第一章 真黒の欲望へ眠る
初めまして。永井健作と申します。『Venom Desire』、始まります。
末永くよろしくお願いいたします!
責任とは、見えない鎖のようなものだ。
そう思っていた。
それは違った。
それは鍵のない扉であり、開ける者だけが中に何があるのかを知る。
……僕の大罪は、鍵を作れなかったことだ。
真黒の欲望が、その宿命を果たすまで——戦い続けると誓おう。
『Venom Desire』
……ここは、ある美術大学。今日も一人で弁当を食べる冴えない男子学生が一人。
——その学生とは、カゲエ。僕のこと。
僕は、はっきり言ってデキナイやつだ。何をやっても結果が残せない。いつも失敗してばかりで、家族にも期待されていない。寂しい毎日を送っている……。
でも、そんな僕でも唯一自信を持てるものがある。それは……今趣味で作ってるゲーム、『Venom Desire』だ!魔法がある世界のマフィアを描いた作品で、彼らの生活を面白く、かっこよく映し出して行こうと思っている。このゲームは、僕の「こういう自分になれたら」が詰まった夢のゲームでもある。
主人公は、普通の美大生だったけど、ある日生き別れの兄が巨大組織、Venom Desireのボスになっていたことが判明する。その影響で、主人公の生活は一変する。豪邸での暮らし。たくさんの部下。プレイヤーが主人公になりきれる、一人称視点のゲームだ。物語の目標は、敵対組織との抗争に勝つこと!
……と言っても、僕に本格ゲームを作れる知識は無いので、文字を読むのが主なノベル系ゲームなんだけどね……。本当はアクションゲームにしたかったな。もっと欲望を言うなら、街をオープンワールドにして、かっこいSDモデルのキャラがぐんぐん魔法を使って戦うゲームにしたい!……まあ、無理だ。プログラミングなんて分からないし。
……話をゲームの話に戻そう。せっかくなら楽しいことを想像しながら過ごしたいしね!魔法があるといっても、表向きは僕が暮らしてる普通の現実世界と変わらない。一部の人間しか持つことが許されない……それが魔法だ。魔法は、一部の膨大な権力を持つ貴族とか、国のトップとか、そう言う一握りの人物しか使えない。超難解名門魔法大学を卒業して、初めて魔法が使えるようになる。一般人には程遠い存在だ。魔法には遺伝性があって、まあ簡単に言うと親族に魔法使いがいたら自分はなんの努力もしなくても魔法使いになれるってこと。ゲームの主人公は生き別れの兄が魔法使いになったことで自分も魔法が使えるようになる。
その魔法は、アート系な魔法にしようと思っている。魔法名は、「メイドインキャンバス」!主人公は、絵の中の世界に入り込めるっていう不思議な魔法を手にする。その力を使って、敵から身を隠したり、絵の中の物を取って来たり、暇な時に軽い冒険ができたり……などなど。
マフィアたちは魔法は、違法な方法で手に入れてる。違法な魔法のポーションを使って魔法を得ているんだ。それによって裏社会では大金と共に闇ポーションが回っている……どう?この設定!
なかなか自信がある。いつかはヒットすること間違いなし!えへへ……。思わずニヤニヤしてしまう。今日はあと一授業だけだし、さっさと受けて、早く帰って続きを作ろう!まだストーリーが未完成だから、細かいところを考えて、絵を描いて、型に嵌め込んで作っていく。さあ、午後も頑張るぞ!
◇
家に帰って、早速創作ノートを開く。今悩んでいるのは、大抗争の様子だ。マフィアの抗争の様子なんて知らないし、魔法を使ってどんな戦いが起きるか……そこが肝心だ。えっと?調べた感じ、派手な感じじゃなくて、暗殺とかの裏で地道に進む感じなのか……。それなら、こうしてみよう。
順調に日々の仕事をこなしていた主人公の兄。ところが、ある日突然顔写真が何者かによって流失し、全世界に顔バレする羽目に。しかも巨額の懸賞金をかけられ、全世界から命を狙われることになってしまう。そこで、裏社会に巻き込みたくはなかったが、仕方なく弟(妹でもおk)を呼び出し、その魔法能力に無事を賭けることに。能力が「絵の中の世界に入り込める」ことだと知ると、早急に兄を絵の世界に匿い、外の世界で兄を狙ってくる刺客たちを仲間と協力して討伐していく——。
ストーリーが完成したぞ〜!早速敵も作っちゃおう!
