定だけど……。この世界に終わりはあるのかな?終わったら、本当に僕も消えるのかな……?僕がそんな深刻な疑問を抱えている間にも、会話は続いていた。

「おっと、そうだった。カゲエ、感動の再会タイムは一旦休憩にして、これから大事な話をしたい。よーく聞いてくれ。これはカゲエのこれからを左右する大事な話なんだ」

 ゴクリ。さっきの雰囲気とは一風変わって、重い空気になる。

「カゲエ、覚悟はいいか?」

「……うん。できてる」

 そういうと、また一段階雰囲気が重圧される。これが巨大組織の風格か……。

「カゲエは、Venom Desireって組織を知ってるか?普段は、そうだな……お店の運営とか、縄張りでの犯罪を取り締まったりしているんだ。カゲエが普段大学に行ってる場所も、ウチの縄張りだったな」

「うん、なんとなくなら知ってるよ」

 その組織、僕が作りました!なんておふざけでも言えない雰囲気だ。まあ、ある意味本当なんだけど。でもこの世界では兄さんが作ったことになってる。なんか不思議な感じ。

「……そのVenom Desireを立ち上げたのは、俺なんだ。俺、カクシエがVenom Desireのボスだ」

 空気が変わる。ひしひしとした視線が僕に集まる。僕は……。

「エエエエエエ!!ソンナー!ソウダッタノカー!!」

 めっっっちゃ頑張って演技した。これでも頑張った方だ。ゲームでも、ここは驚くシナリオだし、上手く物事が進むようにしないと!

「……で、ここからがもっと大事でな。最近、表には出回ってないが、裏社会で俺と大幹部の顔写真が何者かによって流出しちまったんだ。」

 ん?情報がちょっと増えてるな。大幹部まで流出したのか。まあ、そうだよな。普通、弟に頼らないで大幹部がなんとかすればいい話だもんな。大幹部すら動けない理由を作らないとな……。勝手にうんうん納得したところで、話は進む。

「おまけに巨額の懸賞金までかけられちまって……。ったく、俺だけでも100億だぜ?」

「そ、そんなに……!」

 懸賞金も何となくは考えてたけど、そんなにとは。思わず驚く。本当に。

「で、そこでだ」

 ふう、と一息入る。

「カゲエ、最近自分の体に変化が起きたと感じてないか?」

 変化どころか、一旦死んだんだけどね。

「……変化って?」

「俺は実は今までは魔法が使えなかったんだ。大幹部たちのおかげでここまでやってこられたと思ってる。皆、改めてありがとう」

 くすくすと周りから聞こえる。

「で、この非常事態だ。魔法に遺伝性があるのは知ってるな?カゲエのためにも、俺だけは実は魔法は使えないってことにしといておきたかったんだが……、仕方なく魔法ポーションを飲んで魔法を得ることにした。だが!!!!!」

「!?」

 急に声が大きくなったのでびっくりする。そしたら、後ろからグフっとした声も聞こえる。え?みんな、笑いを堪えてるのか……?

「に、兄さん……?」

 一体、何があったんだ……?

 

