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Venom Desire  作者: 永井健作
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第二章 新たな目覚め

 ——目が覚める。光に包み込まれる感覚がする。ここは……まさか、天国かな?でも、何も良いことをしていない自分が天国にだなんて行けるわけがない。でも、辺りは白くて明るい。それになんだかガヤガヤ声が聞こえる。まるで、大学の教室みたいに——


 

「っ!?」

 目を覚ますと、大学の大講堂にいた。相変わらず端っこの方に一人で座っている。まさか、今までのは夢だった……?でも、所々僕の学校とは少し違う。なんか、少しオシャレになっているというか、装飾が少し西洋感漂っていて、センスがある。同じだけど、違う。そんな感じ。

「はいはい、皆さん、静粛に」

 先生らしきひとが巨大な黒板の前に歩いてくる。……知らない先生だ。見たことない。本当にここは僕の大学なのか?でも、今「ここはどこですか?」なんて、こんな大勢の前で聞きに行く勇気なんてあるわけない……。

「さて、今回は夏休み前最後の授業ですね。皆さん夏休みは楽しみですか?」

 はーい!あはは!という声が聞こえる。夏休み?僕の学校では、夏休みまであと三週間ほどあったはずだ。やっぱりここは違う学校なのかもしれない。でも、それならなんで僕はここに座って授業を受けているんだ?しかも、今はお昼過ぎだろうか。さっきまで夜中の二十一時だったはずだ。もう……頭がパンクする!!

「それでは、授業の方始めますよ」

 もう、とりあえず授業を受けよう。なんでか分からないけど目の前にはノートと筆箱と鞄もあるし!

 授業内容は、美術の歴史について学ぶ内容だった。眠たくなる感じのやつだ。でも知らない場所?で緊張して目がギンギンで寝れるはずがなかった。授業の終わりを告げる鐘が流れ、先生が言う。

「あ、授業終わりです。皆さん浮かれずに気をつけて帰るように!」

 言い終わる前に、ゾロゾロと生徒たちが帰っていく。……とりあえずついていくか。それにしても、この学校は本当に僕の芸術大学と構造が似ている。でも少し違う。不思議で、少し気持ち悪い。ついて行った先には、思ったとおり玄関があった。外を出ると……。

「……えええっっ!?!?で、電車が……!?」

 外は、いわゆる街中だったのだが、なんと、電車が空を飛んでいたのだった!衝撃で言葉が出ない。しかも……更に空を見上げると、空を箒で飛んでいる人までいる!!

「ま、魔法使い、!?!?」

 ふと、ひそひそ声が聞こえてきてハッとすると、周りの生徒たちが僕を見て何か話している。カーッと顔が赤くなって、逃げるようにその場を走っていった。


 ◇

 走っていく途中にも、いろんな物を見た。喋る花に、それとお喋りする妖精っぽい生き物に、魔法薬屋と書かれた看板だったり……ここは、ファンタジーの世界なのか!?公園を見つけて、休憩がてらに入る。……ベンチかな?背もたれがついた木の板が浮かんでいる。腰掛けると、ふわりとした感触がお尻を受け止めてくれた。周りの花壇を見ると、やっぱり妖精っぽい生き物がいる。バチッ!目と目が合う。にこり。微笑んでくれた。

「……」

 と、とりあえず失礼の無いよう微笑み返そう。微笑み返すと、そのままどこかへ行った。

 ……なんなんだここは!?誰も何も不思議がっていない。しかも、大学でもそうだったが、何となく外の道も僕が元いた世界に似ている。ここは……パラレルワールドといった場所か!?

 プルルルルル——

 鞄から電話の音がする。慌てて音を探すと、スマホがあった。そこには。

「非通知?誰からだろう……?」

 こんな時に知らない相手から電話がかかってきた。でも、何か情報が得られるかもしれない!出てみることにした。変な勧誘とか無いと良いんだけど。電話に出るボタンを押すと、ピッと音がなって通話が始まった。