敵その一……サイレント・サイト
「必中効果があるスナイパー攻撃」と言う魔法能力を持っている敵。
絶対に外さない、外せない弾を撃ってくる敵との戦い。絶対に外せない、ということを敵に利用させ、敵を返り討ちさせる!
敵その二……ヴァイス・ゼロ
「そこから動くな」と言うと相手が動けなくなったりと、命令を強制的にきかせる魔法能力を持つ。相手につき一つまでしか聞かせられない。でもめっちゃ強い。ただ、味方の情報を知らなさすぎて、命令が意味を持たなくなり、倒すことができる!
敵その三……ブラッド・ワークス
兄の情報を全世界にばら撒いた真犯人。世界一の腕前のハッカーで、誰も疑えないような本物としか思えない嘘の情報でVenom Desireを錯乱させる。主人公が一人になった時を狙って主人公に勝負を仕掛ける。主人公に嘘の情報を信じ込ませ、味方のチームは実は全員敵だったと信じ込ませる。混乱する主人公。でも、昔皆で撮った写真の中の世界に無意識に入り込み、そこで皆との絆を再確認して、嘘の情報だったと理解する。そこで敵を捕まえて、皆で敵を倒すことに!同時に組員の絆もかなり深まる。
……いい感じだ!世界一のハッカー、ブラッド・ワークスを倒して甲斐あって、しばらくは誰も襲ってこなくなり、またVenom Desireはいつもの活動を続けられることに。そこでゲームは終わる。
ストーリーが完成した次は仲間の情報を作らないとな!
味方その一……ミライ・ユ。主人公の世話係になってくれる人。身の回りの手助けや管理、主人公専用の運転もしてくれる。非戦闘員。
味方その二……グリザイユ。おちゃらけていて、おふざけ好きなお調子者の性格。普段からとても明るくて、チームのムードメーカー的存在。刀使いで、1.5mもある刀を自由自在に操る凄腕剣士。
能力は「ハッピーエンド・マニア」。物体の「状態」を良い方向へ改変する能力。折れた刀は元に戻り、壁の穴は壊れていない状態に戻り、落ちた武器は手元に戻る。生き物には使えない。
味方その三……キアロスクーロ。人外で、天使と悪魔のハーフ。生真面目で物事をそつなくこなす。なんでも熱心に取り組み、心優しい性格。チームのツッコミ担当。天使の母と悪魔の父から生まれてきた。地獄では見た目が天使に近いため迫害され、天国では悪魔の血を引いているため迫害された。仕方なく地上に降りてくるも、ハンターに狙われ、生活に困っていたところをボスに拾われる。母と父はVenom Desireの大幹部。
能力は「エンジェル・アンド・デーモン」。羽を無数に増やしたり、大きさを変えることができる。羽を投げて相手に噛み付いたりできる。サイズが羽より大きいものは食べられない。羽は頑丈で、どんな物理攻撃も通さない。
味方その四……トロンプルイユ。イタズラ好きな、相手を邪魔するのが大好きな意地悪い性格。実家がサーカスで、ピエロの様な格好をしている。ジャズオタクで、いつもジャズを聞いている。
能力は「ミスター・スポットライト」。自分が指定した場所に「注目」を集める能力。指パッチンで発動可能。索敵・敵の邪魔係。
味方その五……バロックロココ。主人公チームの副リーダー(リーダーは主人公)。勝率圧倒的の勝ち将軍。真面目で常識人…かと思いきや、意外とおふざけが好きだったりもする。天然バカで、よくキアロスクーロにツッコミを入れられる。
能力は……うーん、ここまでくると思いつかないや……。シンプルなものにしたいな……。まあ、チームの作戦係って設定だし、後で考えよう。
そして!
味方その六……カクシエ!彼こそが、主人公の生き別れの兄。主人公のことを大切にしていたが、ある日離れ離れになってしまい、それ以来会えなくなってしまう。でも、離れた先でマフィアチームを立ち上げ、大成功し、現在にいたる。能力は当時の結成員の大幹部しか知らない。秘密が多い存在——それが兄、カクシエ!
ふう、疲れたな…え!?もう二十一時!?いっぱい考えすぎて、こんな時間に……!