「俺の魔法能力はゴミだった!!!!!」

ついに爆笑する人まで現れた。

「え、ええ……!?」

 兄さんの魔法能力については、ゲーム内で使う描写ないし考えなかった。僕がちゃんと設定してあげたらこんなセリフ言わなかったのかな……なんか申し訳なくなる……。

「まじでゴミだ。いやな、魔法能力って、あるだけでも凄いことは知ってるよ。それでも俺の魔法は……ちょっとな……おい、お前ら笑うな」

 なんだか楽しい雰囲気になってきた。思わずホッとする。だが。

「そこで、カゲエの魔法能力に賭けたい」

 一気にシーンとする。それだけ大事なことなんだろう。

「……僕の?」

 この後の展開はもちろん知ってるけど、雰囲気に合わせておこう。

「ああ、カゲエ、最近魔法を使えるようになったことに気づいていたか?」

「いや……知らなかった」

「だろうな。部下に見てもらってたがカゲエが魔法を使う瞬間は見なかったって報告だったし」

 パチンッと大幹部の一人が指パッチンした。すると、突然僕の目の前に水晶玉が現れた。

「わあ!」

「その水晶玉は特殊な水晶玉でな。手をかざすとそいつにどんな魔法能力があるか調べてくれるんだ。カゲエ、最後にもう一回聞く」

「うん?」

 また一息挟んで、兄さんは続ける。

「これからカゲエは俺たちの代わりに戦うことになるかもしれない。最悪、大怪我するかもしれん……それでも、覚悟はあるか?」

 僕は即答した。

「うん。僕は兄さんを守りたい。兄さんが、そうしてくれたように!」

 僕がそう言うと、兄さんは一瞬驚いて、そしてまた笑顔になった。

「そうか……分かった。そしたら、水晶玉に手をかざしてくれ」

 僕はゆっくりと、少し緊張しながら手をかざす。ここにいる誰しもが集中して見ている。これから自分たちの安全を図ることだからまあ当たり前なんだけど。

「……?これは、絵画?」

 手をかざしてしばらくすると、絵画の絵が浮かび上がってきた。ぼやけていてよく見えない。すると、水晶玉は大幹部の一人の手へと飛んでいった。

「!」

「えっと……絵や写真といった芸術作品の世界の中に入り込める能力、らしいぞ。他のやつも連れ込めるみたいだ」

 男性の声がそう言った。

 一瞬の静寂。ゴクリ。唾を飲む。そして。

「……やっぱり、カゲエは凄いな!」

 兄さんはニコッと微笑んだ。周りの人も、なんだかホッとしたような雰囲気だ。

「……よ、よかった、のかな?」

「ああ!大助かりだよ、カゲエ!早速で悪いんだが、俺たちを絵の世界に連れて行ってくれないか?」

 またパチンッと誰かが指パッチンすると、部屋が、最初に来た部屋に戻った。そして。

「この前この家の飾りに描いてもらった絵があってな、草原と小さい家の絵画なんだが、その絵の中に入れてもらおうかな!今持ってきてもらってる」

 すると、後ろの扉が少しだけ開いて、絵がにゅっと出てきた。

「カゲエ、受け取ってくれ」

「う、うん」

 絵を受け取ると、手は向こうへと戻った。

「じゃあ、早速頼めるか、カゲエ」

「ちょっといいか。絵の中に複数人入るには、触れ合ってなきゃダメみたいだぞ」

 さっき水晶玉を読んだ人が言った。

「そうなのか、じゃあ、手繋ごうぜ」

 えー!とか声が聞こえるが、数秒後には大幹部みんな手を繋いでいる。……なんか、ちょっと微笑ましくて可愛い。

 そして、一番端の兄さんが僕に手を差しのべる。

「カゲエ、手、繋ごう」

 また何度だって繋ぎたかった手。

「……うん!」

 ぎゅっと握る。……最後に手を繋いだのは、兄さんが死ぬ時、兄さんの最期の時だった。その手は、冷たくなってしまった。その時を思い出して、また泣きそうになるが、堪えた。少なくとも、今握っている手は温かい。

「……じゃあ、行こう」

 僕は、反対の手を絵へと伸ばす。世界が歪み、色を失っていく——

 色をゆっくりと取り戻すと、辺りには草原が広がっていた。

「……おお、!無事、来れたようだな!成功だ!」

 大幹部の人たちも、喜んでいるようだ。景色を楽しんでいる人もいる。

「ふふ、久しぶりの休暇かしらね」

「……やだここ、虫いるんじゃなーい!?」

 あはは!と言う声が聞こえる。兄さんが、僕に微笑む。

「最近、命を狙いに敵の刺客たちが攻めてくることがほとんどでな……こうして、ゆっくり皆で笑い合えるのは久しぶりだよ。これも全部カゲエのおかげだな、本当にありがとう!カゲエは、やっぱり凄いな!」

「……僕の方こそ、兄さんのおかげでいつも頑張れてるんだよ」

 そういうと、兄さんは笑った。幸せな時間が流れた。

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