「……もしもし」

 恐る恐る声を出す。すると……。

「……久しぶりだね、カゲエ」

「え」

 僕の名前を知っている。いや。それよりも。この声。

 この優しい声。誰よりも優しい声。

「兄さん!?!?!?」

 兄さんの声だ。忘れるわけがない。何回だってまた聞きたかった。

「に、兄さん……?本当に兄さんなの?」

「ああ。そうだよ。俺、カクシエだよ」

 カクシエは、兄さんの名前だ。本当に兄さんだ……思わず涙が溢れる。我慢なんかできない。

「うう……ぐすっ。兄さん……また、話せる日が来るなんて……ぐすっ」

「はは!何泣いてるんだよ!そんなに俺と話せるのが嬉しいか?」

「当たり前だよ!……ぐすっ」

 泣きながらも、状況を整理しようとする。兄さんは……天国に行ったはずだ。そうするとなると、ここは天国かな?最期に兄さんみたいになろうと奮闘したことが、天国に行けることに繋がったのかもしれない。またしても、兄さんが助けてくれたのかな。

「兄さん……僕も、兄さんみたいに天国に来れたよ!」

「……ん?天国?何いってんだ?」

「え?だって兄さんは天国に……」

 一瞬、会話が止まる。すると、大爆笑が向こうから聞こえてきた。

「あはははは!!そっか、俺死んだと思われてたんだ!」

「えっ、」

「ははは!そうだよなあ、なんせ、あの日……俺たちは突然来た借金取りによって離れ離れになっちまったもんな……」

「???」

 借金取り??兄さんは何をいっているんだろう……でも、兄さんは僕を置いて話を進める。

「俺、マジであの後色々あってさ……。とにかく、会って説明したいからこっちに来て欲しいんだ。さっき車を向かわせた。今着いたようだな」

「え?」

 ふと公園の入り口を見ると、真っ黒の車があった。さっきまでは無かった車だ。

「近くに黒い車があるだろ?それは俺たちの仲間だから安心して欲しい。車に向かったら、合言葉は?と聞いてくれ。そしたら、ふわふわもっちりパンケーキって答えるはずだ」

「ぱ、パンケーキ?」

「それじゃ!また後で会おうな」

「え!!ちょっと!まだ話したいことが!」

 言い終わらないうちに、電話を切られてしまった。会話を思い返す。借金取り、黒い車、ふわふわもっちりパンケーキ……。

 ハッとする。

 ここは。

 この世界は。

 この展開は。

「ここ、僕が作ったゲームの中!?!?!?!?」


 ◇

 コンビニに行く途中、更に細かい設定を考えていた。ゲーム内での主人公と兄の設定だ。二人は親を早くに亡くし、兄が主人公をたった一人で育ててくれてた、って設定。しかし、途中で親の借金取りが来て、兄が主人公を庇い、借金取りが兄を連れ去ってしまう。そこで二人は生き別れに……。しかし、数年後、大学の夏休みが始まる日に主人公に兄から電話が来て、合言葉はふわふわもっちりパンケーキだと言われる。これは、実際に兄さんが、

「また二人であのふわふわもっちりパンケーキ食べに行きたいな……」

 と病室で言ってくれたことが由来だ。

 まさかな。いやまさかな……でも、あまりにも展開が同じすぎる。何と言っても、死んだはずの兄さんから電話がかかってきた。それに……もし、本当にゲームの世界に転生したなら。また、兄さんに会えるんじゃ……!この後の展開は、当然覚えている。この後、車を何回か乗り継いで街外れの豪邸まで行き、そこで大幹部と兄さんが待っている。そして命を狙われている件について話され、主人公の魔法能力が何か探られる。そして、主人公っていうか、この世界線だと僕、の魔法能力が「絵の中の世界に入り込める」っていうことだと知ると、急いで兄を絵の中に連れ出し、匿う。そして刺客たちを討伐する……。