……両親は、兄が死んでから心が死んでしまったようだ。
昔、僕には本当に兄がいた。それはそれは心優しい兄で、いつも僕のことを大切にしてくれていた。僕の、イラストレーターになりたいという夢だって、唯一応援してくれた存在だ。みんなから慕われいた。僕が一番大切に思っていたけどね!でも……ある日、病気が判明して……。そして、死んでしまった。それ以来、両親は静かになって、僕に無関心になった。元からそうだったのが、爆発したんだろう。ご飯だって、作ってはくれるけど、今日みたいに僕を呼んで、一緒に食べることはない。
……兄さんに、また会いたい。「Venom Desire」は僕の、「こういう自分になれたら」が詰まったゲームだと言ったが、本当は……。兄さんが、実は遠い国で生きていて、大成功していて、幸せにいて欲しかったという夢を詰めたゲームでもあるんだ……。
「……お腹、減ったな」
今日は、色々考えすぎた。今日は、豪華な食事にしよう。親が作ってくれたご飯は保存して明日食べるとして、今日は頑張ってる自分のご褒美に何かコンビニで買ってこようかな!早速、コンビニに向かおう。
◇
外。暗い夜道を、僕は歩いている。辺りは真っ暗で、誰もいない。
「何買おうかな……」
独り言を呟きながら歩く。コンビニまではちょっとかかる。
コンビニについた。高い物を買おう!るんるんと鼻歌混じりにご馳走を選ぶ。たまには高いもの食べても良いよね。
――その時だった。
「動くな!」
怒鳴り声が店内に響いた。一瞬、何が起きたのかわからなかった。レジの前。黒いパーカーの男がいた。その手にはナイフ。銀色の刃が蛍光灯の光を反射している。店員の女性が震えていた。奥では客が顔を青くしている。
「金を出せ! 早くしろ!」
男がナイフを振り上げる。誰も動けない。いや、動けるはずがない。僕だってそうだ。足が震えている。喉が乾く。心臓が痛いくらい速く鳴っている。怖かった。逃げたかった。今すぐ店を飛び出したかった。
なのに。頭の中に、兄さんの顔が浮かんだ。もう数年前に死んだ兄さん。誰にでも優しくて、馬鹿みたいにお人好しだった兄さん。困っている人を見ると放っておけなかった兄さん。もし兄さんなら。もしここに兄さんがいたなら。どうするだろう。
答えはわかっていた。きっと飛び出していく。損得なんて考えずに。怖くても。震えていても。それでも誰かを助ける。
「……っ」
僕は唇を噛んだ。そんなの無理だ。僕は兄さんじゃない。人付き合いも苦手だし、運動もできない。勇気なんてない。でも。それでも。兄さんだったら。
そう考えた瞬間、体が勝手に動いていた。
「逃げろ!」
自分でも驚くほど大きな声だった。男が振り返る。同時に俺は近くの商品棚を思い切り押した。飲み物のペットボトルが雪崩のように落ちる。男が反射的に身を引いた。
「今だ!」
店員が我に返る。出口へ走った。他の客も続く。悲鳴と足音が入り混じる。
良かった。逃げられる。みんな逃げられる。そう思った瞬間だった。
「この野郎!」
男の怒声。視界の端で銀色が閃いた。熱い。何かが腹に突き刺さった。理解が追いつかなかった。一歩下がる。足元がふらつく。下ろすと、自分の服が赤く染まっていた。
「あ……」
痛みは少し遅れてやってきた。焼けた鉄を押し込まれたみたいな激痛。呼吸ができない。膝が崩れる。床が近づく。男は逃げていった。誰かの叫び声が聞こえる。遠く。とても遠く。世界が水の中みたいにぼやけていく。冷たい床に頬が触れた。
ああ。
僕、死ぬのかな。
不思議と怖くなかった。代わりに思い出したのは兄さんのことだった。
兄さん。
僕、少しは近づけたかな。
ずっと兄さんみたいになりたかったんだ。
優しくて。
強くて。
誰かを助けられる人に。でも結局、一度もなれなかった。最後の最後だけ。ほんの少しだけ。なれただろうか。視界の向こうで、自動ドアが開いている。夜の風が吹き込んでいた。その風が妙に懐かしくて。まるで誰かが迎えに来たみたいで。僕はゆっくりと目を閉じた。遠くで救急車のサイレンが鳴っていた。けれど、その音が届く頃には。もう何も聞こえなかった。