 これから戦うことになるのか。怖い。最悪、展開通りに行かなくて死ぬかもしれない。でも。そんなことはどうでも良かった。

 また、兄さんに会いたい。

 本物じゃない。僕が作り出した仮の姿でしかない。でも。会いたい。

 僕は、考える間も無く、黒い車に向かって歩き出していた。

「合言葉は?」

 窓に向かって言う。すると、ウィーンと窓が開いて、中の屈強そうな人物がこう言った。

「……ふわふわもっちり、パンケーキ……」

 ちょっと言うの恥ずかしそうだった。可愛い。

「ど、どうも」

 僕がそういうと、後ろのドアが自動で開いた。中には数人いて、覗き込むと笑顔で返してくれた。

「カゲエ様ですね?ボスがお呼びです。どうぞお乗りください」

 通常なら、主人公やプレイヤーはここでボス?となるのだが……僕は作者なので、

「あ、はい」

 軽いノリで車に乗った。そして、車は動き出す。次の車のところへ……。


 ◇

 そこから、十台ほど車を乗り継いだ。敵に居場所がバレないようにするためだろう。車の色も種類も全部違った。また、それぞれ合言葉が違って、全部兄さんとの思い出関連の言葉だ。合言葉を言うたびに、早く兄さんに会えないかと思った。現実世界の兄さんは、僕の一回り上の歳で、僕にとっては本当に育ての親みたいな感じだった。

 どれだけ時間が経っても、兄さんとの思い出は色褪せなかった。兄は昔から優しい人だった。僕が転んで泣いた時、誰より先に駆け寄ってくれたのは兄さんだった。

「痛かったな。でも大丈夫。兄ちゃんがいるから!」

 そう言って、泥だらけになった僕の膝を自分の服の袖で拭いてくれた。母さんも父さんも仕事で忙しくて、学校で嫌なことがあっても、僕には逃げ場所がなかった。同級生にからかわれた日も、先生に誤解された日も、家に帰って黙り込んでる僕を見て、兄さんは何も聞かなかった。ただ隣に座ってくれた。

「話したくなったら話せばいいよ」

 それだけだった。でも、その一言が僕を何度も救った。兄さんは、僕の味方だった。世界中が僕を否定しても、兄さんだけは絶対に僕のことを信じてくれた。

「カゲエはカゲエのままでいいんだよ」

 何度も言ってくれた。僕は、その言葉があったから立っていられた。最期の日だって、僕の心配ばかりしていた。

「ちゃんと飯食ってるか」

「無理して笑うなよ」

「でも、カゲエなら大丈夫だから」

 最後まで僕のことばかりだった。何で僕じゃないんだよ、と何度も思った。兄さんがいない世界なんて、広すぎて、冷たすぎて、歩き方すら分からなかった。でも、二人で写った写真を見て、気づいた。兄さんは、ずっと僕の人生の隣にいてくれたんだ。だから今度は、僕が兄さんのくれた優しさを抱えて生きていく番なんだと思った。窓から空を見上げる。

「兄さん」

 呼んでも、返事はない。これから僕が生み出した仮の兄さんに会いに行く。それでも、昔みたいに、優しい顔で。

「大丈夫。兄ちゃんがいるから」

 そう言ってくれる気がした。僕は目に溜まった涙を拭いて、前を向いた。

「……着きました。カゲエ様、ここでボスがお呼びです。」

 昼下がりの陽光の中、その豪邸は静かに存在していた。空を映し出すような明るい光に照らされながらも、建物全体を覆う漆黒の外壁は周囲の景色とは異質なほどの存在感を放っている。巨大な門は重圧な雰囲気を漂わせ、磨き上げられた黒い石造りの壁は、まるで外からの視線をすべて遮るようにそびえ立っていた。

 けれど、その威圧的な外観とは裏腹に、広大な庭園には穏やかな時間が流れていた。青々とした芝生の上では、色とりどりの蝶が優雅に舞い、花々の間を静かに行き交っている。庭の中央にある大きな噴水からは、透明な水が陽の光を受けながら美しい螺旋を描いて舞い上がり、煌めく雫となって落ちていく。その光景は、まるで高級な庭園を彩る芸術作品のようだった。

 この優雅で美しい黒い屋敷の奥に、Venom Desireのトップたちがいるなんていったい誰が信じられるだろうか。その真実こそが、この豪邸をより一層、不思議で謎めいた場所にしていた。

 ……これから僕は戦う運命にあるんだ。怖い。でも。

 兄さんが守ってくれた僕だから。

 兄さんが信じてくれた僕だから。

 頑張ってみようと思った。

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― 新着の感想 ―
なんだか、面白い展開になりそうですね(^^) 後、最後の方の、広い庭園の説明のような文章ですが、イメージが膨らみました(^^) 本当に素敵な庭園が頭に流れ込み、一度そんな庭園を本当に見てみたいと感じ…
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